「ぼくらの未来」

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 あらすじ:
 突然変異したメイクーモンは現実世界へと渡り、イグドラシルに操られたデジモンたちも続々と姿を現した。
 世界崩壊の危機の中、子どもたちも現実世界へと戻される。
 夏休みの校舎に身を隠しながら、現実世界もデジモン達も救える道を模索する中、
 イグドラシル、ホメオスタシス両者の対立に巻き込まれ、太一達は誰と戦っているのかわからなくなっていく。
 敵意を向けられ暴走するメイクーモンはさらに姿を変える。
 イグドラシルの使者アルファモンまでもが姿を現し、激化していく三つ巴の戦い。
 暴走し苦しみ続けるメイクーモンを救うため、芽心はひとつの答えを導き出す。
 「メイちゃんを殺して」
 太一は芽心の痛みを受け止め、その決意を引き継ごうとするが、
 ジエスモンが放った攻撃に巻き込まれ、崩壊する大地に飲み込まれてしまった。
 悲しみの絶望がヒカリを闇へ落とし、テイルモンはオファニモン フォールダウンモードへと暗黒進化。
 さらに、メイクーモンに取り込まれ、邪悪な存在へと姿を変え、現実世界を闇で包み込んでいく……

「大いなる暗黒によって生み出されたもの。
 それは、すべてを焼き尽くす黒き炎。
 混乱の嵐の中で、踊り狂う闇なる力。
 だが、炎が過ぎた後、肥沃な大地は甦る。
 再び大地は豊穣と歓喜にあふれるであろう」 (ナレーション)

 デジタルワールド。
 紫色に波打つ暗い空間。
 そこから降り立つ、オルディネモン。
 体の何倍もある黒い翼が広がり、羽根が舞い散る。

 東京。
 町の中心からは電気が消えていき、間もなく、東京全域が停電する。

 東京上空。
 雲の切れ目から覗くオルディネモンの黒い翼。

 東京。
 宙に浮かぶオルディネモンの体からは、黒い瘴気がじくじくと染み出していく。

 東京上空。
 大気圏に浮かぶ雲は、紫色に染まっていく。

 暗黒の海。
 巨大な水柱が立ち、水は海から空へと流れ込んでいく。
 その向こうに見える、東京。

 お台場。
 空を覆う黒い水はだんだんと広がっていく。
 黒い水の中で、オルディネモンは地上を見下ろしている。

 デジタルワールド。
「イグドラシルの思い通りなら、僕たちの世界はデジタルワールドに飲み込まれる。」 (コウシロウ)

 世界各地。
 デジモン達はそれぞれに反応する。
 ナノモン、ゴーレモン、レアモン、マンモン、ゴリモン。
 炎を背に叫ぶゴーレモン。
 極地を進むゴリモン。
 海面進むアノマロカリモン、エビドラモン。
 砂漠を進むタンクモン。
 住宅街の道をずるずると集団で進む小型デジモン。
 レインボーブリッジの下を潜り抜けて遡上していく水中型デジモン。
 河川敷のグラウンドの上空に大挙している飛行型デジモン。
 ゲンナイは、橋の下に逆さまにぶら下がり、台場公園付近のデジモン達を見ている。

 デジタルワールド。
 凝視するヒカリ。
 タイチは地面が割れ砕ける中を必死に駆け、跳び、進んでいく。
 しかし、大きく盛り上がった地面に飛び乗ったところで、その地面ごと地割れの中に飲み込まれていく。
 もはやなすすべのないタイチ。
 駆けつける西島。
 落ちていくタイチ。
 身を乗り出して手を伸ばす西島。
 地割れから吹き上がる土煙。
 2人はヒカリの視界から消える。
 呆然となるヒカリ。

 心象風景。
 真っ白な空間に一人立つヒカリ。
「お兄ちゃん……?」 (ヒカリ)
 晴れ渡る空の下のレインボーブリッジ。
 行きかう車。
 モノレール陸橋下の交差点。
 モノレールが過ぎゆく下に、信号待ちのたくさんの車。

 真っ白な空間に立つヒカリ。
 その傍らに立っているタイチ。
「ずっと、一緒だった」 (ヒカリ)
 回想。
 ―焚き火に照らされた笑顔のタイチ。
 ―生徒指導室で今後の話をした時に、ふと表情を緩めたタイチ。

 真っ白な空間に立つヒカリ。
 その傍らに立ち、ヒカリを挟んで遠くを見ているタイチ。
「あの嵐の日も……あの晴れた日も……雨の日も……悩んだ日も……怒った日も……」 (ヒカリ)
 太一の机。
 ノート、教科書(One Vision)、シャープペンシル、消しゴム。
 デジタルワールドでの集合写真。
 デジヴァイス。
「私は見ていたよ……」 (ヒカリ)
 当惑の表情のヒカリ。

 タイチの部屋。
 ピピピピと卵型の目覚まし時計のアラーム。
 パソコン机、いすにかけられたシャツ。
 勉強机、辞書、デジヴァイス。
 ノート、ENGLISH COMMUNICATION "ONE VISION"、シャープペンシル、消しゴム。
 デジタルワールドでの記念写真。
 床の上のCDコンポ、CD、サッカーボール。
「お兄ちゃん?」 (ヒカリ)
 ヒカリは部屋のドアを開ける。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
 ヒカリは二段ベットの下側、兄のスペースの前に立つ。
 腰に手を当て、ため息をつく。
「もう、起きてよ」 (ヒカリ)
 ヒカリは布団を引っ張って揺らす。
「お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
 ヒカリは勢いよく布団を引きはがす。
 布団の中には、誰もない。

 真っ白な空間に一人立つヒカリ。
「ヒカリちゃん!」 (タケルの声)

 デジタルワールド
 涙を浮かべているヒカリ。
 ヒカリがうつむき、零れ落ちる涙。
 心配そうな表情でヒカリを見るタケル、パタモン。
「大丈夫?」 (タケル)
「……うん」 (ヒカリ)
 ヒカリは手で涙をぬぐう。
 タケルは、とりあえずの安堵の息をつく。
 ヒカリは、暗い表情で地面を見つめる。
 タケルは表情を曇らせる。
 空は水面のように波立っている。
 オルディネモンが現れた時のような濃紫ではなく、いくらか晴れた青色になっている。
 対して、子どもたちはどんよりとした心で、地べたに座っている。
 ミミ、ミミの膝で眠るパルモン、メイコ、ソラ、ソラに寄りかかって眠るピヨモン。
 ヤマト、ヤマトの足元で並んで寝るツノモンとコロモン、コウシロウ、コウシロウの傍らで眠るテントモン、
 ジョー、ジョーの膝の上で眠るゴマモン。
「あ、見てあれ!」 (ミミ)
 ミミは空を指さす。
 反応して、パルモンは目を覚ます。
 子どもたち、そして、目を覚ましたデジモンたちは全員、空を見上げる。
 空に浮かぶ水面に映し出されているのは、逆さまになった東京の街並み。
「お台場?」 (ジョー)
「そうみたい」 (ミミ)
「あちこちに歪みが……」 (ソラ)
 ジョー、ミミ、ソラは声を漏らす。
 先ほどまで青一色だった空に映し出される、お台場周辺を上から見下ろした情景。
「現実世界とデジタルワールドの境界がなくなってきているんです」 (コウシロウ)
 コウシロウは苦々しげな表情でパソコンを操作し始める。
「そうなったら、ワテら現実世界に行きたい放題でんな」 (テントモン)
「ジョーともいつでも会えるよ」 (ゴマモン)
「生憎だけど、問題はこの先、現実世界が残っているかどうかってことだよ」 (ジョー)
 テントモンとゴマモンの楽観的な言葉に、ジョーは苦笑いで答える。
「全部デジタルワールドに飲まれちゃったら、イグドラシルの思い通り……」 (ミミ)
 ミミは表情を曇らせる。
「くっ!」 (ヤマト)
 ヤマトは上空をにらみつける。
「そんなことさせるか」 (ヤマト)
 ヤマトは、タイチのゴーグルを持つ左手でぐっと握りしめる。
 ツノモンはその様を隣から見つめている。
「気になるのは、この先のホメオスタシスの出方です。
 メイクーモンが暗黒進化したオファニモンを吸収して、さらに強大化してしまった。
 安定と調和を目的とするホメオスタシスが、放っておくとは思えません」 (コウシロウ)
 コウシロウの言葉に、ヒカリはビクッと反応する。
 ヤマト、ジョー、ソラ、ミミがコウシロウに集中する中、メイコはヒカリの反応に気づく。
 メイコは、暗い表情を浮かべつつ、ヒカリからゆっくりと顔をそらす。
「確かに、そうだよな」 (ジョー)
「メイちゃんを探さないと」 (ソラ)
 ジョー、ソラ、ミミは真剣な表情でコウシロウを見る。
 突然の赤い稲妻。
 落下地点が爆ぜ、広がる、巨大な歪みの穴。
「うわっ!」 (全員)
 ヤマト達は落雷の方を見る。
 コウシロウはパソコンを操作し始める。
「あの歪みは、現実世界とつながっているようです。あそこから戻れます」 (コウシロウ)
「……」 (ヤマト)
 ヤマトは全員を見渡す。
 真剣な表情のジョー、ソラ、ミミ、コウシロウ、
 不安げな表情のメイコ、
 思案顔のタケル、
 背を向けているヒカリ。
「……行こう」 (ヤマト)
 ヤマトは、告げる。

 森の中。
 ヤマトたち一行は無言で進む。
 ふと、ヤマトは立ち止まり、振り返る。
 森の向こうに、高くそびえる岩山と海のように波打つ空。
 ヤマトはしばらく見つめていたが、不意に、ソラと目が合い、表情を曇らせる。
「……っ」 (ヤマト)
 ヤマトは、ソラの視線を振り切るように、進行方向を向く。
 ソラは不安の表情を浮かべている。
 ヤマトとソラは足を止める。
 一行は2人のそばを通り過ぎ、進んでいく。
 一行がしばらく先まで進んだところで、ヤマトは顔だけソラのほうに振り返る。
「……いいよ」 (ソラ)
「えっ?」 (ヤマト)
 ソラの言葉に、ヤマトは困惑する。
「タイチを助けに行っても」 (ソラ)
「なっ!?」 (ヤマト)
 諦めたような笑顔で言うソラに、ヤマトは驚く。
「この先のことは、私たちだけでなんとかする。タイチを探しに行きたいんでしょう」 (ソラ)
「……いや、いい」 (ヤマト)
 ヤマトは再び前に振り返る。
 ソラは不安げな表情を浮かべる。
「それよりも今は、世界を救うためにやるべきことがある」 (ヤマト)
 一瞬の間。
 ソラのため息。
 ヤマトは首にかけたゴーグルに手を伸ばし、ソラは上空を見上げる。
「まだ、実感がなくて。西島先生のことも、メイクーモンとテイルモンのことも、タイチのことも……」 (ソラ)
「……俺もだ」 (ヤマト)

