「喪失」
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あらすじ:
異変を起こしたメイクーモンが空間のゆがみに消えた後、
泉光子郎は感染デジモンの対策を懸命に探る。
だが、高石タケルのパートナーデジモン・パタモンに感染の兆候が見え始め、
八神ヒカリの姿を借りた「安定を望むもの」ホメオスタシスから
デジタルワールドと人間世界の危機を回避する最終手段「リブート」の存在を告げられる。
それは、デジモンたちの記憶が失われるという、大きな犠牲を伴うものだった…
そして暴走するメイクーモンがお台場に出現。
パートナーデジモンが団結して立ち向かうが、仲間たちに感染が広がっていく。
唯一感染を逃れたテントモンは光子郎に別れを告げ、ヘラクルカブテリモンへと究極進化。
メイクーモンとパートナーデジモン全員を歪みの中に押し戻した瞬間、
「リブート」によりデジタルワールドが再起動され、人間世界に日常が戻った。
選ばれし子どもたちは失意の底にいたが、再びデジモンたちに会いに行くことを決意。
姫川マキの助力でデジタルワールドへ向かった彼らは、
記憶をなくし、幼年期に戻ったパートナーデジモン達と対面する…
回想:セピア。
過去。
デジタルワールド。
平穏な森。
晴れた空に突如として巻き起こる雷。
天に現れる昏い水の底。
降り注ぐ雨は、デジタルワールドの大地を濡らす。
小島の上空で走る稲光。
直後、山の斜面の6か所で同時に起きる爆発。
浜辺。
爆炎が晴れ、ツリ目の女の子は起きあがる。
何かに気づいた様子を見せ、あわてて振り返って駆け出す。
その先には、倒れたメガドラモンがいる。
他にも、ヒポグリフォモンと体の大きな男の子、
ローダーレオモンとくせ毛の男の子、
トリケラモンと背の高い男の子、
オロチモンと髪の長い女の子が倒れている。
ツリ目の女の子はメガドラモンに駆け寄る。
― 大丈夫?! ―
ツリ目の女の子はメガドラモンをゆすり起こそうとする。
空には、黒い影のようなものが広がっていく。
ツリ目の女の子たちのもとに海から迫る大波。
― 起きて、ねぇ、起きてってばぁ! ―
ローダーレオモンの側のくせ毛の男の子は目を覚ます。
ツリ目の女の子に揺り起こされたことに気づく。
くせ毛の男の子は顔を上げるも、再び倒れる。
その側には、ゴーグルが転がっている。
― ごめん、お、れ、もう… ―
ツリ目の女の子は焦りの表情を浮かべ、固まる。
遠くの空からは、4体のデジモンが迫ってきている。
メガシードラモン、ムゲンドラモン、ピノッキモン、ピエモン。
間も無く、4体は島の上空にたどり着き、ピエモンが先陣を切って降下していく。
ツリ目の女の子は必死な表情を浮かべ、くせ毛の男の子を起こすべく、その体を揺さぶりつづける。
すると、突然、ツリ目の女の子の瞳が虹色の輝きを放つ。
ツリ目の女の子は表情を失い、ふらふらと立ち上がる。
ピエモンは、ツリ目の女の子たちのすぐ上で静止する。
ツリ目の女の子は振り返る。
ピエモンはツリ目の女の子のほうに向かおうとするが、間もなく、警戒した様子で進行を止める。
くせ毛の男の子は、ツリ目の女の子の様子に気づき、顔を上げる。
ツリ目の女の子は表情を失ったまま、直立している。
その全身からは、光が立ち上っている。
― 私は安定を望むもの
残されたあなたたちが
最後の希望です。 ―
ピエモン、ムゲンドラモン、ピノッキモン、メタルシードラモンは、
上空からツリ目の女の子の様子をうかがっている。
「光から闇が生まれ、闇は北行し水となり、光は南行し火を見る」 (ツリ目の女の子=安定を望むもの)
ツリ目の女の子の手に握られたデジヴァイスの画面が光を湛えていく。
「光と闇の間には風が流れ、光が闇に沈み大地へと帰る」 (ツリ目の女の子=安定を望むもの)
ツリ目の女の子はうつろな表情のまま、唱えるように言葉を紡ぎ続ける。
その様子を、くせ毛の男の子は、顔だけ起こしてみている。
「大いなる力を受け選ばれしものよ」 (ツリ目の女の子=安定を望むもの)
くせ毛の男の子は、ローダーレオモンの方に振り返る。
「その真の力を示せ」 (ツリ目の女の子=安定を望むもの)
ローダーレオモン、ヒポグリフォモン、トリケラモン、オロチモンの体は輝き始める。
それぞれの体は光の玉のようなものに包まれ、浮かび上がる。
ツリ目の女の子の瞳から消える虹色の輝き。
ツリ目の女の子は脱力し、後ろに倒れる。
くせ毛の男の子は起き上がり、慌ててツリ目の女の子の体を支える、
ツリ目の女の子はくせ毛の男の子に請う。
― 早く… ―
ツリ目の女の子はくせ毛の男の子に請う。
― あと ひとつ、だから ―
くせ毛の男の子は不安げな表情で後ろに振り返る。
体の大きな男の子の側のヒポグリフォモン。
髪の長い女の子の側のオロチモン。
背の高い男の子の側のトリケラモン。
ツリ目の女の子は男の子に請う。
― お願い、時間が… ―
くせ毛の男の子は苦悩の表情を浮かべる
― でも… ―
メタルシードラモンとムゲンドラモンは、島に向かって砲撃する。
射線の先にいるのは、ツリ目の女の子とくせ毛の男の子。
砲撃は、着弾する直前、射線に割り込んだメガドラモンによって受け止められる。
メガドラモンは、ぐらりと崩れ落ちる。
くせ毛の男の子の体は光の玉に包まれ、昇っていく。
光の玉の中で、くせ毛の男の子は、何かを訴ながら下方を向いている。
ローダーレオモンの体も一緒に昇っていく。
光の玉に包まれた彼らの体は、それぞれ定められた場所に運ばれる。
西に、ローダーレオモンとくせ毛の男の子。
北に、トリケラモンと背の高い男の子。
東に、オロチモンと髪の長い女の子。
南に、ヒポグリフォモンと体の大きな男の子。
ツリ目の女の子はその様を見上げている。
その傍らで、さきほど砲撃に倒れたメガドラモンの体が光を纏う。
ツリ目の女の子は驚き、体を起こして見ている。
やがて、メガドラモンの体は吸い込まれるように昇っていく。
ムゲンドラモンは空中で、砲撃に向けた再充填を行う。
デジモン達を包む光の玉が割れる。
現れたのは、シェンウーモン、スーツェーモン、チンロンモン、バイフーモン。
ツリ目の女の子は、不安の表情で空を見上げる。
メガドラモンは4体のデジモンの前に立ち、翼と両腕を広げる。
シェンウーモン、スーツェーモン、チンロンモン、バイフーモンのそれぞれがエネルギーを放つ。
メガドラモンは、4体から放たれたエネルギーを背中で受け止める。
ムゲンドラモンは、再充填を完了し、両肩の砲門から攻撃を行う。
ツリ目の女の子は驚愕の表情で天を見上げている。
メガドラモンの体は光を放つエネルギーの塊となり、打ち出される。
ムゲンドラモンの攻撃を弾き飛ばし、敵対する4体のデジモンに突撃する。
爆発。
爆風に大気が震える。
ツリ目の女の子は驚愕の表情のまま、その様を見つめ続けている。
シェンウーモン、スーツェーモン、チンロンモン、バイフーモンは地面に墜落する。
墜落した4体の体からは、光の柱が立ち上がる。
それらは空中で集まり、一つの大きな光の柱となって、天に浮かぶ昏い水の底に突き刺さる。
昏い水の底は激しく波立つ。
昏い水の底は、外縁側から、押し流されるように小さくしぼんでいき、やがて、消える。
後に現れたのは、何事もなかったかのような、元の晴れた空。
ツリ目の女の子は、疑念の表情で空を見上げる。
― なんで? ―
昏い水の底の消失時に散った光の残滓は、天に昇っていく。
― なんで4人だけ選ばれたの? ―
デジヴァイスを握りしめていた右手が開かれる。
デジヴァイスの画面には、光る球と2組の年輪が交差したような模様が浮かんでいる。
ツリ目の女の子は、衝撃を受けた表情でデジヴァイスを見つめている。
「万物はその真の形質から形成され、形質を分有する。
各々の形質は相互に影響を与えつつ、次なる姿へと転化する。
だが、投影を受け入れられなかったものは、どうなるのか」 (ナレーション)
シェンウーモン、スーツェーモン、チンロンモン、バイフーモンは立ち上がっている。
晴れた空からは、太陽の光が降り注いでいる。
デジヴァイスの画面にはひびが入る。
(タイトルコール)
黄昏。
国際展示場。
メイコは、建物につながるデッキの途中で座り込んでいる。
「……メイちゃん」 (メイコ)
メイコは右手に持ったデジヴァイスを暗い表情で見つめている。
デジヴァイスは黒く染まり、その画面には遺伝子の二重らせんが×の字に交差したような模様が表示されている。
メイコはデジヴァイスを握りしめ、歯をかみしめる。
メイコ回想。
ひび割れ、放電するパソコンのディスプレイ。
巻き起こる炎。
目に爛々とした光を湛え、猟奇的な笑顔を浮かべ、振り返るメイクーモン。
「DAGAAAAN!」 (メイクーモン)
メイクーモンは空中で浮いたまま体を丸め、気合とともに体を伸ばす。
それに呼応するように、勢いを増す周辺の炎。
国際展示場。
メイコはうつむいたままでいる。
「あっ」 (メイコ)
メイコはデジヴァイスを顔に引き寄せる。
デジヴァイからは、遺伝子の二重らせんが×の字に交差したような模様の縁から、金色の光が漏れ出している。
「……泣いているの、メイちゃん?」 (メイコ)
国際展示場には夕暮れが訪れようとしている。
デジタルワールド。
けたたましく鳴り響く踏切警報器の警告音。
電車はそれに動ずることなく、湖の小島の上に鎮座している。
湖の岸辺。
「ねぇ、ここで何してんの?」 (コロモン)
「お前たち、『人間』っていうんだろ? 何でここにいるんだ?」 (プカモン)
コロモンとプカモンは興味津々といった様子。
「2人とも、危ないよ!」 (ツノモン)
ツノモンはおびえた様子で岩陰から覗き込んでいる。
「せやけど、悪い人達とはちゃうみたいでっせ」 (モチモン)
「ねぇねぇ、何で僕たちのこと知ってたの?」 (トコモン)
「人間って何食べるの?」 (コロモン)
「ねぇねぇ」 (トコモン)
「何で? 何で?」 (プカモン)
それぞれ個性全開の幼年期デジモンたちに、ヤマト、タイチ、ヒカリ、ジョーは若干戸惑う。
「ちょ、ちょっと待った。 いっぺんに喋ったらわからないって」 (ジョー)
ジョーは幼年期デジモン達を制止する。
タイチはコロモンに近づき、しゃがみ込んで目線を合わせる。
「お前は相変わらずだな」 (タイチ)
「へ?」 (コロモン)
タイチはコロモンのほほを人差し指でツンツンとつつき倒す。
コロモンは小さな悲鳴を上げる。
「捕まえた!」 (ミミ)
ミミはタネモンを持ち上げる。
「あう~、食べないでー!」 (タネモン)
タネモンは足をじたばたさせながら必死で抵抗する。
「食べないわよ! だって私たちはパートナーなんだから」 (ミミ)
ミミは軽く怒ったような顔で、タネモンに告げる。
「『パートナー』って、何?」 (タネモン)
「あ……タネモン……」 (ミミ)
本気で不思議そうなタネモンの言葉に、ミミはショックを受ける。
ミミは抱き上げたタネモンの体に顔を近づける。
タネモンは若干迷惑そうな表情のままでいる。
「……」 (ヤマト)
ヤマトは慈愛に満ちた表情でツノモンを見つめている。
「……何?」 (ツノモン)
ツノモンは岩陰に隠れつつ、おびえた表情でヤマトを見ている。
「ああ、いや」 (ヤマト)
ヒカリはヤマトとツノモンの様子をほほ笑みながら見ている。
「あっ」 (ヒカリ)
ヒカリは、ツノモンの後ろに、ニャロモンが並んで隠れているのを見つける。
脅かさないように、ゆっくりと近づいていく。
ツノモン、ニャロモンは近づいてきたヒカリを、警戒している様子で見あげている。
「ひゃあ!」 (ツノモン)
ヒカリが目の前まで来たところで、ツノモンは逃げ出す。
ニャロモンは逃げないのか、逃げられないのか、そのままでいる。
ヒカリは、ニャロモンに目線が合うように、膝立ちになる。
「はじめまして。私、ヒカリ。八神ヒカリ」 (ヒカリ)
ヒカリはニャロモンに向かって手を差し出す。
ニャロモンは緊張した面持ちでヒカリの手に近づく。
警戒した様子でヒカリの手の匂いを嗅ぎ、何かに気づいた様子でもう一度嗅ぐ。
「この笛の匂いと同じ! 落ち着く、いい匂い」 (ニャロモン)
ニャロモンはヒカリの手にじゃれつく。
ヒカリはニャロモンの体をなでつつ、顔をほころばせる。
森の中。
「ピョコモン。どこ、ピョコモン」 (ソラ)
ソラはピョコモンを呼びながら、森の中を歩いていく。
ぐに、と、ソラの足が何かを踏んづける。
「痛ったい!」 (ピョコモン)
「え? ああっ!?」 (ソラ)
ソラは何を踏んづけたのか気づき、慌てて一歩下がる。
地面に埋まっていたピョコモンは、自身の頭の一部の葉っぱ部分を踏みつけたソラに、怒りの視線をぶつける。
「……」 (ピョコモン)
「ゴ、ゴメン! ゴメンね、ピョコモン!」 (ソラ)
ソラはピョコモンを抱き上げる。
「ちょっと、ヤダ! 苦しい、ヤダ、もう、離して!」 (ピョコモン)
ピョコモンはソラの腕の中で暴れる。
「!」 (ソラ)
ソラは衝撃を受ける。
「えい!」 (ピョコモン)
ピョコモンは空の腕から飛び出し、ピョコピョコ跳んで、ソラの元から去っていく。
「ピョコモン……?」 (ソラ)
ソラはかすれた声でつぶやく。
「……何?」 (ピョコモン)
ピヨモンは敵対心むき出しの表情をしながら、振り返る。
「その……私とあなたもパートナーだったの。覚えてる、かな。」 (ソラ)
ピョコモンは答えず、ますますソラから離れ、近くの木の後ろに隠れる。
「ほら、ピョコモンって甘えん坊で、いつも私にくっついて、皆でもんじゃ焼き食べたり、温泉行ったり。
私たち、ずっと一緒だったんだよ」 (ソラ)
ソラはピョコモンに向かって手を伸ばしながら、近づこうとする。
「ウソ!」 (ピョコモン)
ピョコモンの返答に、ソラは硬直する。
「そんなの知らない!」 (ピョコモン)
ピョコモンは警戒するように、より一層木の後ろに体を隠す。
「ピョコモン……」 (ソラ)
ソラは固まったまま、それ以上ピョコモンに接近できない。
湖の岸辺。
タケルはDターミナルを開いている。
Dターミナル画面。
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DIGIMON LINK SYSTEM
MAIL 送る 読む チェック
TO 姫川さん
文章
タケルです
こちらは無事デジモンたちと再会することができました。
このメールが届いていたら連絡ください。
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「ダメだ、繋がらない」 (タケル)
タケルはDターミナルを閉じ、ポケットの中にしまう。
「ゲートの方も完全に消滅か。やはり、リブートの直後でデジタルワールドそのものが不安定なようですね」 (コウシロウ)
コウシロウは地面に腰をつけて座りながら、ノートパソコンを開いている。
その周りをトコモン、コロモン、モチモンが興味深げに取り囲んでいる。
「リブートって何?」 (トコモン)
「食べられる?」 (コロモン)
「さぁ、何でっしゃろ」 (モチモン)
コウシロウは幼年期デジモン達には構わず、パソコンの操作を続ける。
「コウシロウはんっちゅうのは、難しいことをようけ知ってはりますな」 (モチモン)
モチモンはコウシロウに話しかける。
コウシロウは一瞬驚いたような表情をした後、笑顔になる。
「知らないことばかりだよ。だからもっと知りたいんだ。君たちのことも、この世界のことも」 (コウシロウ)
「?」 (トコモン、コロモン、モチモン)
幼年期デジモンたちは、まったくわからんといった様子でコウシロウを見上げている。
「あっ!?」 (トコモン)
トコモンは自身の体を突然持ち上げられ、びっくりした声を出す。
持ち上げ主はタケル。
タケルはトコモンの顔を、疑わしげにじっと見つめる。
「な、何?」 (トコモン)
トコモンは冷や汗をかきながら、タケルの視線を受け続ける。
タケルはしばらくトコモンを見つめ続ける。
「……感染もなくなっている」 (タケル)
タケルが安堵と喜びの表情を浮かべる。
「何、それ?」 (トコモン)
「何でもない」 (タケル)
タケルは首を横に振る。
「それより、トコモン。僕と友達になってよ」 (タケル)
「友達?」 (トコモン)
「うん、君と一緒にいたいんだ」 (タケル)
「……」 (トコモン)
トコモンは逡巡する様子を見せている。
「……いいよ!」 (トコモン)
しばらくしてから、トコモンは元気よく返事をする。
タケルは安心したような表情を浮かべる。
「で?」 (ヤマト)
ヤマトは突然タイチに振る。
「うん?」 (タイチ)
タイチは不意を突かれた様子で振り向く。
「これから先のこと」 (ヤマト)
タイチは顎に手を当て、考え込む。
「帰る方法を探すか、姫川さんたちからの救助を待つか。どちらにせよ、食料と寝床の確保は必要なんじゃないかな」 (ジョー)
ジョーはタイチとヤマトに告げ、足元を見る。
「デジモン達も小さいしね」 (ジョー)
無軽快なニャロモンとプカモン、草むらに隠れるツノモンが目に入る。
「ダイジョウブ……」 (ミミ)
ミミは、変なイントネーションで言いながら、草むらから出てくる。
突然目の前に足が現れ、ツノモンはビビる。
ミミはタネモンを左手で抱えたまま、右手で涙を拭く。
「大丈夫! 昔も帰れたんだし、何とかなるなる! ミミ的にはチョーヨユー!」 (ミミ)
一気に笑顔を浮かべ、オーバーな動作で熱弁する。
「ね、タネ的にもヨユーみたいな?」 (ミミ)
「え? え?」 (タネモン)
突然のミミからのフリに、タネモンはうろたえる。
「こういう時は、ノっておくの」 (ミミ)
ミミはタネモンを人差し指でつつく。
「まったく、タネモンにはイチから今どきのノリってのを教えてあげなくちゃね」 (ミミ)
ミミは、少し寂し気な笑顔を浮かべつつ、しみじみという。
「ミミちゃん……」 (ソラ)
ソラは、少し離れたところから、消沈気味にミミを見ている。
「せっかくまた会えたんだもん。それだけで、今はジューブン!」 (ミミ)
ミミはタネモンに頬ずりする。
「キャー! 食べないでー!」 (タネモン)
タネモンは必死の形相で悲鳴を上げる。
「だから、食べないってば!」 (ミミ)
コウシロウとモチモン、タケルとトコモン、ヤマトとツノモン、タイチとコロモン、
ジョーとプカモン、ヒカリとニャロモンはそれなりに打ち解けた様子でいる。
ソラは、森の中を見つめる。
視線の先は、ピョコモンに拒絶された場所。
ソラは俯く。
藪の中。
何者かは様子をうかがう。
視線の先はヒカリ、ミミ。タケル、コウシロウ。ヤマト、タイチ。
「!?」 (ヤマト、タイチ)
ヤマトとタイチは、何者かの気配を感じ、藪のほうに振り向く。
「!?」 (ミミ、ヒカリ、タケル、コウシロウ、ジョー、ソラ)
6人もつられて、藪のほうに集中する。
座っていたタイチは、起き上がる。
そして、気配の正体を確かめるべく、藪のほうに歩いていく。
藪をかき分けた先に現れたのは。
「メイクーモン!?」 (タイチ)
メイクーモンは目を泣き腫らしながら、子供のようにべそをかいている。
メイクーモンは顔を上げる。
子供たちは固まる。
「誰?」 (ツノモン)
幼年期デジモンたちは、初対面の相手を不思議そうに見ている。
「なんで? っていうか、成熟期のまま!?」 (ミミ)
ミミは驚愕の声を上げる。
「メイ……居らんの?」 (メイクーモン)
「!?」 (タイチ達)
タイチ達はさらに驚愕する。
「メイコちゃんのこと、覚えて……」 (ソラ)
「メイ~! メイ~!」 (メイクーモン)
メイクーモンは泣き叫びながら森の中へと去っていく。
2足歩行で数歩歩いた後に跳びあがり、
木の枝を蹴って跳びまわり、あっという間にタイチたちの視界から消える。
子供達は呆気に取られて立ち尽くしている。
一瞬の間を置き、タイチはメイクーモンの追跡を開始する。
「タイチ!」 (ジョー)
森の中。
メイクーモンは次々に枝を跳び、奥へ奥へと進んでいく。
タイチはメイクーモンを追跡する。
木の枝の近くに歪みの穴が発生し、メイクーモンは中に入る。
「!?」 (タイチ)
タイチは驚愕する。
歪みの穴は閉じ、光の余韻となって消えていく。
「歪み……なんで……」 (タイチ)
夕暮れ。
国際展示場。
西島は、KEEP OUTのテープの張られた建物に向かって走っていく。
西陣は、KEEP OUTのテープの前まで来ると、左右を見渡した後、携帯電話を取り出す。
携帯電話の画面
---------------------------
受信BOX
新着メール問い合わせ
新着メールはありません。
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西島は携帯電話の画面をしばらく見つめた後、空を見上げる。
湖の岸辺。
「ジャーン!」 (ミミ)
レジャーシートの上に並べられた大量の弁当箱。
スパゲティ、ポテトサラダ、
カットしたニンジン、ブロッコリー、ダイコン、エビと各種ディップ、
里芋とニンジンといんげんの煮物、
俵おにぎり、三角おにぎり、フルーツポンチ、押し寿司、
ミートボール、ベーコン巻き卵焼き、タコさんウインナー、プチトマト、唐揚げ、
ピーマンの肉詰め、シューマイ、卵焼き、ごぼう巻き、
かっぱ巻き、鉄火巻き、いなりずし、卵巻きずし、ロールちらし寿司、エビフライ、
サンドイッチ……といった料理。
「わぁ~!」 (タネモン、プカモン、ツノモン、ニャロモン、コロモン、モチモン、トコモン)
幼年期デジモンたちは、目を輝かせている。
「何これ、食べ物なの?」 (タネモン)
「こんなの見たことない」 (ニャロモン)
「いい匂いする~」 (トコモン)
デジモンたちがはしゃぐ姿を、ヒカリ、ミミ、ソラは温かい目で見守っている。
「みんなびっくりしてる」 (ヒカリ)
ヒカリはほほ笑む。
「これ、全部ソラさんが作ったの?」 (ミミ)
「うん。皆、いっつもお腹すいてたもんね」 (ソラ)
「凄っ! いいな~、ソラさんをお嫁さんにできる人は」 (ミミ)
ミミは胸の前で組み、うっとりした表情で天を仰ぐ。
「馬鹿なこと言ってないで、取り分けるの手伝う」 (ソラ)
ソラは照れながら、皿とテーブルを手に持つ。
ソラ、ヒカリ、ミミは皿に各種料理を盛りつけ、皆に渡していく。
モチモンは、自分の顔ほどもあるコップに注がれた、飲み物を飲み干す。
「ほあ~、このちょっとほろ苦い飲み物は何ですのん?」 (モチモン)
モチモンはコウシロウに話しかける。
「ウーロン茶です」 (コウシロウ)
「は~、結構いけますわ」 (モチモン)
「でしょう?」 (コウシロウ)
コウシロウは色めき立つ。
「ウーロン茶とは、茶葉を発酵させたお茶であり、
ウーロン茶重合ポリフェノールという植物成分によって脂肪の吸収を抑えるだけでなく、
分解を促進する効果もあり、健康食品としても人気があるんです。
どうです、どんな食べ物にもウーロン茶は合うでしょう?」 (コウシロウ)
「ええ、何杯でも行けますわ」 (モチモン)
「そうなんです。この渋みとすっきりした舌ざわりが油物にも味の濃いものにも合うんです。
そもそも、ウーロン茶のロンは、龍という漢字を……」 (コウシロウ)
「あんさんが大好きやってことはようわかりましたわ」 (モチモン)
モチモンは遮るように言う。
が、コウシロウはめげずに続ける。
ミミは弁当箱からいくつかのおかずを皿に取り、タネモンはそれを待っている。
ヒカリはエビフライを箸で掴み、嬉しそうなニャロモンの口に運ぶ。
タケルも唐揚げを箸で掴んでトコモンの口に運ぶが、
乱杭歯のびっしり生えたトコモンの口に若干引く。
コロモン、ツノモン、プカモンは自分用に取り分けられた食べ物をひたすらに食べ進めている。
ジョー、ヤマトは温かな目でそれを見ている。
タイチは、若干引き気味で見ている。
ピョコモンは、集団から少し離れた森の中にいる。
ソラはおかずを取り分けた皿を持ちつつ、ピョコモンのほうを見る。
晴れ渡る空。
「ホント美味しい。これも食べていい?」 (トコモン)
トコモンはもらった分を一通り平らげると、近くに置いてある皿の分を要求する。
「それはコウシロウさんの分だから駄目だよ。ほら」 (タケル)
タケルは自分の分の玉子サンドを二つに分け、トコモンに差し出す。
「え~、あっちのほうが美味しそうなのに~」 (トコモン)
と言いつつ、トコモンはタケルが差し出す玉子サンドを嬉しそうに食べる。
その脇で、コウシロウのウーロン茶講義はずっと続いている。
「因みに、茶葉の熟成、焙煎の時間を従来よりも長くとることで生まれた黒ウーロン茶は、
これまでのものよりも高純度のウーロン茶重合ポリフェノールを含んでおり、
ウーロン茶愛好家の間でも注目されています。より飲みやすく、より健康的なお茶として……」 (コウシロウ)
「コウシロウはん、おしゃべりに夢中やとトコモンに全部食べられてしまいまっせ」 (モチモン)
モチモンが再び遮る。
「あ、そうだ、モチモン。君にこの世界のことをもう少し聞きたいのですが」 (コウシロウ)
「はいはい、そういうのはあとあと」 (ミミ)
料理を載せた皿を持ちながら、ミミはコウシロウの隣に座る。
ミミが隣に腰掛けると、コウシロウはうろたえる。
ミミについてきたタネモンは、モチモンの隣に控える。
「せっかくソラさんが作ってきてくれたんだから。はい、あ~ん」 (ミミ)
ミミは皿の上のモノを箸で掴み、コウシロウに差し出す。
「え!?」 (コウシロウ)
コウシロウは赤面して固まる。
タケルは後ろでぽかんとしている。
「ほら、口開けないと食べられないでしょう?」 (ミミ)
ミミは不機嫌そうに言う。
「じ、自分で食べられますから!」 (コウシロウ)
コウシロウはノートパソコンを盾のように抱きつつ、顔をミミから遠ざける。
「っていうか、なんですか、コレ……」 (コウシロウ)
ミミが差し出しているのは、初期状態の弁当箱の中には存在しなかったはずのもの。
「ソラさんの料理、with ゼリービーンズ and 生クリーム!」 (ミミ)
ミミは満面の笑みを浮かべ、コウシロウは冷や汗をかきながら固まる。
「最近ハマってるの! 絶対美味しいから、皆も食べてね」 (ミミ)
「個性的なアレンジですね……」 (コウシロウ)
コウシロウは精一杯の感想を述べる。
「皆もハイ、あーん」 (ミミ)
ミミはひざ元に集まってきていた幼年期デジモンたちに自信作を差し出す。
幼年期デジモンたちは、無警戒に食べる。
「何これ……」 (タネモン)
タネモンは放心状態。
「え、おいしい?」 (タネモン)
コロモンはおいしそうに食べている。
「うまーい、うまい!」 (コロモン)
ツノモンの顔は青ざめている。
プカモンは渋い顔をしている。
ニャロモンは憔悴した顔をしている。
トコモンは戦慄している。
モチモンはウーロン茶で口直しをしている。
タケルとヒカリはその様を見て、苦笑いを浮かべている。
少し離れたとことで、ジョー、タイチ、ヤマトは神妙な顔で幼年期デジモン達を見ている。
「信じられないよな。全部、なかったことになってるなんてさ」 (ジョー)
「やっぱ、元通りにはならないのかな」 (タイチ)
「忘れたのと、訳が違うからね」 (ジョー)
「……メイクーモンは覚えていた。望月のこと」 (タイチ)
「……アイツ、泣いてたな」 (ヤマト)
「探さなくていいのか?」 (ジョー)
タイチとヤマトは言葉に詰まる。
イメージ
―暴走するメイクラックモンVM。
―必死で呼びかけるメイコ。
―感染した状態で歪みの穴の中から出てくるパートナーデジモン達。
「俺たちに……メイクーモンを助けてやれるのか?」 (タイチ)
タイチは考え込む。
「あいつも、望月も、俺たちの仲間だろ!」 (ヤマト)
ヤマトは立ち上がり、レジャーシートの反対側へ移動する。
「……わかってるよ」 (タイチ)
タイチは苦しげに呟く。
ジョーは宥めるようにタイチの肩に手を置く。
そして、立ち上がり、サンドイッチの乗った皿を片手にヤマトの後を追う。
「タイチ!」 (コロモン)
コロモンの声に、タイチは振り向く。
「ほのふるふるれほろふれならいほ、ふあい、ふあいよ!
(このつるつるで細くて長いの、美味い、美味いよ!)」 (コロモン)
コロモンは、口の中いっぱいにスパゲティを詰め込みながら、タイチのほうに跳ねて近づいていく。
「うわぁ! お前、食いながらしゃべんなよ!」 (タイチ)
タイチは飛びのきながら立ち上がる。
「これは何て食べ物? ボク、好きかもしれない?」 (コロモン)
コロモンは満面の笑みで、文字通り全身で咀嚼する。
タイチの表情が緩む。
「お前、食べられるものなら何でも好きだろ?」 (タイチ)
タイチは膝をつき、コロモンのほほをなでる。
「んー、そういえばそうかも」 (コロモン)
「焼き肉も、たこ焼きも、ハンバーガーも好きだし、飯は俺の分まで食っちまってさ」 (タイチ)
「ヤキ……? 何の話か分かんないよ」 (コロモン)
コロモンは困惑する。
「ははっ、悪い。まあ、要するに」 (タイチ)
タイチはコロモンを抱き上げる。
「俺はお前のこと、お前より知ってる、ぜっ!」 (タイチ)
タイチはコロモンを空高く放り投げる。
「わひゃー!」 (コロモン)
コロモンは楽しそうにはしゃぐ。
「あー、なんか面白そうなことやってる。あたしもー!」 (タネモン)
タネモンはタイチにのほうに駆け寄っていく。
「ボクもボクもー!」 (トコモン)
「ワテもワテもー!」 (モチモン)
トコモン、モチモン、プカモンはそれに続く。
「ヒカリ、あたしもー!」 (ニャロモン)
ニャロモンはヒカリにせがむ。
「へ?」 (ヒカリ)
「あたしも、アレ!」 (ニャロモン)
「いいよ、おいで」 (ヒカリ)
ヒカリはニャロモンに向かって胸を開く。
「うん!」 (ニャロモン)
ニャロモンは光の胸元に飛び込み、ヒカリはニャロモンを抱きかかえる。
となりで、ソラは2人のやり取りを見守っている。
ソラは後ろを振り返る。
ピョコモンは、不機嫌そうな顔をしながら、弁当箱の中のミートボールを食べている。
「ミートボール、美味しい?」 (ソラ)
「……うん」 (ピョコモン)
ソラの質問に、ピョコモンはだいぶ間をおいてから答える。
「そう! お代わりもたくさんあるよ。はい」 (ソラ)
ソラは手元にあった弁当箱をピョコモンに差し出す。
「そんなにいらない」 (ピョコモン)
ピョコモンはそっけなく返事をする。
「そ、そうよね。ごめんね」 (ソラ)
ソラは弁当箱をひざ元にひっこめる。
弁当箱には、プチトマト、揚げ物、ミートボールが入っている。
夜。
情報管理局オフィス。
誰もいない執務室で、姫川のデスクのパソコンディスプレイはつけっぱなしになっている。
ディスプレイに映し出されているのは、デジタルワールドの地形データ。
中央にとがった山が存在する島。
その脇にはデジモンの名前の書かれたリストが並ぶ。
黒い背景に白文字で書かれたリストの中、1種類のデジモンの名前には、赤いフォーカスが当たっている。
プルルルル。
デスクの上の固定電話の音。
2回ほどなった後、留守番電話になる。
「ただいま、電話に出ることができません。ピーっと言う発信音の後にメッセージを残してください」 (電話)
ピーッ。
「西島です。望月メイコの所在が現時点で確認できていません。
自宅にも帰っていないようです。どこか心当たりがあれば、連絡ください」 (西島)
夕暮れ。