 ソラは不安の言葉を口にし、ヤマトは手に持ったタイチのゴーグルを見つめる。
「ねぇ、ヤマト」 (ソラ)
 ソラは、来た道の方を向き、背中向かいのヤマトに告げる。
「今だけ、弱音言っていいかな」 (ソラ)
「ああ」 (ヤマト)
 ソラはしばらく沈黙したのち、重苦しく口を開く。
「タイチは、無事だよね?」 (ソラ)
 ヤマトは驚きの表情となり、ソラのほうに顔を向ける。
「タイチ、死なないよね」 (ソラ)
 ヤマトはソラの方に向き直るが、声をかけられない。
 ソラは、目に涙を浮かべながら、振り返る。
 ヤマトは、困ったような笑顔を浮かべる。
 沈黙。
「ゴメン……」 (ソラ)
 ソラは顔をそらす。
「……大丈夫か?」 (ヤマト)
 ヤマトはためらいがちに言う。
「……ありがとう」 (ソラ)
 ソラは目に涙を浮かべたまま、無理やりの笑顔で答える。
「ソーラー?」 (ピヨモン)
 ピヨモンの声。
 ソラは声のほうに振り返る。
 ピヨモンは空からやってくる。
「……きゃっ!?」 (ピヨモン)
 ピヨモンは涙を浮かべているソラを見て、顔を赤くして口元を押さえる。
「鳴かした!?」 (ピヨモン)
 ピヨモンはヤマトに食って掛かる。
「んなっ!?」 (ヤマト)
「ちがうちがう!」 (ソラ)
 ヤマトは驚き、ソラは慌ててフォローする。
「どうしたの、ソラ? ヤマトにいじめられたの? へんてこりんなラブソング歌われちゃった?」 (ピヨモン)
「歌わねーよ!」 (ヤマト)
「歌うでしょ!」 (ピヨモン)
 ヤマトとピヨモンが揉めているのを見つつ、ソラは苦笑い。
 一番前を先行するコロモンは、ふと振り返り、上空を見上げる。
「タイチ……」 (コロモン)
 波打つ空。
 その向こうに浮かぶ、東京の情景。

 東京。
 人々が、何も表示されていない電光掲示板を見上げている証券取引所。
 電車事故が発生し、そこかしこから煙の上がる都会。
 消防士たちが必死の消火作業を進める、玉突き事故が起きた幹線道路。
 タンクモンとマンモンの襲撃を受ける中東の町。
 エビドラモンとアノマロカリモンの襲撃を受ける海沿いの町。
 ゴーレモンの襲撃を受ける凱旋門広場。
「被害は甚大で、世界中で同時多発的に、停電やデジタル機器の混乱が頻発しています。
 さらに、世界中のあらゆる場所で、今もなお、非常に攻撃的なデジモン達が、破壊行動を繰り返しています。
 これらは、デジタルワールドによる現実世界への侵略行為への一端であると推測されます。至急、対策が必要です。」 (望月教授)
 望月教授は会議室で、何人ものスーツを着た人たちに説明している。
 望月経上の説明を受け、会議の出席者たちはそれぞれの反応を示す。
「各国の軍と連携して対処すべきです」 (望月教授)
 望月教授は会議を締めくくる。

 廊下。
 望月教授は、会議室から出てくる。
「……」 (望月教授)
 望月教授は、今出てきた会議室の方をしばらく見た後、歩き出す。
 そして、携帯電話を取り出す。
 望月教授の携帯電話画面。
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 受信ボックス
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 下書き
 >プライベート
 ゴミ箱
 新着メール確認
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  芽心
  件名なし
  無事に戻ったら連絡をくれ
  芽心
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  To: 芽心
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「……」 (望月教授)
 望月教授は携帯電話をしばし見つめる。
「残念ながら」 (ハックモン)
「!?」 (望月教授)
 突然のハックモンの声に、望月教授は驚き、振りむく。
「人間には制御不可能な状況だ」 (ハックモン)
 照明の消えている廊下にハックモンの姿を確認し、望月教授は歩いて近づく。
「何が起きたんだ」 (望月教授)
「ホメオスタシスはライブラの排除に失敗した」 (ハックモン)
「なっ!?」 (望月教授)
 ハックモンの返答に、望月教授は驚愕する。
「オルディネモンが誕生し、世界の調和は失われてしまった」 (ハックモン)
 イメージ
 ―紫の瘴気にまとめて巻き取られるラグエルモンとオファニモンFDM。
 ―体の境界が滲み、一つに溶け合っていくラグエルモンとオファニモンFDM。
 ―ラグエルモンの金色の瞳と、オファニモンFDMの赤い瞳が混ざり、紫の瞳が出来上がる。
 ―上空の暗い空間から降臨するオルディネモン。
 ―人体部分の何倍もある翼を広げ、黒い翼を降らせるオルディネモン。
「メイコは、あの子たちは、無事なのか」 (望月教授)
 望月教授はハックモンに問う。
「これ以上の犠牲をホメオスタシスは望んでいない」 (ハックモン)
 望月教授は安堵の息を吐く。
「すべての混乱を強制終了させるためには、
 例の最終計画を実行に移すしか手は無い」 (ハックモン)
「……」 (望月教授)
 ハックモンの言葉に、望月教授は目を見開き固まる。
「オルディネモンを止めなければ、この世界に未来はない」 (ハックモン)
「……」 (望月教授)
 望月教授は無言で答える。
「これは、人類に残された唯一の選択肢。
 実行しない限り世界は、確実に滅びゆく。
 無駄な抵抗をしている暇はない」 (ハックモン)
 言い終わった後、ハックモンの体は赤いモザイクになって消える。
「くっ……」 (望月教授)
 残された望月教授は、左手の携帯電話を握りしめる。

 お台場のフェリー乗り場。
 デジタルワールドから帰還した子どもたちとデジモン達は、
 真っ暗な空を見上げている。
 正面にはTV局。
 上空には黒く波打つ空。
 ソラの向こうには、ついさっきまでいたデジタルワールドの大地。
 真っ暗で、雨の降り注ぐこちら側とは打って変わり、明るく、晴れ渡っている。
「なに……これ……」 (ソラ)
「どうなってるの……?」 (ミミ)
 ソラ、ミミは呆然としながら感想を漏らす。

 歩道橋。
 有明駅前交差点。
 川沿いの遊歩道。
 工場。
 全て、人の気配は全くない。
「先ほど、臨海副都心全体に非常事態宣言が発令されました。市民の皆さんは、なるべく外出を控えてください」 (警察官)
 パトカーは回転灯を光らせながら、ゆっくりと道路を進む。
 警察官はスピーカー越しにアナウンスしている。

 コウシロウのマンション。
 子どもたちは、コウシロウのパソコンデスクの周りに集合している。
「メイクーモンについてまだ詳しい情報は出ていませんね」 (コウシロウ)
「こっちには来ていないの?」 (ミミ)
「そうだと良いんですが」 (コウシロウ)
 ミミの問いかけに、コウシロウは答える。
「だけど」 (ソラ)
「あの時、確かに歪みへと消えた」 (ジョー)
 ソラは顔を曇らせ、ジョーも顔をしかる。
「今、一体どこにいる」 (ヤマト)
 ヤマトは問う。
「わかりません。ですが、あれだけの強大なデジモンです。またこちらの世界に現れる前に食い止めなければ」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコン画面。
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 世界地図の上に四角い画像×6。
 ヨーロッパにアノマロカリモン。
 ロシアにゴリモン。
 中東にタンクモン。
 アメリカにナノモン。
 オーストラリアにゴーレモン。
 南米沖にSOUND ONLY。
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「あたし……のせい……」 (ヒカリ)
 ヒカリはつぶやく。
「あ……」 (一同)
 一同はヒカリのほうに振り返る。
「あたしの……」 (ヒカリ)
 ヒカリはぼんやりとした表情を浮かべている。
「ヒカリさん!」 (メイコ)
 メイコは首を振る。
 メイコは、視線を下に下げているヒカリのもとに駆け寄る。
「お兄ちゃん、どこ……?」 (ヒカリ)
 メイコは、ヒカリの肩に手を当てようとしていた手を止める。
「帰ってきて……」 (ヒカリ)
 ヒカリはぼんやりとした顔のまま、部屋の入り口の方に視線を送る。
 ジョー、ヤマト、タケル、ミミ、ソラ、コウシロウは声をかけられない。
「うっ……」 (ミミ)
 泣き始めるミミ。
 胸元で右手をぎゅっと握りしめるソラ。
「何でミミが泣くの!」 (パルモン)
 パルモンは泣きながらミミに駆け寄る。
「だって、だって!」 (ミミ)
 ミミとパルモンは抱き合いながら泣き始める。
「お兄……ちゃん」 (ヒカリ)
 ヒカリは目を閉じ、崩れ落ちる。
 ソラは慌てて駆けより、ヒカリの体を支える。
 一同はどよめく。
「どうしたの!?」 (ソラ)
 ソラはゆっくりとヒカリを座らせる。
「ヒカリちゃん!」 (タケル)
 タケルは血相を変えてヒカリに駆け寄る。
 顔の赤いヒカリ。
 ソラはヒカリの額に左手を当てる。
「すごい熱……」 (ソラ)
 ソラ、タケル、メイコはヒカリを心配げに見る。
「大丈夫なのか?」 (ヤマト)
 ヤマトは焦った表情で問う。
「無理してたんだよ、きっと……」 (タケル)
 タケルはつぶやく。
「……」 (メイコ)
 メイコは顔を下に向ける。
「あたし、ヒカリさんにどうお詫びしていいか分かりません」 (メイコ)
 メイコ、ソラ、コウシロウは固まる。
「だって、元はと言えば全部、私とメイちゃんが巻き込んだことです」 (メイコ)
「もう、やめよ」 (ミミ)
 ミミの声に、メイコは顔を上げる。
「そういうのナシナシ」 (ミミ)
 ミミは人差し指を立て、笑顔を浮かべる。
「良いことも悪いことも考えないでいい。前だけを向いていましょう、今は」 (ソラ)
 ソラも優しげに言う。
「……」 (メイコ)
 メイコはきまり悪そうに顔をそらす。
「ヒカリちゃん、休ませてくるわ」 (ソラ)
 ソラはヒカリを立ち上がらせ、別の部屋へと連れていく。
 一同は見送る。
 その表情は、悲壮感、罪悪感、無力感がにじんでいる。
「くっ!」 (タケル)
 タケルは悲しそうな表情で歯噛みする。
 ヤマトは、タケルの側に寄り、肩に手を当てる。
「俺たちが、タイチの分も」 (ヤマト)
 ヤマトの言葉に、タケルは頷く。
 タケルは左手をぎゅっと握りしめる。
 ジョーは、どうしたらいいのかわからないといったような顔をしている。
「ジョー?」 (ゴマモン)
「うん?」 (ジョー)
 足元から声をかけるゴマモンに、ジョーは膝を追って目線を合わせる。
「どうしたんだ、ゴマモン」 (ジョー)
「見て、コロモンが」 (ゴマモン)
 ゴマモンが目配せする先では、コロモンが目を回している。
 テントモンとパタモンは心配そうにコロモンを見ている。
「うわっと、大変だ」 (ジョー)
 ジョーは慌てる。
「大丈夫?」 (ミミ)
 ミミはコロモンに歩み寄り、心配そうに抱き上げる。
「よしよし」 (ミミ)
 ミミはコロモンの頭をなでる。
「いっぱい戦ったから、腹ペコなんじゃない?」 (パタモン)
「腹が減ってはなんちゃらかんちゃらって言いますさかい」 (テントモン)
 パタモンとテントモンもコロモンの側による。
「あんさん、ご飯にしますか? それとも、お風呂にしましょか?」 (テントモン)
 イメージ。
 ―ピンクのエプロンに身を包むテントモン。
「あら、若奥様みたいね」 (パルモン)
 パルモン、ピヨモンは笑う。
「ごはん、ごはん!」 (コロモン)
 コロモン、ツノモン、パルモン、テントモン、ジョーははしゃぐ。
 その様を見て、ジョー、コウシロウ、タケル、ヤマト、ミミは表情を若干ほころばせる。
 メイコは表情を硬くしていたが、やがて、顔を下に向けつつ、表情を和らがせる。