デジタルワールド。
踏切警報器の音が鳴り響く。
湖の中央の孤島部分にある電車に発生する紫色の瘴気。
湖の岸辺。
タネモン、モチモン、プカモン、コロモン、トコモン、ツノモン、ニャロモン、ピョコモンは、
岩のところで一か所に集まり、すやすやと寝息を立てている。
弁当箱の中身はほとんど平らげられている。
ソラはほぼ空になった弁当箱の1つを見つめながら、憂いの表情を浮かべている。
ヒカリは、ほかの弁当箱をせっせとカバンの中に片付けていく。
ソラも一瞬遅れて弁当箱をカバンの中にしまう。
ミミ、ジョー、コウシロウ、タイチ、ヤマト、タケルは集合している。
「姫川さんからの返信は?」 (ジョー)
ジョーの問いに、タケルは首を横に振る。
「駄目だ。やはり、ゲンナイさんとも連絡が取れません。この世界は間違いなく、どこかおかしい」 (コウシロウ)
コウシロウはパソコンを操作しつつ、思案する。
「はぁ。今も昔も、分かんないことばっかり」 (ミミ)
ミミはため息をつく。
「これからどうしようか」 (ジョー)
ジョーの発言に、即座に答えるものはいない。
「……メイクーモンを探そう」 (タイチ)
暫くの間をおいて、タイチは提案する。
「な!? タイチ?」 (ヤマト)
驚くヤマトを一瞥し、タイチは続ける。
「メイクーモンも望月も、俺たちの仲間だ。2人をちゃんと合わせてやりたい」 (タイチ)
タイチの顔を見て、ヒカリは安心したような表情を浮かべる。
ヤマトも、納得気な顔をする。
「問題は、メイクーモンの感染と歪みの発生ですね。リブートした世界でもメイクーモンは以前のままだとしたら」 (コウシロウ)
「感染が、また始まる、か」 (ジョー)
コウシロウの分析を受け、ジョーは唸る。
「それって、全部無駄だったってこと? リブートも、皆が記憶をなくしちゃったのも」 (ソラ)
ソラが声を上げ、全員の視線がソラに集中する。
「それは……」 (コウシロウ)
コウシロウは返答できず、ただ、下を向く。
「探そう! 友達が泣いているんだもん。アタシたちが助けてあげなくちゃ!」 (ミミ)
「ああ」 (タイチ)
ミミは悪い空気を振り切るように言い、タイチは即応する。
「何ができるか分かんねえけど、連れて帰ろう。アイツのパートナーのところへ。望月のところへ」 (タイチ)
タイチは、全員を鼓舞するように宣言する。
「オッケー!」 (ミミ)
ミミは手を高く上げて応える。
「そうと決まったら、久々に行きますか」 (ミミ)
「拠点の確保が先だよ。昔みたいに、やみくもに歩き回るのは非効率だし、まずは安全な寝床を見つけよう」 (ジョー)
「なんか、昔のジョーさんに戻ったみたい」 (タケル)
冷静な意見を述べるジョーに対し、タケルは茶々を入れる。
「これでも成長しているつもりなんだけど」 (ジョー)
「カノジョモイルシネ」 (ミミ)
「信じてないだろ!」 (ジョー)
憤るジョーに、ミミ達は笑う。
「よし、それじゃ行こうぜ」 (タイチ)
タイチは寝ている幼年期デジモン達を起こすべく、振り返り、声を駆けながら歩いて近付いていく。
「おーい、起きろよコロモ……」 (タイチ)
が、途中で驚いて止まる。
「えっ!?」 (タイチ)
タイチの声に反応し、全員がデジモンたちのほうに向く。
「どうしたん……えぇっ!?」 (ジョー)
ジョーはタイチ以上に驚く。
全員の視界の先には、成長期に進化したデジモンたちがいる。
「やあ」 (アグモン)
デジモンたちは、自身の体に起きた変化に戸惑っている様子でいる。
子供たち全員も驚き、口を開けたまま呆然としている。
「うわぁ、ボク飛べるんだ!」 (パタモン)
「ワテも飛べまっせ!」 (テントモン)
パタモン、テントモンは飛び回ってはしゃぐ。
「テントモン!」 (コウシロウ)
「パタモン!」 (タケル)
コウシロウとタケルも喜びの声を上げる。
「パタモン? そうか、ボク、パタモンて言うんだ」 (パタモン)
パタモンは歓喜の表情を浮かべながら、タケルの肩に飛び込み、うなじを回って反対側の肩に止まってじゃれ付く。
タケルはそれを笑顔で迎える。
「アタシ、キレイ?」 (パルモン)
パルモンはくるりと全身を見せびらかすように一周回る。
「キレイ、キレイ! すっごくステキよ、パルモン!」 (ミミ)
ミミはパルモンを抱きしめる。
「えへ、恐縮ですぅ」 (パルモン)
パルモンは笑顔を浮かべる。
「ヒカリ」 (プロットモン)
プロットモンはヒカリに歩み寄る。
ヒカリは手を広げてプロットモンを胸元へ迎え入れる。
「うん?」 (ガブモン)
ガブモンは赤面しながら横を向き、口元を隠す。
「恥ずかしいからあんまりじろじろ見ないでくれよ」 (ガブモン)
「……」 (ヤマト)
ヤマトは無言で、優し気な視線を送っている。
「ゴマモン、進化できたんだね!」 (ジョー)
ジョーが歓喜の声を上げる。
「できたっていうか」 (ゴマモン)
「お腹いっぱい食べて寝たら進化しちゃったんだよね」 (アグモン)
「しちゃったって……」 (タイチ)
感動を感じられないゴマモン、アグモンの言葉に、タイチは苦笑いする。
「でもタイチたちに比べたら小さいなあ」 (アグモン)
「もっと大きくなりたいよね」 (ガブモン)
「ねー」 (パルモン)
アグモンの言葉に、ガブモン、パルモンが同意する。
「リブートされた後でも、意外と僕たちはうまくやって行けそうですね」 (コウシロウ)
コウシロウは、自分の周りを飛び回るテントモンを目で追う。
「……」 (ピヨモン)
ピヨモンは進化した自分の体を不思議そうに見ていたが、誰かが近づいてきたことに気づき、顔を上げる。
「また、飛べてよかったね」 (ソラ)
ソラは優しく声をかける。
「だから、昔のことなんて知らないってば」 (ピヨモン)
ピヨモンは空に背を向け、飛び立っていく。
「あっ」 (ソラ)
黄昏の空を、ピヨモンは飛んでいく。
「……ピヨモン」 (ソラ)
ソラはうなだれる。
湖。
空を赤く焦がす沈みかけの太陽。
鳴り響く踏切警報器の警笛。
湖の中央に孤島部分にある電車の内、メイクーモンは一人うずくまっている。
「メイ……」 (メイクーモン)
メイクーモンは、在りし日のメイコとの記憶を思い出す。
イメージ
―木の棒に突き刺した焼き魚を差し出しているメイコ。
―縁側で正座するメイコとその膝の上で寝転がるメイクーモン。
―風呂場でメイクーモンの全身をシャンプーするメイコ。
―満面の笑みを浮かべるメイコ。
「メイ……どこ……」 (メイクーモン)
夕日は沈み、デジタルワールドに夜が訪れる。
電車の前照灯は、行き止まりの先の水面を照らす。
メイクーモンの体は紫色の瘴気に包まれる。
「なんで……なんで、来ん……メイコ!」 (メイクーモン)
紫色の瘴気は勢いを増して吹き出し、電車内を埋め尽くす。
やがて紫の瘴気は収まり、メイクーモンVMは顔を上げる。
電車の外の踏切警報器が紫色の電光に包まれてスパークし、機能停止する。
電車の前照灯は、消える。
夜。
湖から少し入った森の中の空き地。
タイチ達は焚き火を囲んでいる。
デジモンたちは、少し離れたところで一塊になって寝ている。
唯一、プロットモンだけがヒカリの側にくっついている。
プロットモンはおびえた様子で、森の方を見ている。
「うん?」 (ヒカリ)
プロットモンの様子に気づき、ヒカリはプロットモンを抱き上げ、膝の上に乗せる。
プロットモンは和んだ様子でヒカリの膝に寝そべる。
ヒカリは、プロットモンを宥めるように、頭をなでる。
ふと、ヒカリは顔を上げる。
森の中から、タイチが歩いてくる。
「おかえりなさい。どうでした?」 (コウシロウ)
コウシロウはタイチを迎える。
「出たり消えたりでさっぱりわからねえ」 (タイチ)
タイチはコウシロウにゴーグルを渡す。
「大きなゆがみの近くには必ずと言っていいほどメイクーモンがいました。
そして、今もなお歪みはこの世界にあり続けている。
歪みを追えば、メイクーモンを見つけるのもそう難しくはないはずです」 (コウシロウ)
コウシロウのノートパソコンの画面にはたくさんのコンソールとグラフが並んでいる。
「地道に探すしかないのか……」 (タイチ)
タイチはつぶやく。
ふと、タイチは、コウシロウが思いつめた表情をしていることに気づく。
「あんまり無理すんなよ」 (タイチ)
タイチは宥めるように、コウシロウに声をかける。
ミミは携帯電話でメールを打っている。
携帯電話画面
---------------------------
圏外
新規メール
To メイメイ
Sub
<新規入力>
デジタルワールド冒険中!
メイクーモンと一緒に帰るね
機能 選択 送信
---------------------------
↓
---------------------------
メール送信中
---------------------------
↓
---------------------------
通知
×
圏外です。
メールを送信できません
---------------------------
「やっぱ繋がらないか。メイメイも強引に連れてくればよかったかな」 (ミミ)
「どうだろう、普通の女の子にこっちは結構きついんじゃないかな」 (タケル)
「……そうね」 (ソラ)
タケルの言葉に、ソラはぼんやりと答える。
「普通って何? アタシたちも、今どきの、普通の、女の子なんですけど」 (ミミ)
「そ、そうだけど、皆はデジタルワールド経験者じゃない。
望月さんは来たことないだろうし。ほら、なんか放っておけないっていうかさ」 (タケル)
「へぇ~」 (ヒカリ)
ヒカリは目を細める。
「どしたの?」 (タケル)
「気になる?」 (ヒカリ)
「心配しなくても、僕の一番は……ね?」 (タケル)
タケルはヤマトのほうを向いてほほ笑む。
「巻き込むなよ!」 (ヤマト)
「よかったな、お兄ちゃん」 (タイチ)
「うるせぇ!」 (ヤマト)
茶化すタイチに、ヤマトは怒る。
ヒカリ、ミミは笑う。
「……」 (ソラ)
「うん?」 (ジョー)
ソラはおもむろに立ち上がり、ジョーはそれに気づく。
「薪、足りないかも」 (ソラ)
ソラは森の奥へと歩いていく。
ジョー、ヤマト、タイチはぼんやりとそれを見送る。
赤々と燃える焚き火。
ジョーは寝袋に包まり、タケル、コウシロウはバッグを枕に、
ヒカリとミミはレジャーシートの上に、バッグを枕にタオルをかけて寝ている。
デジモン達も一か所に集まって寝ている。
夜空には星が輝いている。
小川。
ソラは川岸の倒木に腰掛け、ぼんやりと水面を見ている。
「……」 (ソラ)
ヤマトはソラの右隣、タイチはソラの左隣に座る。
「何悩んでんだ?」 (ヤマト)
「……何でもいいじゃん」 (ソラ)
ヤマトの問いかけに、ソラはそっけなく答える。
沈黙。
暫くしてから、ヤマトはタイチのほうをむく。
タイチは困惑の表情を浮かべながらも、口を開く。
「あー、弁当。あれ、美味かったな」 (タイチ)
「……」 (ソラ)
ヤマトは頭を抱える。
タイチは一息ついてから、もう一度挑む。
「何悩んでんだって」 (タイチ)
「……バカ」 (ソラ)
ソラは小さくつぶやく。
ヤマトは空を見ている。
タイチは顎に手を当てて考えている。
ソラは黙って俯いている。
流木は、途中で医師に詰まりながらも、川を静かに流れていく。
アグモンは流木の上に載って寝ている。
タイチとヤマトはアグモンが流れていくのを見ている。
「……え!?」 (タイチ、ヤマト)
一瞬理解が追いつかず、2人はまぬけな声を上げる。
「アグモン!?」 (タイチ)
タイチはあわてて川に駆け込み、アグモンを流木から回収する。
「何やってんだお前」 (タイチ)
「ふぁ? あれ、おかしいな。魚沢山取ったと思ったのに」 (アグモン)
アグモンはタイチに抱きあげられながら、寝ぼける。
「……夢?」 (アグモン)
「どんだけ食い意地張ってんだよ」 (タイチ)
「さぁ……」 (アグモン)
アグモンとタイチは笑いあう。
ヤマトは2人をあきれた目で見ている。
ふと、ヤマトは振り返る。
ソラはぼんやりと立ち上がり、去っていく。
「ソラ?」 (ヤマト)
「お?」 (タイチ)
ヤマトは空に声をかけ、その声にタイチも反応する。
「ソラ!」 (ヤマト)
ヤマトは一度タイチを振り返った後、ソラの後を追いかけていく。
「悪い、アグモン。先戻っててくれ」 (タイチ)
タイチも空を追いかける。
「ふぁ~」 (アグモン)
アグモンは大きな欠伸をする。
森の間から除く空には星が瞬いている。
オフィス街。
星よりも明るく、ビルの照明が輝いている。
情報管理局オフィス。
西島は、学校に行くときにラフな格好のままで、執務室に走りこんでいく。
姫川のデスクに着くと、椅子を引き、つけっぱなしになっているディスプレイの画面を見る。
ディスプレイに映し出されているのは、デジタルワールドの地形データ。
中央にとがった山が存在する島。
その脇にはデジモンの名前の書かれたリストが並ぶ。
黒い背景に白文字で書かれたリストの中、1種類のデジモンの名前には、赤いフォーカスが当たっている。
「……」 (西島)
西島はディスプレイを見ながら思い出す。
イメージ
―一軒家の駐車場に停車している護送車。
―西島は電話をしている。
―「……ということだ」 (電話の相手)
―「行方不明? 姫川管理官が?」 (西島)
西島は椅子に座り、パソコンを操作する。
パソコン画面
---------------------------
エクスプローラ:プロジェクトデータ
URI:ライブラリ▼ドキュメント▼システム関連▼プロジェクトデータ
フォルダ:進行プロジェクト
フォルダ:完了プロジェクト
フォルダ:その他データ
ダイアログ:パスワード認証
このフォルダへのアクセスは管理者によって制限されています。
アクセスを続行する場合はパスワードを入力してください。
↓
Analysis Code
パスワード破りのアプリケーション起動
---------------------------
西島は真剣な表情でパソコンを操作し続ける。
パスワード解析アプリの処理は進んでいく。
西島は真剣な目つきでパスワード解析の結果を待つ。
「……はっ!?」 (西島)
西島は何かに気づいた表情をした後、キーボードを操作する。
ダイアログの表示:******
パスワードは通り、その他データのフォルダは開かれる。
表示されたのは、10個のファイル。
西島は操作を中断し、いぶかしげな表情のまま、固まっている。
デジタルワールドの森の中。
ソラはすたすたと歩き続ける。
ヤマト、タイチは後ろからついて行く。
ソラは歩みを止め、ヤマト、タイチも併せて止まる。
「なあ、俺、なんか悪いことした?」 (タイチ)
タイチは声を潜めてヤマトに聞く。
「そんなとこだけ変わらねえな。もう少し空気読めよ」 (ヤマト)
「わかんねえよ。こういう時、何が正解とか、わかんの?」 (タイチ)
「……タケルに聞くか」 (ヤマト)
ヤマトとタイチはお互いに目をそらす。
「聞こえてるから」 (ソラ)
ソラは振り返らない。
タイチとヤマトは言葉に詰まる。
たがいに目を合わせた後、下を向いてため息をつく。
「なあ、機嫌直せよ」 (タイチ)
「直せって何? 何で怒ってるか分からないくせに」 (ソラ)
「何で怒ってんだ」 (ヤマト)
「あたしにもわかんない」 (ソラ)
タイチとヤマトの意見は一致する。
「……めんどくせぇ」 (タイチ、ヤマト)
「面倒くさくて悪かったわね!」 (ソラ)
ソラは駆けだす。
「ちょ、落ち着けよ!」 (タイチ)
タイチ、ヤマトは空を追う。
木の隙間の空から星が覗ける道を、ソラは走り続ける。
「二人とも本当に空気読めないよね! タイミングも悪いし! すぐケンカするし!
皆いつも自分のことばかりで、あたしが何思ってるとか、どんな気持ちかなんて」 (ソラ)
しばらく走った後、ソラは立ち止まる。
「考えてくれない……誰も……考えてない」 (ソラ)
タイチとヤマトはソラの数歩後ろで止まる。
「わかんねえよ、ソラの気持ちなんて昔から。人にはおせっかいなのに、自分のことは一人で結論出して。
言わねーじゃん、何も」 (タイチ)
タイチは言う。
ヤマトは、察したような表情で立ちつくす。
「……まぁ、それがソラのいいところなのかもしれないけどさ」 (タイチ)
「!」 (ソラ)
イメージ
―「自分のことは?」 (ピヨモン)
―ピヨモンの言葉に、不意を突かれた表情になるソラ。
―「自分のことも、もっと気にしてあげなよ」 (ピヨモン)
―「自分、の?」 (ソラ)
―言葉に詰まるソラ。
―「無理かな。でも、そこがソラのいいところだもんね」 (ピヨモン)
―空に歩み寄るピヨモン
―「でも、あたしは空のこと一番、気にするよ」 (ピヨモン)
―笑顔のピヨモン。
「ピヨモンみたいなこと、言わないでよ」 (ソラ)
ソラははらはらと涙を流す。
「ソラ」 (ヤマト)
ヤマト、タイチは驚きの表情のまま固まる。
ガサガサ。
頭上で気が揺れる音。
「はっ!?」 (タイチ、ヤマト)
木の葉が揺れる。
メイクーモンVMは飛び出し、去っていく。
「メイクーモン!?」 (ソラ)
「あっ!」 (タイチ、ヤマト)
ソラ、タイチ、ヤマトはメイクーモンVMを目で追いかける。
直後、地響き。
タイチ達の後方、メイクーモンVMが走っていったほうから、黄色の閃光が立ち上る。
タイチ達は身をかがめ、爆風に耐える。
閃光はやがて収まり、森の真ん中にはクレーターができている。
クレーターの中心部から出てきたのは、機械の腕、砲、頭。
モーター音とともに、赤く目が光る。
「あっ!」 (ソラ)
突然現れたものの姿を見て、ソラは声を上げる。
全身機械の龍型のデジモンの咆哮は、夜の森に響き渡る。
「ムゲンドラモン!」 (ソラ)
ムゲンドラモンの尾から光が噴出する。
ムゲンドラモンは尾を体に巻き付けるように振ってから、勢いよく振り回す。
その先にいるのはヤマト、タイチ、ソラ。
ソラは突然の事態に硬直してしまう。
「ソラ!」 (ヤマト、タイチ)
ヤマト、タイチはかぶさる形でソラを倒す。
ムゲンドラモンの光の尾が、その上を薙ぎ払う。
尾撃の勢いで、周辺の森の木が根っこからなぎ倒される。
「マジか!」 (ヤマト)
ヤマトは伏せたまま、攻撃のすさまじさを確認する。
ムゲンドラモンはゆっくりとタイチたちのほうを向く。
「ヤマト、メイクーモンを追うぞ」 (タイチ)
タイチは空を助け起こしつつ、立ち上がる。
森の中。
ミミ、ヒカリ、パルモン、ゴマモン、アグモン、ガブモン、ピヨモン、
コウシロウ、テントモン、パタモン、タケル、ジョーは、
木の上から顔を出しているムゲンドラモンの姿を確認する。
「はわわわわ、エライこっちゃ、エライこっちゃ!」 (テントモン)
「何、あの大きいの」 (パルモン)
「すっごくヤな感じ」 (プロットモン)
テントモン、パルモン、プロットモンはそれぞれにムゲンドラモンを評する。
他のデジモンたちは固まっている。
ムゲンドラモンは、ミミ達のほうを向く。
ムゲンドラモンは咆哮し、突風が巻き起こる。
ミミ達は身をすくませ、飛ばされないように耐える。
「皆、逃げよう!」 (タケル)
タケルはパタモンを抱えている。
「でも、お兄ちゃんたちが」 (ヒカリ)
ヒカリはプロットモンを抱えている。
「ボク、タイチ達を探してくる」 (アグモン)
「そんなことしてる場合か。早くここから離れないと、やられちゃうぞ!」 (ガブモン)
突っ走りかけるアグモンをガブモンは引き止める。
「怖い……誰か助けて……」 (ピヨモン)
ピヨモンは頭を抱えながら怯える。
「皆、落ち着くんだ。タイチ達はきっと無事だ。だから」 (ジョー)
ジョーはみんなを落ち着かせようとする。
「メイ~」 (メイクーモン)
「はっ!?」 (ジョー)
そこに、メイクーモンは駆けこんでくる。
「メイクーモン!?」 (ミミ)
ミミをはじめ、全員が驚愕の表情を浮かべる。
「メイ~! メイ~!」 (メイクーモン)
メイクーモンは悲壮な声でメイコを呼び続ける。
「皆!」 (タイチ)
タイチを先頭に、ヤマト、ソラは森の奥から駆けてくる。
「お兄ちゃん」 (ヒカリ)
ヒカリは安堵の表情を浮かべる。
ジョー、タケル、コウシロウはヤマトに声をかけ、ミミはソラの帰還を喜ぶ。
タイチは、メイクーモンに近づこうとする。
雷鳴のような轟音。
タイチは反応し、その音源へ顔を向ける。
ムゲンドラモンは電光を纏いながら、周囲の大気を吸い込みつつ、背中の砲にエネルギーを溜めている。
「あっ!?」 (全員)
全員の視線がムゲンドラモンへと向く。
「メイ……どがでおらんがいや……何で一人にする!」 (メイクーモン)
メイクーモンは地に伏せて泣いている。
その背に、歪みの兆しが生じる。
ムゲンドラモンは臨界に達した背中の砲を、タイチ達に向ける。
タイチは焦りの表情を浮かべつつ、デジヴァイスを取り出す。
「アグモン、進化だ!」 (タイチ)
タイチはデジヴァイスをアグモンに向けてかざす。
「えぇ?」 (アグモン)
突然のタイチの要求に、アグモンは困惑し、慌てふためく。
「ガブモン!」 (ヤマト)
「お願いします、テントモン」 (コウシロウ)
ヤマト、コウシロウもデジヴァイスを取り出し、
ガブモン、テントモンに向けてかざす。
「ちょ、ちょっと待ってよ」 (ガブモン)
「いきなりお願いしますと言われましても……」 (テントモン)
ガブモン、テントモンも困惑し、慌てふためく。
3人がかざすデジヴァイスからは、何の反応もない。
「クソッ!」 (タイチ)
タイチは歯噛みする。
「そんな……」 (ミミ)
ミミは天を仰ぐ。
ジョー、タケルも試すが、同様に、何も起きない。
「やはり、今の僕たちじゃこれ以上の進化は」 (コウシロウ)
コウシロウは悔しがる。
「ピヨモン!? ピヨモン!? どこ!?」 (ソラ)
ソラはピヨモンを必死で探す。
ピヨモンはひとり、森の中へ飛んで逃げていく。
「ピヨモン!」 (ソラ)
ソラはピヨモンを発見すると、同じ方向へ駆け出す。
ムゲンドラモンは、咆哮とともに、背中の砲を発射する。
放たれた金色の光が地面をえぐり飛ばす。
「うわあああ!」 (全員)
コウシロウ、テントモンは体を丸める。
ミミ、パルモンは手で顔を覆う。
タケルはパタモンを胸に抱えてかばう。
ヒカリはプロットモンを抱きしめる。
ジョーはゴマモンに腕でかばう。
ヤマトはガブモンを抱える。
ソラはピヨモンを自分の後ろに隠す。
タイチはアグモンに向かって手を伸ばす。
金色の光はすべてを包み込む。
光が収まった後に残るは、地面に刻まれた巨大な溝。
取り残されたように埋まっている小豆色の弁当箱。
情報管理局オフィス。
西島はディスプレイに表示された、
デジタルワールドの島の地形とデジモン一覧を見つめている。
「デジタルワールドの機密情報? リブート後のデジモンの現在位置? なんだ、これは?」 (西島)
暫くして、西島は在りし日のことを思い出す。
過去。
大学の図書室。
姫川は席に着き、真剣な表情でパソコンに向かっている。
「ひ~めちゃん」 (西島)
「ひゃっ!」 (姫川)
頬にジュースの缶を当てられ、姫川は小さく悲鳴を上げる。
「はい、ココア」 (西島)
西島は後ろからココアの缶を差し出す。
姫川は受け取る。
「うん?」 (西島)
西島は、姫川が操作しているパソコンの画面を見る。
表示されているのは、難解な文章と数式、複雑なグラフで構成されたレポート。
「リブートよ」 (姫川)
姫川はココアを一口飲み、傍らに置く。
「これが実行できれば、きっとまた、バクモンに会える」 (姫川)
「え……」 (西島)
姫川は再び、せわしなくキーボードをたたき始める。
「デジタマは生まれないよ」 (西島)
西島は一歩引き、目線を姫川からそらす。
「何度も聞いただろう。バクモンは四聖獣が誕生するとき……」 (西島)
姫川はキーボードを殴りつける。
「……犠牲になった」 (姫川)
姫川は両手を握りしめる。
「……」 (西島)
「二度とデジタマには戻らない。だからこそ、リブートしかない。あたし、来年就職したら思う存分研究するつもり……」 (姫川)
「やめなよ」 (西島)
西島は遮る。
「えっ……?」 (姫川)
姫川は驚きの表情で振り返る。
沈黙。
西島はしばしの間をおいてから、姫川の肩を後ろから抱きしめる。
「えっ!? な、何?」 (姫川)
姫川は一瞬身を固くしつつ、西島の顔を見る。
西島は真剣な表情をしている。
「もうさ、やめたら。見てられない。」 (西島)
西島は姫川により体を寄せる。
姫川は視線を窓の外に泳がせる。
「見てるのがつらいよ」 (西島)
姫川は視線を手元にやる。
「俺じゃダメ? 新しい、パートナー」 (西島)
西島はほほを赤くしつつ、目を閉じる。
姫川ははっとして、顔を上げる。
2人はかたまったまま。
しばしの沈黙。
「……ふふっ」 (姫川)
姫川は吹き出す。
西島は驚く。
「ふふっ、あははははは!」 (姫川)
姫川は大きな声で笑いだす。
西島は仰天して飛びのく。
「あははははは……」 (姫川)
ひとしきり笑った後、姫川は振り向く。
「ドラマの見すぎじゃない?」 (姫川)
「あ……」 (西島)
笑顔で言う姫川に、西島は苦笑いを浮かべる。
「……ふぅ」 (西島)
西島はため息をつく。
「まぁ、試してあげてもいいけど……」 (姫川)
姫川は正面を向いたままでいる。
表情の変化を隠すように。
「えっ……ええっ!?」 (西島)
パソコンの傍らのココア(ほっとchocolate)は、図書館の机と空気をわずかに温めている。
西島は、一瞬緩んだ顔を、再び引き締める。
「ゲンナイ……」 (西島)
パソコンの画面。
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メール
差出人:******
題名:無題
宛先:(自分)
メイクーモン を 利用 すれば
リブート を 実現 できる 可能性
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イグドラシル に 協力 すれば
対価 として 必要 な
情報 を 提供 する
---------------------------
このこと は 一切 他言無用
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「イグドラシル?」 (西島)
ばさりと、と布がはためく音。
「! 誰だ?」 (西島)
西島は反応し、侵入者を確認すべく、顔を上げる。
侵入者=赤い布を纏った動物は、執務室のデスクの島の上に座し、西島をまっすぐに見つめている。
「私の名は、ハックモン」 (赤い布を纏った動物)
朝。
デジタルワールド。
沢山の電柱が埋まった砂漠。
ソラは一人でしゃがみ込んでいる。
「ここ……みんなは……?」 (ソラ)
ソラは周囲を見渡す。
「あ!」 (ソラ)
振り返ったソラの視界の先で、ピヨモンは遠くへ跳んでいく。
「ピヨモン!」 (ソラ)
ソラは傍らにあったバッグを肩にかけつつ立ち上がり、ピヨモンに向かって駆け出す。
電柱以外に何もない砂漠の上に、ソラの足跡は続いていく。
「ピヨモン、待って!」 (ソラ)
ソラはピヨモンを必死で追いかける。
「何で?」 (ピヨモン)
ピヨモンは振り返らずに答える。
「え?」 (ソラ)
ソラは固まる。
「何でついてくるの?」 (ピヨモン)
ピヨモンは空中で振り返り、刺すような目線をソラに送る。
「!」 (ソラ)
ソラはショックを受けた表情になる。
「……心配だから」 (ソラ)
「ウソ! 一人になるのが怖いからでしょう?」 (ピヨモン)
「違う!」 (ソラ)
ソラは否定する。
「じゃあ、ほかの子探せば」 (ピヨモン)
ピヨモンは再び飛んでいこうとする。
「ピヨモン、どうしてわかってくれないの!?」 (ソラ)
「だって、知らないもん!」 (ピヨモン)
ピヨモンは再びソラのほうを向く。
「あなたのことなんか!」 (ピヨモン)
ソラは立ち尽くす。
「……」 (ピヨモン)
ピヨモンは三度、飛んでいこうとする。
「ピヨモン……」 (ソラ)
「しつこい……」 (ピヨモン)
ピヨモンは、ソラの消え入りそうな声に苛立つ。
が、ソラのほうを見て、驚きの表情を浮かべる。
ソラは、呆然とした表情で、はらはらと泣いている。
「ええ?」 (ピヨモン)
ピヨモンは戸惑いの表情を浮かべながら、空中で羽ばたいている。
暫く後、ピヨモンは砂漠に立っている。
足元には、人が倒れている。
ソラは、ピヨモンの立つ場所に駆け寄っていく。
「え!?」 (ソラ)
ソラは、倒れている人が誰かを確認し、驚く。
「メイコちゃん!?」 (ソラ)
「う……」 (メイコ)
ソラの声に反応し、メイコは目を開ける。
メイコの視界に、ソラが映る。
「ソラさん……どうして? ……あっ!」 (メイコ)
メイコは体を起こす。
眼鏡の位置を整え、あたりを見渡す。
周囲に広がるのは、電柱が生えた砂漠。
「ここ、どこ?」 (メイコ)
森の中。
「おーい!」 (タイチ)
「みんなー!」 (ガブモン)
タイチとガブモンは仲間を探している。
「アグモーン! ヒカリー!」 (タイチ)
タイチは大声で呼ぶ。
「ヤ……ヤマト君……」 (ガブモン)
ガブモンは控えめな声で呼ぶ。
「……ヤマト君?」 (タイチ)
タイチは不思議そうな顔でガブモンを見る。
「呼び捨てにしてもいいのかなぁ……」 (ガブモン)
ガブモンはもじもじしている。
その様子を見て、タイチは笑顔を浮かべる。
「タイチ!」 (プロットモン)
がさがさと草むらを揺らし、タイチに向かって勢いよく飛び出す小さな生き物。
「うおっ!?」 (タイチ)
タイチは顔面でそれを受け止め、両手でキャッチし、正体を確かめる。
「プロットモン!」 (タイチ)
木の側。
ヒカリは気を失っている。
「ヒカリ、大丈夫か!」 (タイチ)
タイチの声に反応し、ヒカリは目を開ける。
ヒカリの視界に入ったのは、自分を心配そうな目で見ているプロットモンと兄、そしてガブモンの姿。
「……お兄ちゃん? プロットモン?」 (ヒカリ)
タイチは安堵の表情を浮かべる。
「よかった、無事で」 (タイチ)
タイチはヒカリに手を伸ばす。
「ヒカリ!」 (プロットモン)
プロットモンは嬉しそうな顔でヒカリの胸の中に飛び込む。
ヒカリはプロットモンに抱きつかれ、一瞬驚くが、すぐにほほ笑みながらプロットモンを優しくなでる。
「……」 (タイチ)
プロットモンにさえぎられる形となり、タイチは手をひっこめる。
ガブモンはお地蔵様のような表情をしている。
「皆は?」 (ヒカリ)
「わかんねえ」 (タイチ)
タイチは首を横に振る。
「ムゲンドラモンもいきなり消えちまったし」 (タイチ)
「目の前に変な穴が現れて、気づいたらタイチと一緒だったんだ」 (ガブモン)
「俺は呼び捨てかよ」 (タイチ)
タイチはガブモンの方を見る
ガブモンは目をそらす。
「変な穴……もしかして、歪み?」 (ヒカリ)
ヒカリは、プロットモンを抱きかかえたまま、立ち上がる。
「多分な。おかげで助かった」 (タイチ)
タイチは複雑な表情をする。
「皆も無事だよね」 (ヒカリ)
「……」 (タイチ)
迂闊な答えを返すことを、タイチはしなかった。
渓谷。
ジョーは直立し、パルモンはジョーの左足にしがみつき、パタモンは左肩に止まっている。
3人が立っているのは、細くとがった岩山の先端。
3人共、表情がこわばっている。
岩肌の大地。
「ウソ……」 (ミミ)
ミミは目を見開きながら、へたり込んでいる。
テントモンは腕の頭の上にあげ、上のほうを見上げるしぐさをしている。
「なんで、ここに……」 (ミミ)
ミミの目の前には、トノサマゲコモンの居城がそびえていた。
はじまりの街。
たくさんの空っぽのゆりかご。
タケルは1人、座り込んでいる。
「ここは……」 (タケル)
タケルは立ち上がろうとする。
「ぐっ!」 (タケル)
タケルは苦悶の声を上げ、動きを止める。
タケルは、くじいたらしい左足を押さえ、さすり、痛みに耐える。
タケルは視線を感じ、後ろを振り返る。
「君は」 (タケル)
ボタモンとユキミボタモンを背負ったエレキモンは、タケルを見ながら首をかしげる。
荒野。
沢山のミステリーサークルが描かれ、電線のない電柱が無秩序に立ち並び、一本の線路が走っている。
ヤマト、ゴマモン、アグモン、コウシロウは、線路わきに立ちながら周囲を見渡している。
「さっきまで森の中で、ムゲンドラモンもいたのに。変だな」 (ゴマモン)
「わかった、夢だ」 (アグモン)
ゴマモンとアグモンはお互いにほほをつねりあう。
「……アグモン、イタイ」 (ゴマモン)
「……夢じゃない」 (アグモン)
ヤマトとコウシロウはそれぞれ反対側を見ている。
「どうします、ヤマトさん?」 (コウシロウ)
コウシロウは振り向く。
ヤマトは線路の先をじっと追っている。
夕方。
森の中。
弧状の枝に弦をつけて弓のようにし、細長い棒を弦で巻く。
木片に木くずを置き、そこに、弓に固定した棒を立てる。
弓を左右に動かす。
木くずから煙が起きたら、息を吹きかける。
火が起きる。
「あっ」 (メイコ)
メイコは喜びの表情を浮かべる。
が、直後に煙を吸ってむせてせき込み、ついでにくしゃみをする。
「で、できました」 (メイコ)
メイコは達成感溢れる笑顔でソラに報告する。
「すごい。そんなのどこで覚えたの?」 (ソラ)
ソラは感嘆する。
「別に、全然大したことじゃ。地元は山ばかりで、よく遊んでましたから」 (メイコ)
メイコは慣れた手つきで、棒で火をかく。
「メイちゃんと……」 (メイコ)
メイコの笑顔は少しかげる。
火は、赤々と燃えている。
「メイクーモンと会ったよ。ずっと、メイコちゃんを探してた」 (ソラ)
「私のこと、覚えているんですか!? よかった……」 (メイコ)
メイコは感動を抑えるように、両手を口に当てる。
「……」 (ソラ)
ソラは視線を下に向け、メイコから顔をそらす。
「あ……」 (メイコ)
メイコは気まずげに固まる。
ソラは笑顔で、黙ってうなずく。
「ごめんなさい」 (メイコ)
「ううん。皆、待ってる。皆、メイコちゃんのこと、心配してた。
すごく……」 (ソラ)
ソラは、黙り込む。
「ソラさん?」 (メイコ)
メイコは不思議そうな表情で空を見る。
洋梨のような果実が6個ほど、二人の側に落ちてくる。
「はい、これで足りる?」 (ピヨモン)
木の上のピヨモンは不機嫌そうな表情でいる。
「ありがとう、ピヨモン」 (メイコ)
メイコは礼を言う。
「ねぇ、ピヨモンも一緒に食べよう」 (ソラ)
ソラは傍らのバッグを引き寄せ、中から弁当箱を出そうとする。
「いい、いらない」 (ピヨモン)
ソラがバッグを探る間に、ピヨモンはそっけなく返事をする。
「そう……」 (ソラ)
ソラは、バッグから手を引く。
メイコは逡巡ののち、上を向く。
「そんなこと言わずに、ね。こっちのほうが温かいし、ピヨモンとももっと話したいな」 (メイコ)
「……」 (ピヨモン)
ピヨモンは不機嫌そうな表情で暫く2人を見ていたが、
やがて、羽ばたき降りてくる。
「うん?」 (メイコ)
ピヨモンは、メイコの隣、火を挟んでソラの反対側に降りる。
「えぇ……?」 (メイコ)
メイコは困惑の表情でピヨモンとソラを交互に見る。
やがて、あきらめたように、手を膝の上に乗せ、視線を焚き火のほうに泳がせる。
ピヨモンは目をぶつっている。
ソラは悲しげな表情でピヨモンを見ている。
やがて、ソラも視線を焚き火のほうに向ける。
夜。
情報管理局オフィス。
「私は敵でも味方でもない。ホメオスタシスの使者」 (ハックモン)
ハックモンは小さな体に似合わない、威厳ある風情で西島を見つめる。
西島は椅子から立ち上がり、ハックモンの視線を受け止める。
「ホメオスタシスとは、すなわち、安定を望むもの。ゲンナイが動けない今、私が使者としてきた」 (ハックモン)
西島ははっとなる。
「光と闇の天秤を正すのを助ける。それがゲンナイだ。
だが、その助けを行う手は既に闇に捕らわれ、変わって闇の手が世界へと伸びている」 (ハックモン)
西島は目をぎゅっと瞑り、首を横に振る。
表情を正す。
「姫ちゃんは?」 (西島)
「彼女は今、自らの意思でデジタルワールドにいる」 (ハックモン)
「え!?」 (西島)
「イグドラシルは目的遂行のために手段を選ばない。姫川マキに目をつけ、彼女はイグドラシルと手を組んだ。
目的を果たすために」 (ハックモン)
西島の表情は険しくなる。
ディスプレイの表示。
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プロジェクトR -Reboot-
極秘
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イメージ
―光の波動に姿を変えるメガドラモン。
―呆然と見ているツリ目の少女=幼き日の姫川。
―右手に握られたデジヴァイス。
「……」 (西島)
西島は、かつての状況を思い出す。
「暴走を止めるためには、人間の協力が必要だ。彼らは『ライブラ』を利用しようとしている」 (ハックモン)
突然出てきた『ライブラ』という単語。
それが何を意味するのか、西島は即座に理解する。
「メイクーモン、だな」 (西島)
ハックモンは頷きで答える。
「……なっ!?」 (西島)
西島は、自身が異質な空間にいざなわれる感覚に陥る。
一面真っ白で、虹色に輝く石が宙に浮いている。
「ライブラは未知数。彼らの手に落ちれば、世界は滅びの道をたどるであろう」 (???)