 ベランダ。
 ヤマトは、黒く波打つ空の下、明かりのまばらになった暗い東京を見つめている。
 レインボーブリッジ。
 浜辺。
 暗い水面。
 何処にも、人影はない。
 ヤマトは、一瞬顔をしかめた後、不安げな顔になる。
 右手に持った、タイチのゴーグルを見つめる。
「タイチ……」 (ヤマト)
 ヤマトはタイチのゴーグルを両手で持つ。
 そのまま、目を瞑り、顔に近づける。
「くっ!」 (ヤマト)
 ヤマトは苛立ったような顔で空を見上げる。
「この大事な時に居なくなってんじゃねえよ」 (ヤマト)
 空に一瞬、雷の閃きのように、デジタルワールドの情景が映る。
「ここに居る!」 (ガブモン)
 ガブモンはヤマトの後ろから手を回し、ヤマトの足に抱き着く。
「ガ、ガブモン!?」 (ヤマト)
 ヤマトは驚いて振り返る。
「いっぱい食べたら大きくなったよ。へへへ」 (ガブモン)
 ガブモンは笑顔をヤマトに向ける。
「……ふっ」 (ヤマト)
 ヤマトは軽く笑いながら、腰を下ろす。
「ヤマト、デジモンかるたの『こ』で始まるやつ、知らないの?」 (ガブモン)
「は? かるた?」 (ヤマト)
 ガブモンの突然の問いかけに、ヤマトは戸惑う。
「『こ』まったら、パートナーデジモンに相談だ」 (ガブモン)
「いや、初めて聞いた」 (ヤマト)
「そりゃあそうだよ。今、俺が勝手に作ったんだからさ」 (ガブモン)
 ガブモンは悪戯っぽく笑う。
 ヤマトは肩の力を抜いて笑う。
「ヤマト」 (ガブモン)
 ガブモンは突然、ヤマトに抱き着く。
 ヤマトは驚く。
「オレがいるでしょう。何でも話してよ。寂しいこと、辛いこと」 (ガブモン)
 ヤマトは嬉しそうに笑う。
「ずっとそばにいるよ。ヤマトがヤダって言っても、一緒にいるよ」 (ガブモン)
「……うん」 (ヤマト)
「ヤマトが結婚して、子供とかできたら、オレ、赤ちゃんの面倒見るよ」 (ガブモン)
「はあ?」 (ヤマト)
「ヤマトがオジサンになったら、一緒にサウナに行く。ヤマトが爺さんになったら、一緒にお散歩するよ」 (ガブモン)
「なんだよ、それ」 (ヤマト)
「ヤマトが大人になっても、ずっと、ず~っと……。オレを必要としてくれるなら……ずっと……オレは……」 (ガブモン)
 ヤマトは両腕に力を込める。
 顔をガブモンの肩に寄せる。
「オレは……何だってできる」 (ガブモン)
 ガブモンは、ヤマトの袖をつかむ手に力を込める。
「世界だって救うよ」 (ガブモン)
「……」 (ヤマト)
 ヤマトはガブモンの背に手をまわす。
「もういい……わかったから……」 (ヤマト)
 空は暗く波打っている。
「今なら、わかる気がする。タイチが言ってたこと」 (ヤマト)

 回想。
 観覧車の中で向き合うヤマトとタイチ。
「何悩んでんだ、お前らしくない。昔のお前ならもっと」 (ヤマト)
「仕方ないだろう。」 (タイチ)
 ヤマトは遮られる。
「昔とは違うんだ」 (タイチ)
 ぶつかり合うヤマトとタイチの視線。
「昔よりいろんなことが見えて、わからなくなる」 (タイチ)
 観覧車はゆっくりと回る。
「俺たちのしてることが、いいことなのか、それとも、悪いことなのか」 (タイチ)
 ヤマトとタイチはゴンドラの外に顔を向ける。
 海上のモノレール。
 入り江。
 平素の東京。
「俺たちがやるしかないってことも知ってる。
 けど、そんな単純じゃない」 (タイチ)
 ヤマトはため息をつく。
「そんなの、逃げてるだけだ」 (ヤマト)
 ヤマトの言葉に、タイチはぐっと詰まる。
 タイチとヤマトはにらみ合う。

 現在。
「大事なものを失う怖さを、タイチがいなくなって……俺……」 (ヤマト)
 ヤマトはガブモンの肩に顔をうずめ、嗚咽を漏らし始める。
「ヤマト……」 (ガブモン)
 ガブモンはヤマトの袖を掴み、引き寄せる。
「タイチの代わりになれるのはヤマトしかいないよ。きっと、タイチもそれを望んでるんじゃない」 (ガブモン)
「……うん」 (ヤマト)
 ガブモンの言葉に、ヤマトは声を震わせながら答える。
「ヤマトはわかってるよね」 (ガブモン)
 ガブモンは目を瞑る。
 ヤマトとガブモンはぎゅっと抱きしめあう。
 ヤマトは肩を震わせる。
「泣くなよぉ」 (ガブモン)
「泣かせんなよ」 (ヤマト)
 そんな2人の様子を、テントモン、ゴマモン、パタモン、ピヨモン、アグモン、パルモンは窓に張り付いてうかがっている。
「……ん?」 (ヤマト)
 ヤマトは気づく。
「なっ!?」 (ヤマト)
「あっ!」 (テントモン、ゴマモン、パタモン、ピヨモン、パルモン)
 デジモン達は固まる。
「あ」 (ガブモン)
 ガブモンは振り返る。
 ヤマトは呆気に取られている。
 テントモン、ゴマモン、パタモン、ピヨモン、パルモンはばつが悪そうに眼をそらす。
 アグモンはよくわかってない様子でじっと見続けている。
 沈黙。
「……お前ら」 (ヤマト)
「ひゃあ!」 (テントモン、ゴマモン、パタモン、ピヨモン、パルモン)
 デジモン達は一目散に―アグモンだけはピヨモンに引っ張られて―避難する。
 ガブモンは、ヤマトから少し離れたところで空を見上げている。
「ったく、あいつら……」 (ヤマト)
 ヤマトはため息をつく。
「……あれ?」 (ガブモン)
「うん?」 (ヤマト)
 ガブモンのつぶやきにヤマトは振り向く。
 ガブモンは空を見上げている。
 ヤマトは立ち上がりつつ、ガブモンが見る先に視線を合わせる。
 空に走る紫色の稲光。
「なっ、歪み!?」 (ヤマト)
 ヤマトはタイチのゴーグルを両手で持ち直し、しばし見つめる。
「ヤマト!」 (ガブモン)
 ガブモンは緊張した面持ちでヤマトの方に向く。
「……ああ」 (ヤマト)
 ヤマトは深呼吸する。
 そして、タイチのゴーグルを装着し、空のゆがみを見る。
 ゴーグルを通してみる空には、赤い光が歪みに向かって集まっている。
 真っ白く輝く歪みの中心は、やがて径を広げる。
 歪みの穴は白く光り、ガブモン、ヤマト、そして、東京を照らす。
「あ……」 (ヤマト)
 歪みの穴から発せられる白い光は、暗く波打つ空に十字を描く。
 その中心から、黒く、巨大な、黒い羽根に巻かれたモノが降り立ってくる。
「まさか!?」 (ヤマト)
 広がる黒い翼と散らばる羽根。
 針をらせん状に組んだような四肢。
 白い肌の女体。
 顔を上げた拍子に波打つ、蛇のような頭髪。
 緑と紫の光を放つ翼の節。
「KWEAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫び声をあげながら全身と黒い翼を伸ばす。

 コウシロウのオフィス。
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 世界地図。
 世界中のデジモンたちの表示。
 日本を指し示しながら新たに出現するグラフ。
 ---------------------------
「メイクーモンが現れました!」 (コウシロウ)
 コウシロウはパソコンデスクから立ち上がる。

 お台場。
 オルディネモンはゆっくりと地上に降下していく。
「大変危険な状況です! 周囲の方はすぐに避難してください!」 (警察官)
 逃げ惑う人々。
 誘導する警察官。
 陸橋下。
 線路沿いの商店街。
 地下道。
 オルディネモンはゆっくりと地上に降下してく。

 晴れた空。
 出動する軍用ヘリコプター。

 東京。
 オルディネモンは地上の大きな交差点に両手足をついて着地する。
 そのまま、オルディネモンの巨体は地面に倒れこむ。
 巻き起こる砂煙、突風。
 道路の植木や神社の木が風にあおられる。
 オルディネモンはゆっくりと体を起こす。
「KUWAAAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンの叫び声。
 揺れる大気、地面、建物。
 歩道橋の上から誘導棒を振る警察官。
 車を乗り捨て、逃げ惑う人々。
 オルディネモンはゆっくりと這い進む。
 進むたびに大地が揺れる。
 オルディネモンの翼はあちこちに触れる。
 電灯、電線、建物。
 すべて、消滅する。
「ヒャーハッハッ!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは公園の石のオブジェの上に乗りながら、高笑いをする。
「何でこんな厄介な奴生み出しちゃうかねぇ。まぁ、俺の狙い通り」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは左手を顔に当てつつ、愉快そうに笑う。
 オルディネモンは飛翔する。
 空中で体を丸め、翼を広げる。
 翼からは、紫色の波が発せられる。
 紫色の波が触れ、公園の石垣は腐食するように分解される。
 そこから歪みの穴が出現する。
「そうだよ、やれぇ! もっとやれぇ! 全部ぶっ壊しちまえ!
 どうせ腐ったゴミみたいな世界だ。人間どもだって持て余してんだろうが!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは公園の階段の上から、オルディネモンを見上げている。
 オルディネモンは翼で地上を履くように移動する。
 翼から放たれた紫色の波に触れた箇所から、建物は分解されていく。
「全部ぶっ壊して俺が始末つけてやるよ! ヒャーハハハ!
 イグドラシルが支配する、新しい世界の誕生だ!おめでとう、世界のド畜生共!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは公園の階段の中央で、はしゃぎながらオルディネモンを見上げる。
 オルディネモンは地上を見下ろす。
 紫の波は降り注ぐ。
「FUWAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫び声をあげる。

 ニュース映像。
 ---------------------------
 避難情報
 東京都 港区 品川区 江東区 中央区 千代田区
     渋谷区 目黒区 大田区 新宿区 文京区
     台東区 墨田区 江戸川区
 巨大生物出現
 デジモンか!?
 緊急避難!
 安全な場所への非難を!!
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「近くにお住まいの方は、落ち着いて、まず、身の安全を図ってください」 (ニュースキャスター)
 乱れる映像。
 消えるテレビ。

 東京外郭放水路。
 避難した人の大集団。
 その中に、メイコの母、タイチの母、タイチの父はいる。
「タイチとヒカリから連絡は?」 (タイチの父)
「いいえ、まだ」 (タイチの母)
「うちも、連絡がつかないんです」 (メイコの母)
 地鳴り。
 そして地震。
「わあー!」 (人々)
「きゃー!」 (人々)
 人々は悲鳴を上げる。
 照明が消え、地下の空間は真っ暗になる。
 暗闇で、なお恐怖をあおられる人々。
 まもなく、非常灯が点き、地下空間は赤く照らされる。
 メイコの母は、タイチの母に手を握られながら、下を向く。
 タイチの父、タイチの母は顔を見合わせる。
「大丈夫、あの子たちはいつだって乗り越えてきましたから」 (タイチの父)
 タイチの父は、メイコの母を元気づける。
「信じるしかないです」 (メイコの母)
 メイコの母は頷く。
「ええ……」 (タイチの母)
 タイチの母は、不安げに目を瞑る。

 お台場。
 オルディネモンはお台場の街を飛び回る。
 巨体が起こす突風にあおられて折れる電灯、飛び散る窓ガラス。
 紫色の波に触れられ、虫食いのように穴の開いていくビル群。
「踊れぇ! もっと踊れよ! フヒヒヒヒ!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは歩道橋の欄干に座りながら、笑う。
「踊れぇ!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは歩道橋の欄干の上で跳びながらはしゃぐ。
「KUUWAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは空中で翼を横いっぱいに伸ばす。
 緑と紫の輝きを放つ翼の節。
 紫色の瘴気に覆われる翼全体。
 紫色の波は、空全体に波紋のように広がったあと、しとしとと雨のように降り注ぎ始める。
 公園の木や遊具。
 寺の擬宝珠や屋根。
 紫色の波の雨に打たれたところは、溶けるように消えていく。
 オルディネモンの方に向かって飛んでいく3機の軍用ヘリコプター。
 道路を小走りに避難していく人々。
 地下の駅構内に駆け込む人々
「落ち着いて、落ち着いて行動してください」 (警察官)
 響く警察の誘導の声。
 オルディネモンは四肢をだらりと垂らしつつ、巨大な翼で立っている。
 ヤマト、コウシロウ、ジョー、ミミ、ソラ、メイコ、
 ガブモン、テントモン、ゴマモン、パルモン、ピヨモン、アグモンは下からそれを見上げている。
「あれって……」 (アグモン)
「メイクーはんでっか!? オファニモンを飲み込んで、えらいことになってしもうて……」 (テントモン)
 アグモンとテントモンは声を上げる。
「メイ……ちゃん……?」 (メイコ)
 メイコは衝撃を受けた表情でオルディネモンを見上げる。
「KUWAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは体を起こしながら叫び声をあげる。
 叫び声は大気を、地面を、そびえたつ建物群を震わせる。
「行くぞ、ガブモン!」 (ヤマト)
 ヤマトは腕で顔を防御しつつ、号令をかける。
「わかった!」 (ガブモン)
(進化シーン:テントモン、パルモン、ガブモン、ピヨモン、ゴマモン
 →カブテリモン、トゲモン、ガルルモン、バードラモン、イッカクモン)
「テントモン進化、カブテリモン!」 (テントモン)
「パルモン進化、トゲモン!」 (パルモン)
「ガブモン進化、ガルルモン!」 (ガブモン)
「ピヨモン進化、バードラモン!」 (ピヨモン)
「ゴマモン進化、イッカクモン!」 (ゴマモン)
(進化シーン:カブテリモン、トゲモン、ガルルモン、バードラモン、イッカクモン
 →アトラーカブテリモン、リリモン、ワーガルルモン、ガルダモン、ズドモン)
「カブテリモン進化超、アトラーカブテリモン!」 (カブテリモン)
「トゲモン超進化、リリモン!」 (トゲモン)
「ガルルモン超進化、ワーガルルモン!」 (ガルルモン)
「バードラモン超進化、ガルダモン!」 (バードラモン)
「イッカクモン超進化、ズドモン!」 (イッカクモン)
 5体のデジモンは完全体まで一気に進化する。
「行っけぇ!」 (アグモン)
 アグモンの声援に送られ、デジモン達は飛び立つ。
 子どもたちは、ビルの隙間から、飛んでいくデジモン達を見送る。
 その先には、オルディネモンが翼を広げている。
 オルディネモンの巨体と比べると、デジモンたちの体は、完全体に進化してすら、豆粒のように小さく見える。
「フフフ……ん?」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは、建物の屋上に座って、オルディネモンを見ながら笑っていたが、
 少し離れたところを見て、顔をしかめる。
「ちっ!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは跳び上がり、移動する。
 移動した先にいるのは、ハックモン。
「まだその姿を使ってるのか。世界の融合は進んでいないようだな」 (ハックモン)
「ケッ、ホメオスタシスの犬が」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーはわざとらしく舌打ちする。
「何しに来たんだ。残酷なショーを見に来たのか? 滅びゆく者たちの悪あがき、最後のダンスを」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーとハックモンは太陽光プレートの端と端で向かい合う。
「我々は、世界の安定と調和を望んでいる」 (ハックモン)
「フフフッ」 (デジモンカイザー)
 ハックモンの言葉を遮るようにデジモンカイザーは笑う。
「ねぇねぇ、世界の調和と安定って何なの? 結局全部ぶち壊してんだから俺らと同じじゃね?」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは嘲るようにハックモンに言う。
「君たちとは思想が違う。ホメオスタシスは世界の秩序そのもの」 (ハックモン)
 ハックモンは冷静に告げる。
「ハハハハハッ、最高でしょう! 高尚なこと言っておいて、無茶苦茶に裏切る系?
 そういう遊び方大好き! ホメちゃん惨すぎてしびれるぅ! ヒャハハハハハ!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーはおどける。
 ハックモンはオルディネモンの方を見る。
 オルディネモンの周りを飛び交う5つの光。
「オルディネモンは、わずかに意識が残っているようだな。パートナーたちの声に反応を見せている」 (ハックモン)
「どうでもいいよ。どうせみんな消え失せるんだ。今更ホメオスタシスが何をしようとムダ」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは指を鳴らす。
 暗く波打つ空から、紫色の塊が、雨のように落ちていく。
 ハックモンの背後で、紫色の塊に打たれたビルが、溶解するように消えていく。
「嫌いなものはぶち壊す。思想なんて知るか。イグドラシルに乾杯~!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは腕を天に振り上げる。
 紫色の塊は、勢いを増して降り始める。
 新たにビルが、溶解するように消えていく。