発声者不明の声は、西島の頭の中に響きわたる。
西島はぼんやりとした表情で、オフィスになっている自分に気づく。
ディスプレイの光に照らされた西島以外、オフィスには誰もいない。
黄昏。
トノサマゲコモンの城前。
「コウシロウはーん!」 (テントモン)
「みんなー! パルモーン!」 (ミミ)
テントモンとミミは仲間たちの名を呼ぶ。
「はぁ、もう呼び疲れちゃった」 (ミミ)
ミミは膝に手をつく。
「パタモーン! コウシロウはーん! アグモーン! コウシロウはーん!」 (テントモン)
テントモンは呼ぶのを中断し、腕を組む。
「なんでワテ、コウシロウはんの名前ばっかり?」 (テントモン)
「きっと気が合うのよ! 昔は仲良しだったし」 (ミミ)
ミミが嬉しそうに振り返り、顔の側で人差し指を立てる。
「はぁ、よう分かりませんけど」 (テントモン)
テントモンは、困ったような声を出す。
「コウシロウ君か。こういう時、一緒にいてくれると頼りになるのに」 (ミミ)
「へぇ、そうなんでっか?」 (テントモン)
テントモンは、若干嬉しそうに聞く。
荒野。
線路を歩くゴマモン、アグモン、ヤマト、コウシロウ。
道すがら、パソコンに保管している画像を見せるコウシロウ。
温泉テーマパークでの写真。
―笑顔のミミとパルモン、お互い目をそらしているヤマトとタイチ、笑顔のメイクーモンと戸惑いのメイコ。
文化祭での写真。
―自作のチアリーダー衣装を着て恥じらうメイコ、はっちゃけるミミ、客として座るタケルとヒカリ。
コウシロウのオフィスの写真。
―サーバ部屋から笑顔で飛び出してくるデジモン達と、それを受け止めるソラ、ジョー、タイチ。
―ジョーの頭の上ではしゃぐゴマモンと、ゴマモンを引きはがしにかかるジョー。
記憶にない自分たちの姿を見て笑う、ゴマモンとアグモン。
―タイチの首に抱きついているアグモンと、それを支え切れずに床に倒れているタイチ
質問するような表情のゴマモンとアグモン。
そんなやり取りから距離を置くように、不機嫌そうな顔で一人前に進んでいるヤマト。
慌てて追いかけるコウシロウ、アグモン、ゴマモン。
渓谷。
切り立った崖の道を、パタモン、パルモン、ジョーは歩いていく。
岩壁に描かれたミミの絵。
誘導するように、腕を伸ばしている。
サインペンを持つパルモン、パルモンのアイデアに感服しているパタモンとジョー
森の中。
プロットモンを抱いて歩くヒカリ。
タイチ、ガブモンはその前を行く。
森の奥。
ソラ、焚き火、メイコ、ピヨモン。
メイコの膝枕で眠るピヨモン。
ソラの様子をうかがうような表情のメイコ。
体操すわりで、自身の膝に顔をうずめるソラ。
砂漠。
小さな体が砂漠の砂に影を作る。
メイクーモンはとぼとぼと歩いている。
ふと、空を見上げる。
目には涙が浮かんでいる。
「メイ……もう、メイのこと、いらんか」 (メイクーモン)
吹きすさぶ風は、砂の上に長く続くメイクーモンの足跡を消していく。
はじまりの街。
タケルは木にもたれかかって座っている。
「これで良し、と。」 (エレキモン)
エレキモンはタケルのくじいた足に薬草の葉を巻き終え、顔を上げる。
「少しの間じっとしてれば、すぐに治るぜ」 (エレキモン)
「ありがとう、エレキモン」 (タケル)
タケルは礼を言う。
「こっちもチビ達の世話を手伝ってもらっているしな。おあいこだよ」 (エレキモン)
タケルの右肩の上には、安らいだ表情のボタモンがのっかっている。
「懐かしいな、パタモンと3人で、チビ達の世話をしたっけ」 (タケル)
タケルは、右手でボタモンを軽くなでる。
「んー……悪い、何度聞いても記憶に無えなあ」 (エレキモン)
エレキモンは困ったような表情を浮かべる。
「デジタルワールドにとっては、全部なかったことになっているから。でも」 (タケル)
タケルは目線を腰元に移す。
タケルの腿には、安らいだ表情のユキミボタモンが寄りかかっている。
「僕達は覚えているから。初めて会ったときのことも。別れなくちゃならなくなった時のことも」 (タケル)
タケルは、左手でユキミボタモンを軽くなでる。
「大事にしてんだな。そいつのこと。俺も会ってみてえな」 (エレキモン)
「うん。ボクも会いたい」 (タケル)
タケルは茜色に染まった空を見上げる。
夕暮れ。
荒野。
「この先にタイチ達がいるの?」 (アグモン)
「どうだろうな」 (ヤマト)
「この線路をたどれば、路面電車のある湖までたどり着けるかもしれません。……確証は全くありませんが」 (コウシロウ)
アグモンの問いに、ヤマトはぶっきらぼうに、コウシロウは自信なさげに答える。
「さっきの話聞いてたら、ジョーともっと喋って見たくなったな。
勉強の何が楽しいのかとか、彼女って何なのか、聞きたいことがいっぱいあるんだ」 (ゴマモン)
「ヤマトは全然タイチのこと話してくれないんだ。仲悪いの?」 (アグモン)
「別に……」 (ヤマト)
「むしろ、仲良いですよ」 (コウシロウ)
「良くねーよ」 (ヤマト)
「嫌いなの?」 (アグモン)
アグモンは若干不安そうにヤマトに聞く。
「……」 (ヤマト)
ヤマトはしばらく間をおいてから、ため息をつく。
アグモンに寄り、アグモンの頭に手をのせる。
「嫌いじゃねーよ。ただ」 (ヤマト)
ヤマトはアグモンから目をそらす。
「期待しすぎちまうんだ」 (ヤマト)
アグモンは首をかしげる。
ポー、と遠くから汽笛の音。
「うん?」 (アグモン)
アグモン、ヤマト、ゴマモン、コウシロウは正面を向く。
機関車は、遥か遠くからアグモンたちのほうへ向かって走っている。
アグモンは、ぼーっと機関車を見ている。
機関車は、遠くからアグモンのほうへ向かって走っている。
アグモンは、ぼーっと機関車を見ている。
機関車は、アグモンのほうへ向かって走っている。
アグモンは、ぼーっと機関車を見ている。
「バカ、離れろ!」 (ヤマト)
ヤマトはアグモンを抱いて、コウシロウはゴマモンを抱いて、線路から横っ飛びに退避する。
機関車は、石炭の黒い煙を吹き出し、砂煙を巻き上げながら、走り去っていく。
間一髪のところでよけたゴマモン、コウシロウ、ヤマト、アグモンはその行方を目で追う。
汽笛は遠く去っていく。
「何だ今の!」 (ゴマモン)
「追いかけよう!」 (アグモン)
ゴマモンとアグモンが興奮し、2、3歩踏み出す。
しかし、機関車はもはや視界のはるか遠くにいて、煙突から吹き上げる黒い煙のぐらいしか見えない。
「って、早! もういない」 (アグモン)
ヤマトとコウシロウは脱力し、笑いが込み上げた顔で向きあう。
「路面電車の線路ってわけじゃないみたいだな」 (ヤマト)
「別の道を行きますか」 (コウシロウ)
「だな」 (ヤマト)
遠くの山に、夕陽は落ちていく。
「で、何の話してたっけ?」 (アグモン)
「タイチとヤマトのことだよ」 (ゴマモン)
「それはもういいだろう」 (ヤマト)
「タイチか。今度会ったらたこ焼き食べさせてもらわなくっちゃ」 (アグモン)
「ははは」 (コウシロウ)
渓谷。
岩壁に埋まる幾つものテレビ画面。
テレビ画面は砂嵐。
ガブモン、ヒカリ、タイチはそれらを見つめながら、立っている。
プロットモンは、ヒカリの腕の中で寝ている。
「みんなを探さないのか?」 (ガブモン)
ガブモンは聞く。
「今の俺達、お前らの何なんだろう」 (タイチ)
「え?」 (ガブモン)
質問の回答としては意味不明なタイチの言葉に、ガブモンは困惑する。
「何もできなかった」 (タイチ)
タイチはデジヴァイスを取り出し、胸元に持ってくる。
「いざとなったらアグモンを進化させてやれるかもって思ってたけど。やっぱダメだった」 (タイチ)
タイチは悔しそうな表情でデジヴァイスを握りしめる。
「お兄ちゃん……」 (ヒカリ)
ヒカリはつぶやく。
「もう、元通りってわけにはいかないか」 (タイチ)
テレビ画面は砂嵐のまま変わらない。
ヒカリは、視線をタイチの背中から、胸元のプロットモンに移す。
プロットモンは、無邪気な寝顔を浮かべたまま、ヒカリの腕の中で体を丸めている。
「リブートの全部が悪いってことはないんじゃないかな。プロットモンは、このままが良いって思ってる。
今のほうが、たぶん、幸せ」 (ヒカリ)
タイチは意外そうな顔をする。
「今のデジモン達を受け入れてあげよう。じゃないと、私たちも前に進めない」 (ヒカリ)
タイチは、目を軽く見開く。
そして、手元のデジヴァイスを見つめる。
夜。
森の奥。
ピヨモンは泉で水を飲んでいる。
「……ふぅ」 (ピヨモン)
ひとしきり飲んで満足すると、遠くを見る。
視界の先では、一部の森の木の先端が、焚き木の光に照らされて、やや明るく光っている。
焚き木の側ではソラとメイコが向かい合わせに座っている。
メイコは棒で火をかき、ソラは膝を抱えて座りながらそれを見ている。
「どうすればいいんだろう」 (ソラ)
ソラは顔を上げる。
メイコは火をかく手を止め、顔を上げる。
「前みたいに仲良くなりたいのに、全然うまくいかない。ピヨモンが昔のことを覚えていないのはわかってる。
でも……」 (ソラ)
焚き火の光が、ソラのやりきれない表情を照らしている。
「分かって欲しかった。私たちなら、きっと大丈夫って思ってた。でも、知らないって……。
あなたのことなんて知らないって……」 (ソラ)
ソラは視線を下げる。
「あたし、間違えちゃったのかな」 (ソラ)
「間違ってません!」 (メイコ)
メイコは立ち上がる。
「パートナーデジモンは特別です。ずっと繋がってる。どんなことがあっても。そう教えてくれたのは、ソラさんです!
そんなこと、言わないでください!」 (メイコ)
メイコは声を上げる。
ソラは驚いた顔でメイコを見上げている。
「……すみません」 (メイコ)
メイコは荒ぶった自分を抑えるように、正座する。
「ううん……」 (ソラ)
ソラは膝を抱えて座ったまま、再び視線を下げる。
草むら。
何かが猛スピードで進んでいき、草むらを抜ける。
「私も、分かりません」 (メイコ)
メイコはしばらく間をおいてから、口を開く。
「メイちゃんに何ができるのか」 (メイコ)
ソラは不安そうな表情で聞いている。
「でも、私はパートナーだから。もう、逃げません」 (メイコ)
焚き火の光が眼鏡のレンズを輝かせ、メイコの表情はうかがえない。
「メイコちゃん……」 (ソラ)
ソラは、真剣な表情で受け止める。
ガサリ、と草むらが揺れる。
メイコ、ソラは緊張の面持ちで、音のした方を見る。
草むらの中から姿を現す、メイクーモン。
「メイちゃん!」 (メイコ)
「メイクーモン!?」 (ソラ)
メイコは立ち上がる。
「メイ……」 (メイクーモン)
「メイちゃん、よかった」 (メイコ)
メイコはメイクーモンに近づいていく。
それを拒むかのように、メイコとメイクーモンの間の空気がはじける。
「メイちゃん!?」 (メイコ)
メイクーモンは、空気を薙ぎ払った左手を下ろす。
「何でだがん……」 (メイクーモン)
動作の反動で舞い上がっていた、メイクーモンの肩の触手が下りる。
「何で……」 (メイクーモン)
メイクーモンから紫色の電光が波のように広がっていく。
「何で来てくれんかった!」 (メイクーモン)
紫色の電光に撫でられ、焚き火が消える。
火の消えた焚き木を、疾風が薙ぎ払う。
「メイコちゃん!」 (ソラ)
固まっているメイコを、ソラが押しのけ倒す。
今までメイコが立っていた場所を、2つの疾風が薙ぎ払う。
「メイが嫌いだけ!? メイが悪い子だけか!?」 (メイクーモン)
メイクーモンは両腕を振り回し、幾発もの疾風を放ち続ける。
メイコとソラは伏せながら、メイクーモンの様子をうかがう。
メイコは、表情を引き締める、立ち上がる。
「……うっ!」 (メイコ)
疾風がかすめ、メイコはよろける。
が、すぐに体勢を立て直す。
「そう、メイちゃんが悪い子だけ。だけん、逃げとった!」 (メイコ)
メイコは真剣な顔で叫ぶ。
「メイ……」 (メイクーモン)
メイクーモンは、疾風を放つのをやめない。
「もう私の手には負えんって思った」 (メイコ)
メイコは、そばをかすめる疾風によろめきながら、メイクーモンの方へ進んでいく。
「メイコ」 (メイクーモン)
メイクーモンは、疾風を放つのをやめない。
「でも、来た。メイちゃんに会いに。メイちゃんが好きだけ!」 (メイコ)
メイコは一歩ずつ、メイクーモンの方に近づいて行く。
ソラは不安そうな様子でメイコの様子をうかがっている。
その隣には、いつの間にか現れたピヨモンが立っている。
「良い子だから好きだったんじゃない。そんなメイちゃんもメイちゃんだけ!」 (メイコ)
メイコはメイクーモンの眼前にたどり着く。
メイクーモンは、疾風を放つのをやめる。
メイコはしゃがみ込み、メイクーモンをやさしく抱く。
「私も、みんなに黙ってた。メイちゃんを一人にさせた。悪い子だよ」 (メイコ)
「メイ……」 (メイクーモン)
メイクーモンは暴れるのをやめ、メイコを抱きかえす。
「ごめんな、一緒に帰ろう、メイちゃん」 (メイコ)
メイクーモンとメイコは、お互いにぎゅっと抱き締め合う。
ソラはメイコの後ろからゆっくりと歩いて近づいて行く。
ふと、メイクーモンは険しい表情を浮かべる。
メイクーモンはメイコをどかし、右腕から疾風を放つ。
「だがん!」 (メイクーモン)
放たれた疾風は、近づいてきていたソラとピヨモンの間をすり抜ける。
「メイコちゃん!」 (ソラ)
ソラとピヨモンは疾風の行方を目で追う。
疾風は、はるか遠くの木を切り裂き、虚空へ消える。
メイコは体を起こす。
そして、4人の視界は、メイクーモンが攻撃しようとした対象をとらえる。
「一条寺君……」 (ソラ)
ソラたちは緊張の面持ちでいる。
「フン」 (デジモンカイザー)
デジモンカイザーはそんなソラたちの反応を鼻で笑う。
そして、合図のように指を鳴らす。
ムゲンドラモンは森の木よりもはるか上まで飛び上がり、空中で背中の砲を構える。
砲にエネルギーを集中させ、発射体制を整えていく。
ソラたちは全速力で逃げだす。
「メイ!」 (メイクーモン)
メイクーモンは、メイコに抱かれて運ばれている。
「大丈夫、絶対離さん」 (メイコ)
メイコは逃げながら、ムゲンドラモンを睨みつけている。
ムゲンドラモンは、砲にエネルギーをどんどん集めていく。
メイクーモンはメイコの腕から飛び出し、メイコから離れる。
「あっ!」 (メイコ)
メイクーモンの行動に驚き、メイコの足が一瞬止まる。
ムゲンドラモンは砲のエネルギー充填を完了する。
砲は、メイクーモンに向かって放たれる。
閃光。
爆発。
なぎ倒される木々。
えぐり飛ばされる地面。
巻き上がった土埃がやがて収まる。
メイクーモンは伏せていたが、やがて立ち上がる。
「メイ……バイバイ」 (メイクーモン)
メイクーモンは、メイコ達から遠ざかるように走り出す。
ムゲンドラモンはメイクーモンを追跡するように、空中で向きを変え、
木々を圧し折りながら、森の中へと着地する。
「メイちゃん!」 (メイコ)
爆発の衝撃で倒れていたメイコは、立ち上がりながら叫ぶ。
「ここにいて!」 (ソラ)
いち早く身を起こしていたソラは、メイクーモンを追って走り出す。
「ソラさん!」 (メイコ)
「あっ!」 (ピヨモン)
ソラの突然の行動に、メイコ、ピヨモン声を上げるも、即座に反応できない。
各所に発生する歪みの穴。
渓谷を歩いているパルモン、ジョー、パタモンの頭上に。
森のそばを歩くテントモン、ミミの頭上に。
エレキモンとともにはじまりの街にいるタケルの頭上に。
線路場を歩くヤマト、アグモン、コウシロウ、ゴマモンの背後に。
渓谷を歩く、タイチ、ガブモン、ヒカリ、プロットモンの頭上に。
歪みの穴に映るは、ムゲンドラモンに襲撃されているメイコ、ピヨモン、ソラ。
ソラは森の中を駆け抜けていく。
「ソラ……」 (タイチ)
タイチは歪みの穴の向こうの光景を見ながら、声を漏らす。
「待ってて……」 (姫川)
姫川は汗をかき、息を切らしながら、ふらふらと岩山を歩いていく。
「今、行くから」 (姫川)
姫川の進む先には、山のふもとの平原が青白い光を放っている。
メイクーモンは攻撃をかわすべく後ろに跳ぶ。
ムゲンドラモンは、メイクーモンの浮いた体に、鋭いクローのついた右腕で張り手をかます。
「がっ!」 (メイクーモン)
メイクーモンの軽い体は跳ね飛ばされ、地面に叩きつけられる。
2度ほどバウンドし、動かなくなる。
デジモンカイザーはメイクーモンの側に降り立ち、首元をつかんで持ち上げる。
「ふむ」 (デジモンカイザー)
デジモンカイザーは、品定めをするようにメイクーモンを見る。
「ふっ!」 (ソラ)
デジモンカイザーをかすめる投石。
「うん?」 (デジモンカイザー)
デジモンカイザーは石が飛んできたほうに振り返る。
「メイクーモンをはなしなさい!」 (ソラ)
ソラは、石を構え、デジモンカイザーをにらみつける。
デジモンカイザーは表情を変えずに見ている。
が、突然笑みを浮かべ、空に向かって跳躍する。
「うわっ!」 (ソラ)
デジモンカイザーは、メイクーモンを右手に持ち、空にぶつける形で突撃する。
そのままソラを地面に押し倒す。
「うぐっ!」 (ソラ)
のど元にメイクーモンの体を押し付けられ、ソラはうめく。
デジモンカイザーは開いている手をソラに伸ばし、その体をまさぐる。
「一条寺君、やめて」 (ソラ)
「この姿はただのアバターだ。君たちの世界へ現れるためのね」 (デジモンカイザー)
デジモンカイザーの映像にモザイクがかかり、代わりに現れたのは、ゲンナイ。
「ゲンナイさん!?」 (ソラ)
ゲンナイはソラの顔に自分の顔を近づけ、舌でソラの頬を舐め上げる。
「ひっ!?」 (ソラ)
ソラは悲鳴を上げる。
「もっとも、君が知るゲンナイとは限らないけど。ははははははっ! びっくりした? びっくりした?