 オルディネモンは巨大な翼をはばたかせながら、東京の空を飛び回る。
 リリモン、ガルダモンは飛んで追跡する。
 オルディネモンは翼の節を緑と紫に光らせた後、高度を落とし、道路スレスレを飛ぶ。
 ズドモン、ワーガルルモン、アトラーカブテリモンは、その先で待ち受けている。
 オルディネモンは一瞬口を開いて緑色の瘴気を吐くと、勢いを増して突っ込んでいく。
 ワーガルルモンは両腕を胸の前で交差させ、耐える姿勢をとる。
 突撃するオルディネモン。
 弾き飛ばされるズドモン、ワーガルルモン、アトラーカブテリモン。
 オルディネモンは大きく羽ばたき、高度を上げる。
 その様を見上げる、ヤマト、ソラ、ミミ。
「強い……」 (アグモン)
 アグモンは唸る。
 オルディネモンは空中で止まった後、翼を柱のように立てて降下する。
 翼の下に敷かれ、2本のビルはきしむ。
「行くぞ!」 (ジョー)
 ジョーの掛け声に合わせ、5人は、紋章の光を湛えたデジヴァイスを掲げる。
(進化シーン:ズドモン、ガルダモン、ワーガルルモン、リリモン、アトラーカブテリモン
 →ヴァイクモン、ホウオウモン、メタルガルルモン、ロゼモン、ヘラクルカブテリモン)
「ズドモン究極進化、ヴァイクモン!」 (ズドモン)
「ガルダモン究極進化、ホウオウモン!」 (ガルダモン)
「ワーガルルモン究極進化、メタルガルルモン!」 (ワーガルルモン)
「リリモン究極進化、ロゼモン!」 (リリモン)
「アトラーカブテリモン究極進化、ヘラクルカブテリモン!」 (アトラーカブテリモン)
 5体の究極体デジモン達は、すぐさま戦闘態勢に入る。
「アークティックブリザード!」 (ヴァイクモン)
 ヴァイクモンは体の周囲に境界を発生させ、気合とともに砕き飛ばす。
 同時に、両肩のとげ鉄球を打ち出す。
「ガルルトマホーク!」 (メタルガルルモン)
 メタルガルルモンは空中を疾駆し、両脇から6発のミサイルを発射する。
 さらに、胸から1発のミサイルを発射し、反動で後方にのけぞる。
「スターライトエクスプロージョン!」 (ホウオウモン)
 ホウオウモンは全身に光を纏い、昇り上がっていく。
 上昇する軌道上に振り撒かれた光は集まり、雷のように空を切り裂く。
「フォービドゥンテンプテーション!」 (ロゼモン)
 ロゼモンは横に一回転した後、胸の前で腕を交差し、全身にエネルギーを溜める。
 足を閉じて真っ直ぐに伸ばし、腕を斜めに振り上げた姿勢から、赤色の波動を胸元から放つ。
「ギガブラスター!」 (ヘラクルカブテリモン)
 ヘラクルカブテリモンは胸の前にかざした4本の腕の中心に、青白い光の玉を生じさせる。
 それを、勢いよく弾き出す。
 5体の攻撃は空中に浮かぶオルディネモン集中し、爆発を起こす。
 爆発の煙が去った後、オルディネモンは無傷で、紫色の瘴気を纏いながら浮かんでいる。
「何!?」 (ヤマト)
「効かない!?」 (ミミ)
「そんな……」 (ソラ)
 ヤマト、ミミ、ソラは声を上げる。
「HUUUUWAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫び声とともに、紫色の波紋状のエネルギーを放つ。
 波紋状のエネルギーはデジモン達に襲い掛かる。
 デジモン達は、エネルギーの奔流にかき消されそうになるのを必死に耐える。
 オルディネモンが見下ろす先、ビルの間の道路で5つの爆発と土煙。
 爆風に吹き飛ばされるピョコモン、モチモン。
 地面にできたクレーターでうずくまるタネモン、ツノモン、プカモン。
 オルディネモンは悠然と空に構えている。
 コウシロウは唖然として、ソラは焦りの表情で、ミミは悔しげに、ジョーは驚愕の表情で、
 メイコは手を合わせつつ呆けたような表情で、オルディネモンを見上げる。
「くっ!」 (アグモン)
 アグモンは怒りの表情で駆けだす。
「くっ……強い!」 (ヤマト)
 ヤマトは焦りの表情で呻く。
「選ばれし子どもたち」 (ハックモン)
 突然のハックモンの声。
 ヤマトは一瞬驚いた表情になった後、警戒の表情でハックモンの方に振り向く。
 ハックモンは、子どもたちから少し離れたところに座っている。
 子どもたち全員は、ハックモンのほうに振り返る。
「私は、ホメオスタシスの使者。そして、君たちの友人」 (ハックモン)
 ハックモンは静かに告げる。
 メイコは戸惑いの表情を、ミミ、ソラ、ジョー、ヤマトは警戒の表情を浮かべる。
 コウシロウは立ったままノートパソコンを開く。
「ハックモン。そして、究極体は……」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 Name:HACKMON [ハックモン]
 Level:No Data
 Type:No Data
 Model:No Data
 SP Skill:No Data
 EX Skill:No Data
 Profile:No Data
 ---------------------------
 Name:JESMON [ジエスモン]
 Level:No Data
 Type:No Data
 Model:No Data
 SP Skill:No Data
 EX Skill:No Data
 Profile:No Data
 赤いマントを纏う白い騎士のようなデジモン。
 ---------------------------
「ジエスモン!」 (コウシロウ)
 一同は、ノートパソコンに映し出された映像をみて、緊張の面持ちになり、息をのむ。
 イメージ
 ―胸の前で組んだ腕を開き、前にかざすジエスモン。
 ―天から降り注ぐ緑色の光の柱。
 ―巻き上げられる地面。
「あの時の……」 (ヤマト)
 ヤマトは憎悪の表情でハックモンを睨みつける。
「どういうつもりなの!」 (ミミ)
 ミミは声を上げる。
「あなたのせいでタイチさんたちは!」 (ミミ)
「ミミ君!」 (ジョー)
 跳びかからん勢いで前に出たミミを、ジョーは押しとどめる。
「イグドラシルは、ライブラを世界を壊すカギと呼んだ」 (ハックモン)
 ハックモンはビルの間の空を見上げる。
「だとすれば、新たに生み出されたオルディネモンは、デジタルワールドと現実世界、2つの世界を壊すカギ」 (ハックモン)
 オルディネモンは悠然と空に浮かんでいる。
 蛇のような髪の毛で目元を隠し、鋸のような歯がびっしりと生えた口を半開きにした、
 その表情からは、感情は感じられない。
「オルディネモン……」 (メイコ)
 メイコは青ざめた表情で呟く。
「君たちが太刀打ちできる相手ではない。自らの圧倒的な力を制御しきれず、行く当てもなく彷徨う、悲しき脅威」 (ハックモン)
「……っ!」 (メイコ)
 ハックモンの言葉に、メイコは息をのむ。
「ホメオスタシスは既に最終計画を進めている。これ以上イグドラシルの思い通りにさせるつもりはない」 (ハックモン)
「最終計画だって?」 (ジョー)
 ハックモンの言葉に、ジョーは反応する。
「現実世界のリブートだ」 (ハックモン)
 ハックモンは告げる。
「!」 (子供たち)
 子どもたちは驚愕する。
「リブート……」 (コウシロウ)
 コウシロウはひときわ険しい表情を浮かべる。
「現実世界とデジタルワールドの根底となる文法は異なっている。
 それが本来、合わせ鏡だった。2つの世界の違いとして現れていた。
 だが、すでに現実世界のデジタルデータは、デジタルワールドの文法に侵食され、その構造を書き換えられつつある。
 計算上は94,524秒で全てが書き換えられ、現実世界は変容し、量子の海に戻ってしまう」 (ハックモン)
 ジョーは驚きの表情、
 ソラ、ミミは緊張の表情、
 メイコは追い詰められた表情でいる。
「何だって!」 (ヤマト)
 ヤマトは声を上げる。
「それを防ぐためには、現実世界側をリブートするしかない」 (ハックモン)
 ハックモンは告げる。
「リブートは終わったはずじゃ!?」 (ソラ)
「それって、またデジモンの記憶がなくなるってことなの!?」 (ミミ)
 ソラ、ミミは声を上げる。
「いえ、それはこの間作ったバックアップフィールドを準備してあるので大丈夫だと思いますが」 (コウシロウ)
 コウシロウは顎に手を当て、思案しつつ言う。
 ジョー、ヤマト、ソラ、ミミ、メイコはコウシロウの方を振り返る。
「それよりも、すべてのデジタル機器が初期状態に戻るとしたら、その被害の方が計り知れません……」 (コウシロウ)
 コウシロウは深刻な表情で言う。
「成功すれば、世界を壊すカギも、初期状態に戻る。現実世界のリブートは、人類にとって最後の希望となる」 (ハックモン)
 子どもたちは黙り込む。
「受け入れるしかないってことなのか……現実世界を救うために」 (ジョー)
 ジョーは空を見上げる。
 暗く波打つ空。
 立ち込める紫色の靄。

 コウシロウのマンションの寝室。
 ベッドの中でうなされるヒカリ。
「う……」 (ヒカリ)
 ヒカリは苦悶の表情を浮かべつつ、シーツの端を握りしめる。
 その傍らで、パタモン、タケルは様子を見ている。
 部屋の電気はついていない。
 平素から比べると遥かに少ない東京の光。
 窓から差し込み、部屋をうっすら照らしている。

 お台場。
 子どもたちは言葉なく、空を見上げる。
「タイチなら、なんて言うかな」 (ソラ)
 ソラはぼんやりと空を見上げながら、つぶやく。
 コウシロウ、ヤマト、メイコ、ミミ、ジョーはソラの方に振り向く。
「アイツならきっと、できる限り犠牲が少ない道を選ぼうとする」 (ヤマト)
 ヤマトは一歩踏み出し、言う。
 ソラはヤマトを見つめる。
 ミミは下を向く。
 ジョーは斜め下に視線を逸らす。
 メイコは下を向く。
「僕は反対です!」 (コウシロウ)
 コウシロウは声を上げる。
「電力、ガス、水道、金融、航空、鉄道、医療、それに、宇宙、核物質関連、政府機関、
 すでに世界中のあらゆる場所がデジタル化しているんです! リブートするなんて、リスクが高すぎる!」 (コウシロウ)
 コウシロウはヤマト達、そして、ハックモンに向かって吠える。
「僕はあきらめない」 (コウシロウ)
 コウシロウはパソコンをカバンにしまう。
「最後まで他の方法を探し続けます!」 (コウシロウ)
 コウシロウはカバンを背負い、駆けて行く。
「コウシロウ……」 (ヤマト)
 ヤマト達、ハックモンは去っていくコウシロウを見送る。
「リブートは、ホメオスタシスの意志で開始される」 (ハックモン)
 暫くしてから、ハックモンは口を開く。
「それまでの時間、オルディネモンをここで暴れさせるわけにはいかない。海までおびき寄せることはできるか?」 (ハックモン)
 ハックモンはメイコを見る。
「わ、私が?」 (メイコ)
 メイコは驚きの表情を浮かべた後、自信なさげにうつむく。
 ソラ、ジョー、ミミは不安げな表情でメイコを見る。
 ヤマトは周辺を見渡す。
 外壁が剥がれ落ちたビル。
 崩落の余韻の土煙。
 大きな瓦礫が散乱している道路。
 圧し折れて頭を垂れる電灯。
「確かにここだと被害が大きい」 (ヤマト)
 ヤマトはメイコの方を向く。
「広い場所まで導いてやったほうが、周りへの影響が少なくて済む」 (ヤマト)
「……わかりました」 (メイコ)
 メイコは真剣な表情になる。
 ハックモンの方に振り返り、近づく。
「やってみます」 (メイコ)