姫川の言う通り~」 (ゲンナイ)
ゲンナイは愉快そうに笑う。
「姫川さん? 姫川さんが何で?」 (ソラ)
「あ、見つけた」 (ゲンナイ)
ゲンナイはソラのデジヴァイスを見つけ、取り出す。
「返して!」 (ソラ)
ソラは反射的に叫ぶ。
「これがなければ君はただの子供だ」 (ゲンナイ)
「やめて」 (ソラ)
緑色の炎がゲンナイの手を焼き、デジヴァイスが転げ落ちる。
ゲンナイは緑色の炎が来たほうを向く。
ピヨモンは、マジカルファイヤーを放った姿勢のまま、ゲンナイをにらみつけている。
「ピヨモン!」 (ソラ)
「まったく、見てられない」 (ピヨモン)
ピヨモンが声を出した瞬間、ムゲンドラモンは森をかき分けながら、ピヨモンの背後に現れる。
ピヨモンは振り返るが、間に合わず、ムゲンドラモンの右腕の一撃を食らい、吹き飛ばされる。
「うわぁ!」 (ピヨモン)
ピヨモンは地面と水平に飛んでいき、木に叩きつけられる。
「ぐうっ!」 (ピヨモン)
ピヨモンは地面にずり落ち、そのまま気絶する。
「ピヨモン!」 (ソラ)
「ふん、野良デジモンが」 (ゲンナイ)
嘲るゲンナイに、ソラは怒りの表情を浮かべる。
ゲンナイの隙をつき、体を起こすと、ゲンナイを突き飛ばす。
「ピヨモンは私のパートナーよ!」 (ソラ)
ゲンナイはひっくり返り、メイクーモンからも手を放す。
ソラはデジヴァイスを回収しつつ、ピヨモンに駆け寄る。
気絶したまま地に伏せるメイクーモンに、メイコは駆け寄り、抱き起す。
ソラは気絶したピヨモンを抱きかかえ、ゲンナイをにらみつける。
「あーあ。まあ、いいか。」 (ゲンナイ)
ゲンナイは、体を起こし、ソラとメイコを交互に見る。
「すぐに遊んであげるから」 (ゲンナイ)
ムゲンドラモンは、ソラに向けた背中の砲にエネルギーを充填していく。
「あっ!」 (メイコ)
メイコは小さく悲鳴を上げる。
ムゲンドラモンの背中の砲が、エネルギーを集めていく。
ソラは、ピヨモンを抱きかかえ、ムゲンドラモンをにらみつけたまま、体を硬直させている。
「逃げて……」 (ピヨモン)
ピヨモンはソラに逃走を促す。
ソラに、自分の身を離させるべく身をよじるが、痛みに呻いて動きが止まる。
ソラは、なお一層強くピヨモンを抱きかかえる。
ムゲンドラモンは背中の砲から閃光を放つ。
閃光は、ソラとピヨモンに向かって一直線に進む。
閃光がソラに襲い掛からんとした瞬間、青白い炎が横から割り込む。
閃光ははじかれ、ソラの頭上を越えていく。
青白い炎は地面を這い、ゲンナイの脇の地面を抉り飛ばす。
「ソラさん!」 (メイコ)
土煙にまかれながら、メイコは叫ぶ。
ソラはピヨモンに覆いかぶさり、土煙と暴風に耐える。
「……ソラ」 (ピヨモン)
土煙が収まった後、ピヨモンは声を出す。
ピヨモンの声に反応し、ソラは目を開ける。
「はっ!?」 (ソラ、ピヨモン)
そして、2人は仲間の背中を見る。
「タイチ……ヤマト……」 (ソラ)
タイチとヤマトは振り返る。
「無茶すんなよ」 (ヤマト)
「大丈夫か、ソラ?」 (タイチ)
「あんまり……」 (ソラ)
ソラとピヨモンは、信じられないものを見る表情をしている。
ヤマトとタイチはわずかに笑う。
ガブモンはヤマトに駆けよっていく。
「ガブモン、ナイス!」 (ヤマト)
ヤマトはガブモンを労う。
「ああ!」 (ガブモン)
ガブモンは手を上げて喜ぶ。
「タイチ!」 (アグモン)
アグモンはタイチに駆け寄り、抱き着く。
「アグモン!」 (タイチ)
タイチはアグモンを受け止める。
メイコは、メイクーモンを抱きかかえたまま、タイチ達の様子を見ていたが、やがてゆっくりと近づく。
その側から、ゲンナイはそっと離れていく。
「お前どこ行って……痛ててて!」 (タイチ)
アグモンはタイチの腕にかみつく。
タイチは引きはがさず、そのままにさせている。
ソラはゆっくりと体を起こす。
「ぬおわぁ!」 (ジョー)
間の抜けたような歓声に反応し、タイチ達は振り向く。
並び立つジョー、パルモン、パタモン、タケル、ヒカリ、プロットモン、ミミ、テントモン、コウシロウ、ゴマモン。
「合流できてよかった!」 (ジョー)
「歪みが繋がったおかげですね」 (コウシロウ)
イメージ
―歪みの穴から上半身をのぞかせるジョー。
―歪みの穴からぶら下がるミミとテントモン。
―迎えるゴマモン、コウシロウ、ヒカリ、プロットモン。
ジョーはタイチに歩み寄り、コウシロウはヤマトの方へ向かう。
「あっ!」 (タケル)
タケルは振り向き、驚きの声を上げる。
「あ」 (メイコ)
メイコはメイクーモンを抱きかかえつつ、立っている。
「あっ、メイメイじゃん! なんでなんで!?」 (ミミ)
ミミは手を振って、はしゃぐ。
聞こえてくる機械の軌道音。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
ヒカリは遠くを見て叫ぶ。
タイチは、ヒカリが見ているほうに視界を向ける。
ジョーも一呼吸遅れて、タイチと同じほうを向く。
その視界に入るのは、背中の砲を自分たちに向けて構えるムゲンドラモン。
ムゲンドラモンは、背中の砲にエネルギーを充填していく。
タイチ達は戦慄する。
「お前は誰だ!」 (タイチ)
タイチは、ムゲンドラモンの足元で笑っているゲンナイに向かって叫ぶ。
「どうしてメイクーモンを!」 (タイチ)
ゲンナイはムゲンドラモンの体を駆け上がり、頭の上に立つ。
「イグドラシルの意思だよ」 (ゲンナイ)
ゲンナイはタイチ達を見下ろす。
ムゲンドラモンの砲は、エネルギーを集め続ける。
「遊んで、あげるよ」 (ゲンナイ)
ムゲンドラモンの砲の光に照らされながら、ゲンナイは笑みを浮かべる。
森の中。
爆発。
再び、爆発。
ムゲンドラモンの追撃から、タイチ達は全力で逃げる。
「アイツ、ゲンナイさんじゃないのか!?」 (ヤマト)
「ゲンナイさんならこんなことしないよ!」 (タケル)
「ゲンナイかそうでないかがそんなに重要かい?」 (ゲンナイ)
ヤマトとタケルのやり取りに、ゲンナイはムゲンドラモンの頭の上から答える。
「僕はデジモンの味方だよ?」 (ゲンナイ)
「何!?」 (ヤマト)
「人間とデジモンは関わり合うべきじゃあ無いだろう。
なのにホメオスタシスが君たちを選び、デジモンは使役され、2つの世界は近づきすぎた」 (ゲンナイ)
「使役なんてしていない!」 (ジョー)
ジョーは叫ぶ。
「使役って?」 (ゴマモン)
「そうやって、連れまわすことさ」 (ゲンナイ)
ゴマモンの問いに、ゲンナイは答える。
「覚えているかい、リブート? 忘れちゃったかな?」 (ゲンナイ)
タイチ達は、木の陰に駆け込む。
「君たちを選んだホメオスタシス自身が、君たち自身が、まんまとリブートした。ははははは」 (ゲンナイ)
イメージ
―国際展示場
―コウシロウのパソコンに映る、リブートのカウントダウン
―歪みの穴の中で光の粒子となって消えてくパートナーデジモン達
―REBOOT COMPLETE
「まさか、リブートは!」 (コウシロウ)
「イグドラシルの意思さ」 (ゲンナイ)
コウシロウの言葉に答えつつ、ゲンナイは合図のように指を鳴らす。
タイチ達の頭上、崖の遥か上から、ムゲンドラモンは突如姿を現す。
ムゲンドラモンは、背中の砲にエネルギーを充填していく。
プロットモンはヒカリの腕を飛び出し、ムゲンドラモンに向き直る。
「パピーハウリング!」 (プロットモン)
プロットモンは超音波の鳴き声をムゲンドラモンに向かって放つ。
ムゲンドラモン、そしてその上に乗るゲンナイは、金縛りにあったように動きを止める。
プロットモンが超音波の鳴き声を止めると、ヒカリはプロットモンを抱きあげる。
タイチ達は、再び駆け出す。
「……ぐっ」 (ゲンナイ)
ゲンナイは起き上がり、ムゲンドラモンも連動して動き出す。
ゲンナイの視界の中に、タイチ達はもういない。
あるのは、鬱蒼と茂る森。
氷に包まれた山と麓の大きな湖。
そこに浮かぶタンカー。
タンカー。
デッキの上に、タイチ達は集合している。
「これ、動かせないの?」 (ミミ)
「うーん」 (ジョー)
「完全に電力も油圧も落ちている。もし機関が始動できれば。それには機関室に行かないと」 (コウシロウ)
コウシロウはノートパソコンを欄干の縁に乗せ、操作する。
「こないなデッカイもん、動くんでっか?」 (テントモン)
「プロットモン、どうして飛び出したの」 (ヒカリ)
ヒカリは咎めるように言う。
「だって、ヒカリ優しいもん。助けたかったんだもん」 (プロットモン)
プロットモンは耳をひらりと動かし、答える。
「……」 (ソラ)
ソラは、自分の腕の中でいまだ気絶したままのピヨモンを見る。
「メイ……」 (メイクーモン)
「メイちゃん。よかった」 (メイコ)
メイコに抱えられたメイクーモンは意識を取り戻す。
メイコは安堵する。
「メイと一緒におったらだめだがん。メイがボロボロになっちゃう」 (メイクーモン)
メイクーモンは、メイコの腕の中で体の向きを変え、メイコと向かい合う。
「もう、ボロボロだけん。大丈夫だで」 (メイコ)
「メイ……」 (メイクーモン)
メイコは宥めるように言い、メイクーモンはおとなしくなる。
ヒカリ、プロットモン、ソラはメイコ達の方を見守っている。
「みなさん」 (メイコ)
メイコはメイクーモンを抱きかかえつつ、全員に声をかける。
「ごめんなさい」 (メイコ)
メイコと、メイコに抱えられているメイクーモンは頭を下げる。
「私たちのせいで」 (メイコ)
沈黙。
「何謝ってんの?」 (ミミ)
「悪いのはイグ何とかってわかったじゃないか」 (ジョー)
ミミ、ジョーは笑顔で答える。
タケルもうなずく。
「イグドラシル……」 (ヤマト)
ヤマトは、先ほどゲンナイが口にした人物の名を反芻する。
爆発音。
「うわっ!」 (タイチ)
タンカーが揺れ、タイチ達はよろめく。
タンカーのすぐそばには、タンカーよりも高い水柱がそそり立っている。
タンカーは水柱から離れるように流されていく。
「キャー!」 (ミミ)
ミミはデッキの手すりにしがみつきながら悲鳴を上げる。
「船ごとやる気か!?」 (ジョー)
ジョー、ゴマモン、コウシロウ、テントモンも、欄干にしがみつき、衝撃に耐える。
「どうするの?」 (パルモン)
パルモンはぶつけた頭を押さえている。
「ボク達、倒されちゃうの?」 (パタモン)
「そんなことさせない!」 (タケル)
パタモンはタケルの腕に飛び込み、タケルはパタモンを抱きしめる。
「タケル……」 (パタモン)
「そうよ、ぶっ倒されるのはあいつらよ!」 (ミミ)
「おお、そうだ、そうだ!」 (ジョー)
ミミとジョーは勇む。
「でも、オイラ達じゃ、敵いっこないよ」 (ゴマモン)
ゴマモンは冷静に意見を述べる。
「飛んで火にいる夏の虫ですわ」 (テントモン)
「でも、やるしかないんです。手伝ってくれますか、テントモン」 (コウシロウ)
コウシロウは真剣な目でテントモンを見つめる。
「コウシロウはん……」 (テントモン)
「そうだな」 (タイチ)
「聞きたいこともあるしな」 (ヤマト)
タイチ、ヤマトは不敵に笑う。
ガブモンはヤマトの足元からヤマトを見上げる。
「食べ物どこにあるかってね~」 (アグモン)
「お前なぁ」 (タイチ)
緊張感のないアグモンの発言に、タイチは脱力する。
再び爆発音。
タイチ達はよろめく。
立ち上る水柱。
「キャー!」 (ヒカリ)
タイチ達は身を低くして耐える。
「ここはあまり持ちません。ソラさんと望月さんは安全な場所へ」 (コウシロウ)
「でも!」 (ソラ)
コウシロウの指示に、ソラは反論しようとする。
「俺たちが囮になる!」 (ヤマト)
「行くぞ、アグモン!」 (タイチ)
ヤマト、ガブモン、タイチ、アグモンはデッキの出口に向かって走っていく。
「あ、お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
ヒカリはプロットモンを抱え、タイチ達について行く。
浜辺。
ムゲンドラモンは双眸を赤く輝かせている。
ゲンナイは、ムゲンドラモンの頭の上から、タンカーの様子をうかがっている。
タンカー。
ヤマト、ガブモン、タイチ、アグモン、ヒカリ、プロットモンはタンカーを降り、駆けて行く。
「囮か。子供だねぇ」 (ゲンナイ)
ゲンナイは嘲るように笑いながら、指を鳴らす。
湖を泳いでいく大きな影。
その頭に当たる場所から、水面の上に飛び出している鋭い刃。
「遊んでおいで」 (ゲンナイ)
タイチ達は、湖の縁の道を駆けて行く。
そのすぐ傍に、襲撃者は姿を現す。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
現れたのは、頭部から胸元までを金色の金属で武装した、龍のような姿のデジモン―メタルシードラモン―。
ゲンナイは目線をタイチ達から、タンカーのほうに移す。
タンカーに残っていたメンバーたちは、タンカーと氷山を渡る橋の上を渡っていく。
「ふむ」 (ゲンナイ)
標的の動向を確認し、ゲンナイは笑う。
メタルシードラモンは、タイチ達のすぐそばで、湖の水を巻き上げながら飛び上がる。
「うわー!」 (タイチ、アグモン、ヒカリ、プロットモン、ヤマト、ガブモン)
タイチ達の体は水流に巻き込まれて打ち上げられ、そのまま湖に墜落する。
氷山。
ジョー、ゴマモン、テントモン、コウシロウ、ミミ、パルモン、タケル、パタモンは避難している。
「コウシロウはん、何するんでっか?」 (テントモン)
「アイツを倒します」 (コウシロウ)
コウシロウはノートパソコンを操作し始める。
ノートパソコンに、たくさんのコンソールが起動する。
ひとしきり操作し終えた後、コウシロウはノートパソコンの画面をみんなに見せる。
ジョー、ゴマモン、テントモン、ミミ、パルモン、タケル、パタモンは頷き、すぐに行動を開始する。
タケル、パタモン、ミミは氷の大地を駆け抜けていく。
その頭上の氷の壁面に、ムゲンドラモンの砲からの閃光が炸裂する。
降り注ぐ氷塊。
「きゃっ!」 (ミミ)
「伏せろっ!」 (ジョー)
悲鳴を上げながらも、ミミ達は駆け抜ける。
氷塊は、ミミが走り去った後に落ちる。
「いきなり撃つ!?」 (ミミ)
ミミは憤る。
氷塊に道を塞がれる形となったジョー、ゴマモンは、氷塊を迂回して走っていく。
「ちゃんと逃げないと死んじゃうよ?」 (ゲンナイ)
ゲンナイは薄笑いを浮かべている。
タンカー。
ソラは、気絶したままのピヨモンを抱きつつ、座っている。
遠くで鳴り響く爆発音。
「うっ……」 (ピヨモン)
ピヨモンは目を覚ます。
「ピヨモン」 (ソラ)
ソラは安堵する。
メイコはメイクーモンを抱いたまま、ソラに近づいていく。
ピヨモンは一瞬空を見上げた後、不機嫌そうに顔をそむける。
「逃げてって、言ったのに」 (ピヨモン)
「ピヨモンだって、私を助けてくれた」 (ソラ)
ソラはしみじみという。
「だって、危なっかしいんだもん」 (ピヨモン)
ソラは驚いた顔になる。
「ただの人間なのに、あんなとんでもない相手に向かってく?」 (ピヨモン)
「だって……」 (ソラ)
ピヨモンはソラの手を振りほどき、ソラの膝から降りる。
振り向き、責めるような目で空を見つめる。
「アタシ知ってる。そういうの『お人好し』って言うのよ」 (ピヨモン)
「……」 (ソラ)
ソラは言葉に詰まる。
「……いいと思う」 (ピヨモン)
「えっ?」 (ソラ)
ソラは呆気にとられる。
「ソラは優しいのね」 (ピヨモン)
ソラは、しばらく固まる。