 お台場上空。
 オルディネモンは、巨大な翼に吊り上げられるように、両手足を投げ出した姿勢で浮いている。
 その下で、紫色の靄はビルを飲み込むように立ち上っている。

 陸橋型幹線道路の柱の側。
 子どもたちとデジモン達は集まっている。
「大丈夫か、みんな」 (ヤマト)
「ほらほら、差し入れだよ」 (ジョー)
 ヤマト、ジョー、ソラ、ミミ、メイコは不安そうな表情でデジモン達を見る。
 ツノモン、プカモン、ピョコモン、タネモン、モチモンは目の前に山と積まれた食料
 ―菓子パン、総菜パン、おにぎり、サンドイッチ、ハンバーガー―
 をひたすら貪り食っている。
「いっぱい食べて元気出して」 (アグモン)
 アグモンは、仲間に声をかける。
「ふー、生き返ったわ!」 (パルモン)
 パルモンはおにぎりを食べながら一息つく。
「ありがとう、ジョー」 (ゴマモン)
 ゴマモンはジョーに抱き着く。
 ピヨモンはソラに、パルモンはミミに抱き着く。
 テントモンは、メイコのひざ元に寄っている。
 ガブモンは一杯になった腹を押さえて満足げな表情で、ヤマトに寄りかかる。
 アグモンは、おにぎりを食べている。
 反対の手にはハンバーガーを持っている。
「アグモンが一番食べてる」 (ゴマモン)
 ゴマモンはつぶやく。
 10人の視線はアグモンに集中する。
「もりもり食べて元気出さないと。タイチが戻ってきたときのために」 (アグモン)
 アグモンは笑顔で答え、おにぎりを食べ続ける。
 メイコ、ミミははっとした表情になる。
「アグモン……」 (ソラ)
 ソラ、ジョー、ヤマトは悲しげな表情になる。
「くぅ~、泣かせるやないかい」 (テントモン)
 テントモンは泣くようなそぶりをする。
「せや、信じましょ。テイルモンもメイクーはんも、みんなきっと帰ってきまっせ!」 (テントモン)
「うん!」 (アグモン)
 テントモンの言葉にアグモンは頷く。
「また会えるよ、絶対!」 (アグモン)
 アグモンはすました顔で空を見上げる。
 子どもたちはつられて空を見上げる。

 東京湾。
 夕方。
 金色の夕焼けに照らされるビルのシルエット。
 反射して光る水面。
 暗く波打つ空。

 コウシロウのオフィス。
 縦型ブラインドの隙間から差し込む金色の光。
 キーボードをたたく音。
 床に放りだされたカバン。
 ビープ音。
「だめだ。何か、何か探さないと!」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 灰色の背景。
 たくさんのグラフ。
 コンソール。
 PM時計表示:PM 6:23
 ---------------------------
「リブートを回避する方法を! 何か!」 (コウシロウ)
 ビープ音。
「何か!」 (コウシロウ)
 コウシロウは片手でネクタイを緩める。
 呼び鈴。
 インターホンの画面に映るテントモン。

 コウシロウはペットボトルのウーロン茶をラッパ飲みしながらキーボードをたたく。
 テントモンはデスクの上に座り、コウシロウの様子を見ている。
 コウシロウはウーロン茶を飲み終えると、ペットボトルを脇に置き、両手でキーボードを操作する。
 ふと、コウシロウは手を止める。
「こんなこと、前にもあったね。デジタルワールドのリブートの時」 (コウシロウ)
 コウシロウはテントモンの方に笑顔で振り向く。
「へぇ、そうなんでっか?スンマヘン、ワテ覚えてなくて……」 (テントモン)
 テントモンは驚き、そして、すまなげに答える。
「そっか、そうだったね」 (コウシロウ)
 コウシロウの笑顔がわずかに曇る。
 再び、キーボードをたたく音。

 お台場上空。
 暗く波打つ空。
 ある一か所から覗けて見える、デジタルワールド。
 そびえたつ、岩山。

 デジタルワールド。
「う、うう……」 (タイチ)
 タイチはゆっくりと目を開ける。
 視界に入ったのは、人工的な素材で作られた天井。
 タイチは床の上に大の字になっている自分に気づく。
「うん……」 (タイチ)
 タイチは壁を支えにしながら、体を起こす。
 が、力尽き、壁を背にして座り込む
 タイチの視界に入るのは、何かの施設の管制室といった趣の部屋。
 照明は出入口の赤い非常灯が点いているのみで、暗い。
 複数のはめ込み式の液晶画面と操作卓がある。
 タイチは両手を交互に見る。
 怪我をした様子はなく、タイチは大きくため息をつき、足元を見る。
「大丈夫か……八神……」 (西島)
 西島の声に、タイチは顔を上げる。
「先生!」 (タイチ)
 タイチは部屋を見渡す。
 真っ暗な部屋の隅に、うっすらと西島の顔をとらえる。
「先生」 (タイチ)
 タイチは近づく。
 携帯電話を取り出し、バックライトで西島の方を照らす。
「うん?」 (タイチ)
 タイチは何かに気づく。
 ゆっくりと照らされる西島。
 投げ出した足。
 床に置いた左手。
 襟元を開いたワイシャツ。
 腹に結び付けたジャケット。
 それを抑える右手。
 困ったような笑顔。
 全て、真っ赤に染まっている。
「よかった……お前は無事で……」 (西島)
 西島は脂汗をかきながらも、安心したような表情を浮かべる。
「せ、先生……」 (タイチ)
 タイチは固まる。
 タイチの視線は、西島の腹に行く。
 出血元らしく、ジャケットを巻き付けた上から押さえる西島の腕全体は、いまだ固まっていない血に覆われている。
 西島は起き上がろうとする。
「……ぐっ!」 (西島)
「あっ!」 (タイチ)
 西島は呻き、再び座り込む。
「無理しないほうがいい!」 (タイチ)
 タイチは西島のもとによる。
「……ここは?」 (西島)
 西島は顔を上げる。
「……さぁ。デジタルワールドのどこかだと思うけど」 (タイチ)
 タイチはあたりを見渡し、答える。
 何かの機械が起動するような音。
 電源が入り、何かの情報を映し出す操作卓の画面。
「あっ!?」 (タイチ)
 タイチと西島は反応する。
 次々に電源が入り、それぞれに情報を映し出す壁中の電子パネル。
 電子パネルの光で部屋は明るくなり、見通せるようになる。
 部屋の中央には、一つの大きな操作卓と、座席が3つ。
 操作卓からみて正面には、大きなスクリーン。
 操作卓から見て左側には、別の操作卓と、座席が2つ。
 操作卓から見て右側には、電子パネル付きの、扉らしきもの。
 少しして、操作卓の正面のスクリーンの光は消える。
 スクリーンの向こうに並ぶ、人が入った大きな筒状の機械5つ。
 タイチは立ち上がり、筒の中身を確認する。
「……はっ!?」 (タイチ)
 筒の中にいる人は、黒いシルエット上になっており、顔も形もはっきりしない。
 しかし、タイチは中にいるのが誰かを感じ取る。
「くっ!」 (タイチ)
 タイチは駆けだし、スクリーンに張り付く。
「ダイスケ、みんなも!」 (タイチ)
 筒の中にいるのは、ダイスケ、ミヤコ、イオリ、ケン、ゲンナイ。
 西島はゆっくりと、難儀そうに立ち上がり、操作卓につく。
 ピッ、ピッ、ピッ、ピッ、と操作音。
「無事なんですか!?」 (タイチ)
 タイチは西島の方に振り向く。
「ああ」 (西島)
 操作卓の画面の表示。
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 Daisuke Motomiya - 本宮 大輔 -
 Miyako Inoue - 井ノ上 京 -
 Iori Hida - 火田 伊織 -
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「はぁ……」 (タイチ)
 タイチは安堵の息をつく。
「眠っているだけだ」 (西島)
 西島は操作卓を操作しはじめる。
「実は、お前たちに隠していた、重大な秘密がある」 (西島)
 タイチは振り返る。
「本宮大輔、一条寺賢、井ノ上京、火田伊織。4人はずっと行方不明だった」 (西島)
「なっ!?」 (タイチ)
 無機質な黒の中に吸い込まれていく4人のシルエット。
「その事実は伏せるように命じられ、徹底的に情報を管理されていた」 (西島)
 西島は右腕で腹を押さえつつ、左手の人差し指で、ひとつずつボタンを押していく。
 押した場所は光り、操作されていることを西島に知らせる。
「何で、そんなことを」 (タイチ)
 タイチは不安な表情で聞く。
「イグドラシルの計画に気づいて、排除されたんだ」 (西島)
 西島は操作盤を操作しながら、答える。
「俺に指示したのは、姫川管理官……イグドラシルと、手を組んでいた」 (西島)
 西島は苦々しげな表情を浮かべる。
「過去の戦いで、姫ちゃんのデジモンが犠牲になってしまった」 (西島)
 イメージ。
 ―四聖獣をかばうように立ちはだかるメガドラモン。
 ―四聖獣からメガドラモンに注がれるエネルギー。
 ―メガドラモンを見上げる幼い姫川。
 ―形を失い、光の玉となっていくメガドラモン。
「リブートによってパートナーデジモンを復活させること。それが彼女の目的だった。
 彼女は手段を選ばず、リブートに賭けて、失われた絆を取り戻そうとした」 (西島)
 イメージ
 ―光る草原
 ―何かを発見し、笑顔を浮かべながら駆けて行く姫川。
 ―近づいてくる姫川を見上げるバクモン。
 ―姫川はバクモンのそばで膝をつき、バクモンを抱きしめる。
 ―姫川に何かを告げるバクモン。
 ―バクモンを離す姫川。
 ―見開かれる姫川の目。
 ―バクモンの肩を掴み、揺さぶる姫川。
 ―狂気に歪む姫川の顔。
「取り戻せたんですか」 (タイチ)
「いや、わからない。今、生きているのかどうかさえ……」 (西島)
 西島は操作卓の操作を中断する。
 目を瞑り、顔を伏せる。
「パートナーデジモンの存在が人を救うこともあれば、時に人を狂わせることもある。
 俺がもっと早くに姫ちゃんを止めていれば、こんなことには……」 (西島)
 西島は悔しげに呟く。
 タイチは驚きに目を見開いている。
「どんなにつらい決断でも、下さねばならない時がある」 (西島)
 西島の言葉に、タイチはぐっと息をのむ。
「たとえ、相手が仲間でも」 (西島)
 西島の言葉に、タイチははっとなる。
 イメージ。
 ―焦燥しきったメイコ。
 ―メイコ
「メイちゃんを……殺して」 (―)
「くっ……」 (タイチ)
 タイチは逃げ場を探すように目線を泳がせた後、うつむく。
「怪物と戦うものは自らも怪物にならぬよう気を付けるべきである」 (ゲンナイ)
「!?」 (タイチ、西島)
 ゲンナイの声に反応し、タイチは顔を上げ、西島は後ろに振り返る。
「深淵をのぞき込むものは、深淵からもまた、のぞき込まれているのだ」 (ゲンナイ)
 ゲンナイは出入口に寄りかかりながら、薄ら笑いを浮かべている。
 ゲンナイは、指を鳴らす。
 操作卓の表示から、いくつかのグラフやコンソールが消える。
 鳴り響く、ビーッ、ビーッ、と耳障りな警告音
 操作卓や電子パネルに表示される赤い警告ダイアログ。
 西島は体を半分ひねり、操作卓の表示を見る。
 タイチも操作卓に近づき、画面をのぞき込む。
 操作卓表示
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 DANGER DANGER DANGER
  !
 DANGER DANGER DANGER

 ダイスケたちの情報を示す人型の画像部分の色 青→黄色
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「生命維持装置が停止!?」 (西島)
 ダイスケ達とタイチ達を隔てる壁のスクリーンにも、警告ダイアログは表示されている。
「彼らを助けるには現実世界に転送すればいい。ただし、実行すると同時にここは……ドカーン!」 (ゲンナイ)
 ゲンナイは大げさな身振りで説明する。
「なっ!?」 (タイチ、西島)
 タイチと西島はゲンナイのほうに振り返る。
「君たちの席は用意してある。慈悲深きイグドラシル様の取り計らいで」 (ゲンナイ)
 スクリーンの向こう。
 筒型の機械は6つ。
「って、しまったぁ! 一人分しかなかったよ、あー!」 (ゲンナイ)
 ゲンナイはわざとらしく困ったように頭を抱える。
「ごめんねぇ……フヒヒ、ハハハハハ!」 (ゲンナイ)
 ゲンナイは狂ったように笑う。
 タイチは慄き、西島は悔しげに歯噛みする。
「思い知るがいい、人間の非力さを! 所詮、デジモンがいなければ何もできないんだよ、お前らは!
 虚栄に胡坐をかいた道化だよ、道化! 無様に泣き叫んで、悪あがきを見せてくれよ、なぁ!
 選ばれしお子様たち! アハハハハ!」 (ゲンナイ)
 ゲンナイはタイチと西島を嘲る。
 タイチ、西島は悔しげに歯噛みする。
「人間ども、恥を知れ! アハハハハ!」 (ゲンナイ)
 ひとしきり言い切った後、ゲンナイは後ろを向き、消える。
 タイチと西島は一瞬、呆然とする。
「くっ!」 (タイチ)
 タイチは操作卓の側から駆けだし、もう一つの操作卓に着く。
「八神……」 (西島)
 西島は操作卓から身を乗り出し、タイチの方を見る。
「何かあるはずだ、絶対!」 (タイチ)
 タイチは操作卓を操作し始める。
「全員が助かる方法が!」 (タイチ)
 ピピピピピと音が鳴り、操作卓から見て右側の扉がある。
 タイチは開いた扉に駆け込む。
 西島は走っていくタイチを目で追う。
「ぐっ!」 (西島)
 西島は痛みに呻き、腹を押さえて座席に座り込む。
 操作卓の操作を再開し、ボタンを押す。

 筒型の機械のある部屋。
 扉が開き、タイチは中に駆け込んでいく。
 6つある機械のうち、5つには人型が格納されており、斜めに倒されている。
 残る1つは空っぽで、直立している。
 タイチは、奥から3番目、ダイスケと思しき人型が格納されている筒型の機械の前で立ち止まる。
 筒型の機械の前の操作パネルに近づき、操作し始める。
 ゲンナイ、ケン、ダイスケ、ミヤコ、イオリ達の人型は筒型の機械の中で、沈黙している。
 タイチは焦りの表情を浮かべ、操作パネルを操作し続ける。
 しかし、タイチのあてずっぽうな操作では、何の反応もない。
「転送装置を調べてみてくれ」 (西島)
 スピーカー越しの西島の声に反応し、タイチは後方、西島がいる部屋の方に振り返る。
「現実世界に転送できるなら、そこから通信ができるかもしれない」 (西島)
「わかった」 (タイチ)
 タイチは残る1つの転送装置に駆け込む。
 中に入り、見渡して具合を確かめる。
 と、タイチの後ろでドアは閉まる。
「え?」 (タイチ)
「転送準備を開始します」 (声)
 電子パネルの表示
 ---------------------------
 Preparing to transfer
 0.125
 locking
 ---------------------------
「え!?」 (タイチ)
 タイチは扉に取り付く。

 操作卓側の部屋。
 いくつかのコンソールと警告ダイアログが表示された操作卓画面。
 苦し気に呻きながら、腹を押さえる西島。
 操作卓画面に表示される、人物情報。
 本宮大輔、井ノ上京、火田伊織、一条寺賢、名前の確認できない誰か。
 西島の浅い呼吸。
 椅子から滴り落ちた血でできた血溜り。
「頼んだぞ……八神……」 (西島)
 転送装置内部。
 タイチは操作パネルをあてずっぽうで操作している。
「ちっ!」 (タイチ)
 無駄と悟り、タイチは出入り口のドアをたたき始める。

 操作卓側の部屋。
 タイチの転送装置は、スクリーンの端から確認できる位置にある。

 転送装置内部。
 操作パネルに表示される残り時間は2分を切る。
「先生!」 (タイチ)
 タイチは両手でドアを叩く。
「行け……」 (西島)
 西島のかすかな声は、転送装置のスピーカー越しに転送装置内に響く。
「開けて!」 (タイチ)
 タイチは一層強くドアを叩く。
「行くんだ……」 (西島)
 西島のかすかな声が、転送装置のスピーカー越しに、タイチの耳に入る。
 タイチはドアをたたき続ける。
「俺は、あきらめていない……」 (西島)
「開けて! 開けてください! 先生!」 (タイチ)
「お前たちが教えてくれたんだ。最後まで、できることがあるはずだって」 (西島)
 西島の声に反応し、タイチは動きを止める。

 操作卓側の部屋。
「未来は続く。繋がっていく」 (西島)
 床の血だまりは面積を広げていく。
「お前に託すよ。大人になってしまった俺たちの希望……」 (西島)
 西島は操作卓の座席に座り、恍惚としたような表情で空を仰いでいる。

 筒型の機械のある部屋。
 斜めに倒されている、5本の筒型の機械。

 転送装置内部。
 電子パネルに表示される残り時間は30秒にさしかかる。
「先生!」 (タイチ)
 タイチはドアをたたくのをやめ、スピーカーに顔を近づけている。
「いいか、八神。どんなつらい現実が待っていようと、決してあきらめるな。お前たちが未来を創れ」 (西島)
 電子パネルに表示される残り時間は20秒を切る。

 操作卓側の部屋。
 生気を感じない瞳。
「夢は……」 (西島)
 ゆっくりと振り上げられる左腕。

 転送装置内部。
「でっかく……」 (西島)
 タイチは気圧されたように息をのみ、スピーカーから離れる。
 電子パネルに表示される残り時間は15秒を切る。
 タイチは、転送装置のドアの窓から、操作卓の方を見る。
 操作卓から伸びあがる、血だらけの西島の左手。
 ふわっと開かれている手が、握りこぶしになる。
 しばしの後、力が抜けたように開かれ、操作卓の向こうに消えていく。

 筒型の機械のある部屋。
 タイチはドアの窓に張り付く。
 叫び声は、転送装置の駆動音にかき消される。

 転送装置内部。
 電子パネルの表示
 ---------------------------
 0
 Transfer start
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 暗転。
 崩壊音。

 東京上空。
 暗く波打つ空。
 一部から透けて見える逆さまのデジタルワールド。
 4体の究極体がぶつかり合った場所。
 岩山近くの地面が爆発する。

 東京。
 羽田空港上空を飛行するヘリコプター。
 空港への道を塞ぐ自衛隊。
 お台場海浜公園付近で待機する自衛隊。
 TV局近くで待機する自衛隊。
 レインボーブリッジを走っていく一台の護送車。