「……やっと、呼んでくれた。ソラって」 (ソラ)
「だって、ソラでしょ?」 (ピヨモン)
メイコ、メイクーモンはほほ笑みながら、ソラとピヨモンを見ている。
「ねえ、ソラ」 (ピヨモン)
「うん?」 (ソラ)
「ソラのミートボール、もっと食べたい」 (ピヨモン)
「うん!」 (ピヨモン)
ソラとピヨモンの微笑ましいやり取りは、遠くから鳴り響く爆音に妨げられる。
メイコ、メイクーモンは、爆音のした方へ顔を向ける。
「みんな!」 (ソラ)
ソラは立ち上がる。
「ソラさん!」 (メイコ)
ソラはデッキの出口へと駆けて行く。
「もう、ソラったら~」 (ピヨモン)
ピヨモンはあきれたように言いながらも、ソラの後について行く。
「あ……」 (メイコ)
メイコはどうしたらよいのかわからず、立ったまま空を見送る。
氷山。
四角い赤いポストがいくつか立っている。
「死の恐怖におびえなくちゃいけないなんて、人間はかわいそうだねぇ」 (ゲンナイ)
ゲンナイはゆっくりと歩いていく。
「不完全だねぇ」 (ゲンナイ)
ジョー、ゴマモン、パルモン、ミミ、タケル、パタモンは全速力で逃走する。
「デジモンは永遠だ。壊れてもまたデジタマに還り、再生する」 (ゲンナイ)
ゲンナイはムゲンドラモンに道を開ける。
ムゲンドラモンは氷山の地面を揺らしながら、前進していく。
「でも、たまーにその環から外れちゃうのがいてねぇ。人間世界で死んじゃうと再生できないんだ」 (ゲンナイ)
ジョー達は、氷の坂を駆け下りて幾。
ムゲンドラモンは、背中の砲にエネルギーを充填し始める。
「あー、可愛そう」 (ゲンナイ)
充填は短い時間終わり、砲は発射される。
閃光は氷の壁を崩し、氷塊をジョー達の頭上に振らせる。
ジョーはゴマモンを背負ったままヘッドスライディングで飛びのき、ミミはパルモンに、タケルはパタモンにかぶさる。
「だから、リブート。向こうで死んだアイツも、アイツも、みーんな元通り。
今こそみんなで手を取り合って、人間世界を支配しようよ」 (ゲンナイ)
ゲンナイは両腕を広げたポーズで演説する。
「ねぇ、メイクーモン」 (ゲンナイ)
「……メイクーモン?」 (タケル)
起き上がり際のタケルは、ゲンナイの言葉に反応する。
「そう。あの子は世界を壊す『カギ』だ」 (ゲンナイ)
いつの間に接近したのか。
ゲンナイはタケルの眼前に迫り、接触するほど近くで、不気味な笑みを浮かべる。
「タケル!」 (パタモン)
タケル、そしてゲンナイはパタモンのほうを向く。
「エアーショット!」 (パタモン)
パタモンは空気をいっぱいに吸い込み、思い切り吐き出す。
「あうっ!」 (ゲンナイ)
吐き出された空気弾はゲンナイの顔面に命中し、ゲンナイはよろける。
「パタモン!」 (タケル)
タケルはパタモンのもとに駆け寄る。
「大丈夫、タケル?」 (パタモン)
パタモンはタケルの胸に飛び込み、タケルはパタモンを受け止める。
「うおおおおお!」 (ジョー)
ジョーは気合とともに疾走し、起き上がり際のゲンナイに跳びかかる。
そのままのしかかり、取り押さえにかかる。
「どけぇ!」 (ゲンナイ)
ゲンナイはジョーを振り払う。
「うわぁ!」 (ジョー)
ジョーは呆気なくひっくり返る。
「ジョー!」 (ゴマモン)
後ろからついてきていたゴマモンは叫ぶ。
「マーチングフィッシーズ!」 (ゴマモン)
ゴマモンは空を飛ぶ魚のような生き物を召喚する。
魚たちは大挙してゲンナイに襲い掛かる。
一団がゲンナイの顔元をかすめ、一匹がゲンナイの顔面に突撃する。
ゲンナイが怯んだところに、別の一匹が現れ、両ひれでゲンナイに連続ビンタをかます。
「痛てっ、痛てっ!」 (ゲンナイ)
パルモンは優雅に跳躍しながらゲンナイに近づく。
「ポイズンアイビー!」 (パルモン)
パルモンは触手を伸ばし、ゲンナイを縛り上げる。
「パルモン、ナイス!」 (ミミ)
ミミはパルモンに駆け寄る。
「えへへ」 (パルモン)
パルモンは照れる。
「ゴマモ~ン、助かったよ」 (ジョー)
ジョーはゴマモンに駆け寄る。
「ジョーは放っとけないなぁ」 (ゴマモン)
ゴマモンは笑顔でジョーを迎える。
ゲンナイはパルモンの触手の拘束から逃れようと、体に力を込める。
「……ん?」 (ゲンナイ)
ゲンナイは氷山の壁の方を向く。
「みんな!」 (ソラ)
ソラ、ピヨモンは氷山の斜面を駆け下り、ジョー達の方へ近づいて行く。
「ふん、さてと……」 (ゲンナイ)
ゲンナイはパルモンの触手をすり抜け、姿を消す。
「あら?」 (パルモン)
あっさりと抜けられたことに、パルモンとミミは驚く。
地鳴り。
「うわぁっ!」 (ジョー達)
振動に足を取られ、ジョー達はよろめく。
ムゲンドラモンは脚部の無限軌道を駆使し、氷の大地を疾駆する。
「今です!」 (コウシロウ)
コウシロウは、氷の崖の上から顔を出し、叫ぶ。
「こっちでっせ~!」 (テントモン)
テントモンの声に反応し、ムゲンドラモンは振り返る。
ムゲンドラモンの背後の氷壁には、巨大なテントモンの像が浮かび上がっている。
ムゲンドラモンは背中の砲から閃光を放つ。
閃光は氷壁に炸裂し、テントモンの姿ははじけ飛ぶ。
氷壁の上に載っていた巨大な氷塊は、支えを失い、落下していく。
ムゲンドラモンは、自身のよりも大きな氷塊の下敷きになる。
氷塊が地面に落ちた勢いで、爆発のように風と氷が舞い上がる。
湖。
頭部の刃で水面を切り裂きながら、メタルシードラモンは泳ぐ。
やがて勢いをつけ、水面に浮かぶタイチ達に向かって飛び出す。
「やれるか、ガブモン」 (ヤマト)
「ああ!」 (ガブモン)
ヤマトはタイミングを見計らい、ガブモンを高く投げ飛ばす。
「プチファイヤー!」 (ガブモン)
ガブモンは、上からかぶさろうとしていたメタルシードラモンのさらに上を押さえ、
メタルシードラモンの鼻先に火炎を放射する。
メタルシードラモンは悲鳴を上げながら、退く。
メタルシードラモンは水面付近をのたうつように泳ぐ。
「よし!」 (ヤマト)
「スゴイ、こんな大きいやつ」 (ガブモン)
ヤマトは喜ぶ。
ガブモンは、自分のやったこととは信じられない様子でいる。
「お前がやったんだよ、ガブモン!」 (ヤマト)
「ヤマト!」 (ガブモン)
ガブモンはヤマトに抱きつく。
「あ……君」 (ガブモン)
「君?」 (ヤマト)
ガブモンは思い出したように言い、ヤマトは不思議そうな表情になる。
「ガブモンの奴、ヤマトに君付けしたほうがいいかなって、悩んでたんだぜ」 (タイチ)
「タイチー!」 (ガブモン)
「俺にも君つけろ!」 (タイチ)
タイチ達のやり取りは、突然の大波に中断させられる。
「うわぁ!」 (タイチ)
メタルシードラモンはタイチたちのすぐそばに迫る。
そのまま旋回し、タイチ達を取り囲むように泳ぐ。
「わー!」 (アグモン、ガブモン)
タイチはアグモンを、ヤマトはガブモンを、水面から上に放り投げる。
直後、メタルシードラモンがタイチ達に突っ込み、4人は波にのまれる。
ヒカリ、プロットモンは水面に取り残される。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
ヒカリは慌てて周囲を見渡す。
アグモン、ガブモンの姿を見つけるが、タイチ、ヤマトは見つからない。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
「タイチ!」 (アグモン)
「ヤマト!」 (ガブモン)
3人の叫びが、湖に響き渡る。
草原。
姫川は額に汗を浮かべながら、歩き続けている。
疲れているような、焦っているような、険しい表情でいる。
やがて、姫川はたどり着く。
自分が求めてやまなかったもののところに。
「あっ!」 (姫川)
笑顔を浮かべ、姫川は走り出す。
その先にいるのは、一面の光る花の花畑。
そこで花を摘んでいる、バクモン。
「バクモン!」 (姫川)
バクモンは姫川の声に振り返る。
特に警戒せず、挨拶のように、笑顔を見せる。
「ああっ……」 (姫川)
姫川は感極まった表情になり、バクモンに近づいて行く。
姫川は地面に膝をつき、涙を流しながらバクモンを抱きしめる。
「ずっと……ずっと会いたかった」 (姫川)
光る花畑は静寂に包まれている。
「……誰?」 (バクモン)
暫くしてから、バクモンは口を開く。
「!」 (姫川)
姫川は息をのむ。
「ニンゲン?」 (バクモン)
バクモンは不思議そうな顔で、姫川を見つめる。
「わ、私よ、パートナーの」 (姫川)
姫川は言葉を絞り出す。
「……ウソ、知らない」 (バクモン)
バクモンは姫川から身を離す。
「えっ……」 (姫川)
姫川は驚愕に目を見開く。
バクモンは振り返り、姫川から離れていく。
姫川は、表情を失いつつ、立ち上がる。
「……」 (姫川)
姫川は乾いた笑顔を顔に浮かべる。
バクモンは数メートルほど離れたところで、再び姫川のほうに振り返る。
姫川は、再び、バクモンに近づいて行く。
「何で……」 (姫川)
姫川はバクモンの肩を掴む。
「パートナーでしょ……」 (姫川)
姫川はバクモンを揺さぶる。
「ずっと待ってたって言って……」 (姫川)
姫川は、恐怖にひきつった笑顔を浮かべている。
「思い出しなさいよ!」 (姫川)
湖。
メタルシードラモンは、タイチとヤマトを咥え、湖底へと潜っていく。
タイチとヤマトは、メタルシードラモンの口から脱出する。
2人はお互いに顔を見合わせると、うなずき、水面を目指して泳いでいく。
しばらくして、タイチは苦しげに動きを止める。
ヤマトはタイチを抱えて泳ぐ。
タイチもヤマトをつかみ、2人は一塊になって水面を目指す。
が、限界は来る。
ヤマト、タイチの息は尽き、2人とも湖底へ沈んでいく。
2人があと少しのところまで来ていた水面は、明るく輝いている。
「タイチ、タイチ」 (アグモンの声)
「(アグモン?)」 (タイチ)
タイチは薄れゆく意識の中、アグモンの声を聴く。
「どうして僕たちのこと、助けてくれたの?」 (アグモンの声)
湖底に立つアグモンとガブモン。
「だってお前、やられちゃうところだったろ」 (タイチ)
タイチとヤマトは湖底に横たわる。
「それは、ヤマトたちだってそうでしょ?」 (ガブモンの声)
タイチとヤマトは必死で体を起こし、アグモン、ガブモンの方を向く。
「もう、お前を失いたくなかった」 (ヤマト)
タイチとヤマトは水面を見上げる。
「他の誰でもない、お前と出会うために、この世界に来たんだ」 (ヤマト)
アグモンとガブモンは湖を潜り進み、ヤマトとタイチのもとへ行く。
「ああ、お前しかいないんだよ」 (タイチ)
タイチとヤマトは湖底を蹴り、アグモンとガブモンを迎えに行く。
「アグモン!」 (タイチ)
「ガブモン!」 (ヤマト)
タイチとヤマトは手を伸ばす。
「タイチ、ボク、強くなりたい!」 (アグモン)
「ヤマト、オレもだ!」 (ガブモン)
ヤマトとタイチのデジヴァイスは金色の光を放ち、腰ポケットから飛び出す。
ヤマトとタイチはそれぞれのデジヴァイスをつかみ、アグモン、ガブモンに向けてかざす。
「ガブモン!」 (ヤマト)
「アグモン!」 (タイチ)
デジヴァイスの光を受けたアグモンとガブモンの体は、金色に輝く。
水面。
「お兄ちゃーん!」 (ヒカリ)
ヒカリの悲鳴は、暗い水面に吸い込まれる。
水面に黒い影。
まもなく立ち上る水柱。
水柱を割って現れたメタルシードラモンは、ヒカリに向かって圧し掛かっていく。
ヒカリとプロットモンは硬直し、メタルシードラモンの体が迫っていく。
メタルシードラモンの体がヒカリとプロットモンを押しつぶさんとした瞬間、
激しい炎が横から割り込み、メタルシードラモンの巨体を弾き飛ばす。
メタルシードラモンは悲鳴を上げながら水面に倒れこむ。
ヒカリ、プロットモンはその様を呆然と見届けた後、炎がやってきた方向に目を向ける。
ヒカリたちから少し離れたところの水面に立ち上る水蒸気。
それが消えた後、爆発が起きたかのように水柱が立ち上る。
水柱から現れたのは、ウォーグレイモンの肩にまたがるタイチと、メタルガルルモンの背に乗るヤマト。
(ButterFly tri ver~♪)
「待たせたな!」 (タイチ)
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
兄の姿を確認し、ヒカリは喜びの声を上げる。
ウォーグレイモン、メタルガルルモンは、浅瀬に移動し、タイチとヤマトを下ろす。
メタルシードラモンはその間に復帰し、鼻先の砲にエネルギーを集中させている。
「来るぞ!」 (ヤマト)
メタルシードラモンは、鼻先の砲から閃光を放つ。
ウォーグレイモン、メタルガルルモンは空中で回転しつつ、閃光を躱す。
そのままの勢いで、2体は水中へ飛び込み、背後から、メタルシードラモンへ向かっていく。
メタルシードラモンは、自身が放った閃光のために、2体の接近に気づくのが遅れる。
直前まで迫ったウォーグレイモンに反応して顔を向けようとする。
その頭に、メタルガルルモンが組み付く。
メタルシードラモンはメタルガルルモンを振り払わんと身をよじる。
その隙をつき、ウォーグレイモンは、無防備になったメタルシードラモンの体に、右腕のクローで切りかかる。
たまらず、メタルシードラモンはウォーグレイモンから体を離そうとする。
ウォーグレイモンはそれを許さず、メタルシードラモンの尻尾をつかむ。
メタルガルルモンはメタルシードラモンの体から離れる。
ウォーグレイモンは、ハンマー投げのようにメタルシードラモンの体を振り回し、
水上に向かって投げ飛ばす。
メタルシードラモンは、激しい水しぶきをまき散らしながら、水上へを打ち上げられる。
メタルガルルモンは同時に水面から飛び出し、無防備なメタルシードラモンの体に接近し、
胸部からミサイルを発射する。
ミサイルは直撃し、爆発。
メタルシードラモンは、ミサイルの爆発によって作られた巨大な氷に閉じ込められる。
続いて、ウォーグレイモンも水面から飛び出す。
メタルシードラモンが拘束されているのを確認し、攻撃態勢に入る。
タイチ、ヤマトは浅瀬から、ヒカリ、プロットモンは湖の湖面から、力のこもった目で戦いを見守っている。
ウォーグレイモンは雄叫びを一発上げると、両腕を合わせ、頭上に振り上げる。
背面のスラスターを吹かし、竜巻のように回転しつつ、氷漬けのメタルシードラモンへと突撃していく。
ウォーグレイモンの体は氷塊へ突撃、埋没、のち、貫通して反対側から出てくる。
ウォーグレイモンは攻撃態勢を解き、メタルシードラモンのほうを見る。
空中の氷塊はひび割れていく。
やがて、ひびは氷塊全体に達し、ついには、氷塊は砕け、湖へと降り注ぐ。
大きめの氷塊の一つは、ヒカリとプロットモンの頭上に落ちていく。
「きゃあ!」 (ヒカリ)
ヒカリはなすすべなく、身を固くする。
「ヒカリ!」 (プロットモン)
プロットモンは叫ぶ。
(進化シーン:プロットモン→プロットモン)
「ネコパンチ!」 (テイルモン)
テイルモンは飛び上がり、右拳を氷塊に叩きこむ。
氷塊は粉々に砕け散る。
「無事か、ヒカリ?」 (テイルモン)
テイルモンは、目を瞑って体を固くしているヒカリの頭に着地する。
「テイルモン!?」 (ヒカリ)
ヒカリは目を開き、驚く。
浅瀬にいるタイチ、ヤマトのもとに、ウォーグレイモン、メタルガルルモンは着地する。
「ウォーグレイモン」 (タイチ)
「メタルガルルモン」 (ヤマト)
タイチ、ヤマトはしみじみと言う。
メタルガルルモン、ウォーグレイモンは堂々たる姿勢で屹立している。
ポン。
間の抜けたような音と煙を放ち、それぞれ、コロモンとツノモンの姿になる。
「おおう!」 (コロモン、ツノモン)
コロモンとツノモンは水面に落っこちる。
氷山。
「みなはーん!」 (テントモン)
テントモンとコウシロウは氷の坂を滑り降り、ミミ達に合流する。
「テントモン、小っちゃくなっちゃった」 (パルモン)
「先ほどのはホログラムですよ」 (コウシロウ)
パルモンの言葉に、コウシロウは答える。
「コウシロウはん、何でもできて、スゴイでんなぁ!」 (テントモン)
「さっすが、コウシロウ君ね」 (ミミ)
「いえ……」 (コウシロウ)
テントモン、そしてミミの称賛に、コウシロウは紅潮する。
「アイツは?」 (タケル)
タケルの声に、ミミ達は降り向く。
タケルの後ろには、巨大な氷塊が鎮座している。
一同は、氷塊に近づいて行く。
「タケル、僕頑張ったよ!」 (パタモン)
「うん」 (タケル)
パタモンはタケルの側で羽ばたき、タケルは笑顔を向ける。
「やっぱり、僕のパートナーはゴマモンしかいないよ!」 (ジョー)
「あはは」 (ゴマモン)
ジョーはゴマモンを抱きかかえる。
コウシロウとテントモン、ミミとパルモンは言葉は交わさず、笑顔を向けあっている。
ミミとパルモンは、手を握り合っている。
それらの光景を、ソラは少し残念そうに、ピヨモンは不思議そうにみている。
「ねぇ、パートナーって、何?」 (ピヨモン)
「え?」 (ソラ)
「ソラ、言ってた。ピヨモンは私のパートナーって」 (ピヨモン)
「それは……」 (ソラ)
ピヨモンの質問に、ソラは言葉を詰まらせる。
地震のような振動。
「きゃあ!」 (ソラ)
ソラは身をすくませる。
ムゲンドラモンは叫び声とともに、自身に被さっていた氷塊を押しのけながら屹立する。
氷塊は氷の地面に激突し、氷の煙が舞う。
ムゲンドラモンは右腕を伸ばし、一番近くにいたピヨモンにつかみかかる。
「きゃー!」 (ピヨモン)
避ける間も無く、ピヨモンはムゲンドラモンの右腕に拘束される。
「ピヨモン!」 (ソラ)
ソラはムゲンドラモンの右腕にしがみつく。
ムゲンドラモンはそのまま、右腕を高く上げる。
「ソラさん!」 (ミミ)
ミミは叫ぶ。
パタモン、パルモン、テントモン、ゴマモンはムゲンドラモンに向かって行き、
真正面から突撃する。
ムゲンドラモンは左腕で払いのける。
「うわー!」 (パタモン、パルモン、テントモン、ゴマモン)
4人はぶっ飛ばされる。
「ピヨモンを離して!」 (ソラ)
ソラはムゲンドラモンの右腕にしがみついたまま、叫ぶ。
ムゲンドラモンは右腕を頭上にあげ、地面にたたきつける。
反動でソラの体は浮き、引きはがされる。
「ううっ!」 (ソラ)
ソラはしぶとく、ムゲンドラモンの右腕の外側にしがみつく。
「ソラさん!」 (タケル)
ぶっ飛ばされたパタモンを助け起こしつつ、タケルは叫ぶ。
「ソラ、逃げて!」 (ピヨモン)
「イヤ!」 (ソラ)
ピヨモンの要請をソラは拒否する。
ムゲンドラモンは右腕を氷壁にぶつける。
「うあっ……!」 (ソラ)
ムゲンドラモンの右腕と氷壁に挟まれ、ソラは呻く。
「ソラーッ!」 (ピヨモン)
ソラはぐったりとしたまま返事をしない。
ムゲンドラモンは再び、右腕を氷壁にぶつける。
「うあっ……!」 (ソラ)
ソラは再び呻く。
「ソラ、何でもう!」 (ピヨモン)
ピヨモンは嘆願するように叫ぶ。
「あたしのミートボール、食べるんでしょ?」 (ソラ)
「え?」 (ピヨモン)
「ぜったい、食べてほしいから」 (ソラ)
「ソラ……」 (ピヨモン)
「絶対、離さないんだから……」 (ソラ)
ソラはピヨモンのほうに手を伸ばす。
「ソラー!」 (ピヨモン)
ピヨモンもソラのほうに手を伸ばす。
2人の手は、固く結ばれる。
ソラの胸元のデジヴァイスから放たれる金色の光。
(進化シーン:ピヨモン→バードラモン)
「ピヨモン進化、バードラモン!」 (ピヨモン)
(進化シーン:バードラモン→ガルダモン)
たくましい四肢、趾と指には鋭い爪、背には大きな翼。
猛禽の頭。
「バードラモン超進化、ガルダモン!」 (バードラモン)
(進化シーン:ガルダモン→ホウオウモン)
体を覆う黄金色の羽、頭を守る黄金色の兜、
首周りの羽は先端に向けて紫色のグラデーション、
尾には全体に朱色のグラデーション、
全身に炎を纏い、大きな翼で羽ばたく。
金色の光が散る。
「ガルダモン超進化、ホウホウモン!」 (ガルダモン)
コウシロウ達とムゲンドラモンは上空のホウホウモンを見つめる。
「あれは!」 (コウシロウ)
ソラはホウオウモンの背中に乗っている。
「……はっ、ピヨモン!?」 (ソラ)
ソラは目を開け、自分が巨大な鳥の背中に乗っていることを認識する。
ホウホウモンは、ソラに目配せする。
その下方で、ムゲンドラモンは尾の先端をホウオウモンに向け、光弾を発射する。
ホウオウモンは上空に跳んで避ける。
ホウオウモンは高度を落として滑空し、ムゲンドラモンに襲い掛かる。
自身と同じ大きさの体躯に激突され、ムゲンドラモンはひっくり返る。
ホウホウモンは勢いそのまま、再び空へと飛び上がる。
タンカー。
メイコとメイクーモンはホウオウモンの姿を見つめている。
「あれは?」 (メイコ)
メイコは立ち上がる。
「楽しんでる?」 (ゲンナイ)
そこに、ゲンナイは現れる。
「お待たせ」 (ゲンナイ)
「はっ!?」 (メイコ)
メイコはあ。後退りする
ゲンナイは、メイコの真横に突然移動する。
右手、左手をつきだし、タンカーの操舵室の壁と自分の間に、メイコを閉じ込める。
「メイ!」 (メイクーモン)
メイクーモンが叫ぶ。
「ふん、本当に気づいてないとでも思ってた? 君たちは本当に子どもだな」 (ゲンナイ)
ゲンナイはメイコの顎を持ち上げる。
メイコは、嫌悪の表情を浮かべる。
氷山。
ムゲンドラモンは起き上がろうとする。
ホウオウモンは、急降下し、ムゲンドラモンの背に趾で一撃咥える。
ムゲンドラモンがよろめいたところで、ムゲンドラモンの背中の砲を両趾で掴み、そのまま飛び上がる。
氷壁の頂上付近まで持ち上げた後、氷壁の根本付近に投げ飛ばす。
ムゲンドラモンは氷壁に墜落する。
「進化した!」 (ミミ)
「ホウホウモン、究極体です」 (コウシロウ)
ミミは驚きの声を上げ、コウシロウは答える。
ホウオウモンは勢いをつけ、ムゲンドラモンに向かって滑空していく。
ムゲンドラモンは上半身を起こし、右腕のクローで迎撃する。
ホウオウモンはひらりと躱し、脇をすり抜ける。
「きゃー!」 (ソラ)
飛行の勢いで、ソラはホウオウモンの背中から振り落とされる。
「うおおおおお!」 (ジョー)
ジョーは全速力で駆け、ソラを両腕でキャッチする。
「ソラさん!」 (ミミ)
ミミも駆け寄り、声をかける。
ジョーはゆっくりとソラを下ろし、ソラは自力で立つ。
「タケル」 (パタモン)
「うん?」 (タケル)
「ボクも戦う」 (パタモン)
「パタモン」 (タケル)
パタモンの突然の主張に、タケルは戸惑う。
「ボクも戦えるよ! タケルは?」 (パタモン)
「……」 (タケル)
タケルは真剣な表情で思案する。
「タケル君!」 (ミミ)
ミミの声に、タケルは振り向く。
ミミはサムズアップ、ジョーは頷く。
ソラも笑顔を浮かべている。
「……うん」 (タケル)
タケルはパタモンに向かって答え、D3を取り出す。
パタモンは真剣な表情になる。
(進化シーン:パタモン→エンジェモン)
「パタモン進化、エンジェモン!」 (パタモン)
(進化シーン:エンジェモン→ホーリーエンジェモン)
足に具足、腕に光の剣、背に3対の白い翼。
「エンジェモン進化、ホーリーエンジェモン!」 (エンジェモン)
(進化シーン:ホーリーエンジェモン→セラフィモン)
全身に白金の鎧を身に纏い、背には4対の金の羽。
6本の剣は周囲に浮かぶ。
「ホーリーエンジェモン進化、セラフィモン!」 (ホーリーエンジェモン)
セラフィモンはタケルたちの上空に浮かぶ。
「究極進化!」 (コウシロウ)
「コウシロウはん。ワテ、もっとコウシロウはんのお手伝いしたいがな!」 (テントモン)
「テントモン……」 (コウシロウ)
コウシロウは一瞬迷った後、決心したようにデジヴァイスを取り出す。
「はい、僕たちも続きましょう」 (コウシロウ)
「はいな!」 (テントモン)
コウシロウのデジヴァイスは黄金の光を放つ。
(進化シーン:テントモン→カブテリモン)
「テントモン進化、カブテリモン!」 (テントモン)
(進化シーン:カブテリモン→アトラーカブテリモン)
「カブテリモン超進化、アトラーカブテリモン」 (カブテリモン)
(進化シーン:アトラーカブテリモン→ヘラクルカブテリモン)
ムゲンドラモンは氷の地面を、低い姿勢で走っていく。
セラフィモンはムゲンドラモンの背中に急降下攻撃を仕掛ける。
ムゲンドラモンは体を横回転させ、セラフィモンを跳ね飛ばす。
直後の隙をつき、ヘラクルカブテリモンはムゲンドラモンに側方から突進する。
ムゲンドラモンは素早く反応し、ヘラクルカブテリモンを正面から受け止める。
一瞬の膠着状態。
ホウオウモンは空中から降下し、ムゲンドラモンの右腕をつかみ、ひねり上げる。
そのまま持ち上げてムゲンドラモンを無防備状態で吊り上げる。
そこへ、セラフィモンが右足で急降下蹴りをかます。
胸に突き刺さる一撃にムゲンドラモンは声なき悲鳴を上げる。
ヘラクルカブテリモンはムゲンドラモンを角でしゃくりあげ、空中へ投げ飛ばす。
「スターライトエクスプロージョン!」 (ホウオウモン)
ホウオウモンが放つまばゆい金色の閃光。
「ギガブラスター!」 (ヘラクルカブテリモン)
ヘラクルカブテリモンが放つ青白い光弾。
セラフィモンが放つ7つの金色の光弾。
ムゲンドラモンはすべてを食らう。
大爆発。
ジョー、ソラ、ミミ、コウシロウ、タケルは爆発を見つめる。
爆発はやがて収まり、後には何も残っていない。
「ヘトヘトでんがな」 (モチモン)
「モチモン!」 (コウシロウ)
空から落ちてくるモチモンを、コウシロウは受け止める。
「コウシロウはん、すんまへん。重くないでっか?」 (モチモン)
コウシロウは無言で、モチモンを優しく抱きしめる。
「コウシロウはん?」 (モチモン)
「絆はあったんですね」 (コウシロウ)
コウシロウはしみじみと言う。
「トコモン!」 (タケル)
トコモンは疲れた様子を見せつつも、何度か跳ねて行く。
「タケルー!」 (トコモン)
トコモンはタケルの胸の飛びつき、タケルはトコモンを抱きしめる。
「えへへー!」 (トコモン)
ジョー、ソラ、ミミはその様子を笑顔で見ている。
3人の頭上に、赤い光のかけらが降り注ぐ。
「うん?」 (3人)
3人が見上げる先に、ホウホウモンは滞空していた。
やがて、全身が金色に光り、シルエットが変わっていく。
ガルダモン、バードラモン、ピヨモン、最後にピョコモン。
ふわふわと落ちてくるピョコモンを、ソラは受け止める。
目を閉じ、そっと抱きしめる。
「ピョコモン、ありがとう。カッコよかった!」 (ソラ)
「ソラ! ソラもカッコよかったよ!」 (ピョコモン)
ピョコモンとソラは見つめあう。
「ついに君たちも、乗り越えたんだね」 (ジョー)
「エラそうだね、ジョー」 (ゴマモン)
若干得意げなジョーに、ゴマモンは突っ込みを入れる。
「パルモンも活躍できたのに」 (ミミ)
「そうかしら」 (パルモン)
ミミは惜しそうに言い、パルモンは照れる。
タンカー。
「ああっ!」 (メイコ)
首にはまった紫に光る輪を支点に吊り上げられ、メイコは呻く。
「メイコー!」 (メイクーモン)
メイクーモンは叫ぶ。
その眼前で、ゲンナイは右手をメイコにかざしている。
ゲンナイの右手には紫の光がとどまっており、上の先でメイコが浮いている。
「メイクーモンを恐怖させるなら、パートナーを痛めつけるのが手っ取り早いからなぁ」 (ゲンナイ)
メイクーモンは目を見開き、口を大きく開けた状態で硬直している。
メイクーモンは怒りの表情を浮かべつつ、ゲンナイに跳びかかり、左肩に噛みつく。
ゲンナイは涼しい顔で肩を軽く振る。
メイクーモンは、強い衝撃を受けたように吹き飛び、操舵室の壁に叩きつけられる。
壁をずり落ち、怒りのまなざしをゲンナイに向けるが、再び跳びかかる体力は残っていない。
「さぁ、解放しろ。世界を壊せ。お前のせいでパートナーが死ぬぞ」 (ゲンナイ)
ゲンナイはメイクーモンに流し目を送る。
「うぐっ……」 (メイコ)
首にはまった輪が閉まり、メイコはうめき声をあげる。
「ほら、ほーら、ほぉら」 (ゲンナイ)
ゲンナイは挑発する。
メイクーモンは立ち上がる。
「……」 (メイコ)
メイコは気絶し、その全身から力が抜ける。
「あ」 (メイクーモン)
収縮するメイクーモンの瞳孔。
ドクン……ドクン……。
鼓動。
「お前は生まれてはいけなかった。生まれてきては、いけなかったんだよ……」 (ゲンナイ)
メイコの眼鏡は顔からずり落ち、タンカーのデッキの床に落ちる。
左のレンズが割れ、破片が散らばる。
「あ……」 (メイクーモン)
黄緑色に光るメイクーモンの目。
氷山。
「みんな、無事か!?」 (タイチ)
ヒカリ、テイルモン、コロモン、タイチ、ツノモン、ヤマトは仲間と合流すべく、
氷の上を駆けて行く。
「ええ、なんとか」 (コウシロウ)
コウシロウ達は出迎える。
「ムゲンドラモンは僕達がやっつけたよ」 (ジョー)
「ん?」 (ゴマモン)
胸を張って答えるジョーを、ゴマモンは何か言いたげな表情で見あげる。
ヒカリとテイルモンはタケルのもとに駆け寄る。
「ソラ……」 (タイチ)
タイチとヤマトは焦った表情をしつつ、立ち止まる。
「二人とも、ケガはない?」 (ソラ)
ソラはすっきりとした表情で答える。
「うん?」 (タイチ)
「あ、ああ」 (ヤマト)
タイチとヤマトは面食らい、曖昧な返事を返す。
「じゃあ、メイメイのところ戻ろう」 (ミミ)
タイチとヤマト以外はタンカーに向かって歩き出す。
ソラは、タイチとヤマトの前で立ち止まる。
タイチはヤマトを肘でつつく。
ヤマトはタイチを肘でつつき返す。
「なによ?」 (ソラ)
ソラは不思議がる。
「あー、その……。さっきは、悪い」 (タイチ)
タイチは気まずそうに頬を掻きつつ、顔をそらす。
ヤマトはタイチの様子を確認しつつ、ソラをまっすぐ見つめる。
「うん? ……ああ!」 (ソラ)
ソラは胸元に抱いているピョコモンに目を移す。
「それは、もういいの」 (ソラ)
ソラはあっけらかんと答える。
「もういい、って」 (タイチ)
「いや、よくはないだろう」 (ヤマト)
「いいの!」 (ソラ)
ソラはくるりと背を向ける。
「ええ……」 (タイチ、ヤマト)
男子2人は声をハモらせる。
「ばーか」 (ソラ)
二人に背を向けるソラは、嬉しげな表情でいる。
轟音と地震。
「うわっ!」 (全員)
突然の事態にそれぞれが慌てる。
パルモンはミミの足にしがみつく。
テイルモンはヒカリの足にしがみつく。
タケルはトコモンを抱えつつ、ヒカリの肩に手を置く。
他もそれぞれに周囲を見渡し、事態の把握に努める。
「何だ!?」 (タイチ)
タンカー。
「DAGAAAAAAAAAAAAAAN!」 (メイクラックモンVM)
メイクラックモンは咆哮しながら空高く飛び上がる。
その背に浮かぶ光の玉から、雷が降り注ぐ。
「ふはははは!」 (ゲンナイ)
ゲンナイはメイクラックモンVMを見上げながら、両手を広げ、高笑いする。
その傍らに、メイコは横たわっている。
(エンディング:KEEP ON~♪)