 護送車内。
 運転席と助手席には自衛官が座っている。
 後部には、子どもたちとデジモン達が座っている。
 その視線は、メイコに集中している。
「メイメイ、ホントに大丈夫?」 (ミミ)
「俺たちもついているから」 (ヤマト)
「はい、ありがとうございます」 (メイコ)
 ミミ、ヤマトはメイコに声をかけ、メイコは答える。
「私たちもいる」 (ピヨモン)
「任せといて」 (ガブモン)
 ピヨモン、ガブモンも声をかける。
「って言っても……」 (ゴマモン)
 ゴマモン、ガブモン、ピヨモン、パルモンは不安げな表情でリアガラスの外を見る。
 はるか遠くで、オルディネモンはビルの上に鎮座している。
「アイツは、テイルモンやメイクーモンでもあるわけだし……」 (ゴマモン)
 デジモン達は顔を見合わせる。
 パルモン、ピヨモン、ゴマモンは顔を下に向ける。
 ガブモン、アグモンは腕を組む。
「どうしたら助けられるの、メイクーモンやテイルモンを?」 (パルモン)
 パルモンの問いかけに、デジモン達は悩む。
 答えは出ない。
 護送車はお台場の街を進んでいく。
 子どもたちは車の窓から外を見る。
 紫色の電光を帯びる信号機やビルが目に入る。
「あちこちおかしくなってる」 (ミミ)
「オルディネモンの影響だ」 (ヤマト)
 ミミのつぶやきに、ヤマトは答える。
 メイコ、ソラ、ジョーも窓の外を見つめている。

 フェリー乗り場。
 岸から突き出た乗り場部分にメイコは立ち、
 残りのメンバーは岸側に立っている。
「ここで、私は何をすれば」 (メイコ)
「何もする必要はない」 (ハックモン)
 メイコの問いかけに、ハックモンは答える。
「我々の予測が正しければ、君の動きに応じて、自ずとオルディネモンは動き始める」 (ハックモン)
 ハックモンはオルディネモンの方に体を向ける。
「……本当にそうでしょうか」 (メイコ)
 メイコの言葉に、ハックモンは目だけメイコの方に向ける。
「今のあの子……メイちゃん、あんな姿になってしまっても、私のことを覚えているのか……」 (メイコ)
 メイコは自信なさげに告げる。
「デジモンと人間のパートナーシップには無限の可能性がある。何が起きても、我々は驚かない」 (ハックモン)
「……」 (メイコ)
 ハックモンの冷静な口調に、メイコは一瞬戸惑う。
「ホメオスタシスって、私たちの味方なんですか? それとも、敵?」 (メイコ)
「安定と調和を望むもの」 (ハックモン)
 メイコの問いかけに、ハックモンは明確な答えを返さない。
「……メイちゃんを守りたいのか、排除したいのか、全然分かりません。
 こちらの世界のことだって、どこまで考えてくれているのか……」 (メイコ)
 メイコの更なる問いかけに、ハックモンは答えない。
「すみません。私に、そんなこと言う権利、ないですよね。こんなに世界を混乱させておいて……」 (ハックモン)
 メイコのつぶやきに、ハックモンは目元を厳しくする。
「謝る必要はない。我々の都合で、君たちを巻き込んでしまった」 (ハックモン)
 メイコは驚いたように顔を上げる。
「私としても、リブートは本意ではない」 (ハックモン)
 ハックモンはメイコから目をそらすように、オルディネモンの方を見る。
「あ……」 (メイコ)
 メイコは驚きの表情のまま、声を漏らす。
 それきり、会話は途切れる。

 東京湾。
 遠くから聞こえるオルディネモンの声。
 メイコはフェリー乗り場の先端に進む。
 ハックモンはその後ろに控える。
「メイちゃん」 (メイコ)
 メイコは、欄干に手をつき、静かな声で呼びかける。

 オフィスビル街。
 たたずんでいたオルディネモンは、ゆっくりと体を回転させ、思案するように一瞬止まる。
 そして、動き始める。
 翼を足のように動かし、道路を踏みしめる。
 一歩、一歩、ゆっくりと歩み進んでいく。
 両翼の節は緑と紫の光を放ち、ほとんどの光の消えたお台場の街の中で、オルディネモンの存在感を強くする、

 フェリー乗り場。
 ジョー、ミミ、ソラ、ヤマト、パルモン、ピヨモン、ゴマモン、アグモン、ガブモンは岸のデッキに並んでいる。
「動き出した」 (ヤマト)
 ヤマトはつぶやく。
「いいのかな……」 (ソラ)
「どうして?」 (ミミ)
 ソラのつぶやきに、ミミは問う。
「このままだといずれ、リブートが起きてしまうんでしょう。現実世界がリブートされたら、大混乱が起きるって」 (ソラ)
 ミミは顔を伏せる。
「ああ、間違いないよ。おそらく世界は、未曽有の危機に陥るだろうね」 (ジョー)
 ジョーは答える。
「だけど」 (ヤマト)
 ヤマトの言葉に、ソラ、ミミ、ジョーは振り向く。
「イグドラシル、ホメオスタシス、どちらの思惑通りに進んだところで、世界は救われない」 (ヤマト)
 ヤマトは前の方を向いている。
 ソラ、ミミ、ジョーも前の方に向き直る。
 視界の先で、オルディネモンは翼による歩行をやめ、空に浮かんでいる。
「オルディネモンの中に取り込まれたメイクーモンとテイルモンは、どうなってしまうのかしら」 (ソラ)
 オルディネモンは、レインボーブリッジの向こうから、ゆっくりと近づいてくる。
「私たちもわからない」 (ピヨモン)
「恐縮です」 (パルモン)
 デジモン達は不安げに顔を見合わせている。
 プルルルル、と、着信音。
「うん?」 (ヤマト)
 ヤマトは携帯電話を取り出し、発信者を確認する。
「コウシロウ?」 (ヤマト)
 ソラ、ミミ、ジョーの視線はヤマトに集まる。
 ヤマトは携帯電話の通話ボタンを押し、受話する。
「どうした?」 (ヤマト)
「先ほど、デジタルワールドで捕らえられていたダイスケ君達が、発見されました」 (コウシロウの声)
「何だって?」 (ヤマト)
 コウシロウの突然の報告に、ヤマトは驚く。
 会話の内容の聞こえないソラ、ミミ、ジョーは、
 ヤマトの様子から、尋常ではない事態の訪れを感じる。
「詳しいことは分かりません。先ほど病院に搬送されたそうです。
 ですが、重要な点はデジタルワールドで彼らのことを発見して、助け出した人物がいるということです」 (コウシロウ)
「なっ!?」 (ヤマト)
 ヤマトは目を見開く。

 コウシロウのマンションの寝室。
 ヒカリはベッドに横たわり、タケルとパタモンはその側に控える。
「うう……」 (ヒカリ)
 ヒカリはうなされ、布団の端をぎゅっと握りしめる。
 パタモンとタケルは身を乗り出す。
「う……ん」 (ヒカリ)
 ヒカリは苦しげな表情で目を開ける。
「ヒカリ!」 (パタモン)
「大丈夫!?」 (タケル)
 パタモン、タケルは声をかける。
 ヒカリは体を起こす。
 タケルはそばに置いていたペットボトルのふたを開け、ヒカリに渡す。
 ヒカリは受け取り、口をつけ、一気に飲み干す。
「……ありがとう」 (ヒカリ)
 ヒカリはペットボトルをタケルに返す。
「うなされてたよ、ずっと」 (タケル)
 タケルの言葉に、ヒカリは表情を曇らせる。
「……あたしも消えてしまいたい」 (ヒカリ)
「ヒカリちゃん!」 (タケル)
 ヒカリの言葉に、タケルは立ち上がる。
 タケルはヒカリの肩に手を当てる。
「何で、全部抱え込むんだよ! 一人で閉じこもるなって!」 (タケル)
 タケルは声を上げる。
 ヒカリは、答えず、顔をうつむかせる。
「心配なんだよ、君のこと」 (タケル)
 タケルはさらに言葉を連ねるが、ヒカリは答えない。
 突然の展開に締め出しを食らったパタモンは、傍らであわあわしている。
「大丈夫、タケル、見てないから」 (パタモン)
 パタモンは顔を赤らめながら両目を手で塞ぐ。
「全然僕、見てないからね~」 (パタモン)
 やっぱり右目だけあける。
「KUWAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 窓の外から聞こえる、オルディネモンの叫び声。
 何かが大きくきしむ音。
 ヒカリ、パタモン、タケルは窓の外に体を向ける。
「な、何、今の!?」 (パタモン)
 パタモンは飛び上がる。
 タケル、パタモン、ヒカリはベランダに飛び出し、外の様子をうかがい、驚く。
 3人の視界に入ったのは、東京湾に翼を下ろそうとするオルディネモンの後ろ姿。
 水面に乗るオルディネモンの翼。
 その巨大さに対し、意外なほど小さな水面の波。
「テイルモン……」 (ヒカリ)
 ヒカリはベランダからオルディネモンを見て呟く。
「私も行かなきゃ」 (ヒカリ)
 ヒカリはベランダから部屋に戻る。
 タケル、パタモンも部屋のほうに振り返る。

 東京湾。
 オルディネモンは、対岸からゆっくりと、フェリー乗り場に向かって進んでいく。
「メイちゃん!」 (メイコ)
 メイコは欄干から身を乗り出す。
 オルディネモンはしばらく進んだ後、湾の中ほどで止まる。
「……」 (メイコ)
 メイコは緊張した面持ちで、オルディネモンの方を見る。
 オルディネモンは、表情を読めない顔をメイコの方に向けている。
 心象風景。
 ―暗い空間の中で向かい合うメイコとオルディネモン。
「KUWAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは一度上半身をかがめたあと、体を伸ばしながら叫び声をあげる。
 同時に、紫色の瘴気を周囲に放つ。
 翼の節は緑と紫に強く輝いている。
 叫び声は強風を起こし、海面を大きく波立たせる。
 メイコはフェリー乗り場の欄干につかまり、耐える。
 ヤマト達もデッキの欄干やお互いにつかまり、耐える。
 紫の瘴気は周囲にまき散らされる。
「KUWAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは一度息継ぎのような動作をした後、再び短く叫ぶ。
 まき散らされた紫の瘴気は空から降り注ぎ、東京中に降り注ぐ。
 そこかしこに開く歪みの穴。
 現れる感染デジモン達。
 ツインタワービルの中層階からファントモン。
 ビルの脇からダークティラノモン。
 大きな提灯の吊り下げられた門の上からコカトリモン。
 ビルのはざまのレアモン。
「さぁ、派手に行こうか! 全部ぶち壊して生まれ変わる!
 聞かせてやろう、人間の終末にふさわしい壮大な破滅の組曲を!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは、観覧車のゴンドラの上から東京の様子を見ている。
「フハハハハ! イグドラシル万歳!」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは狂ったような笑顔を浮かべている。
 東京の各所の建物を嘗め回すように動く、紫色の電光。
 レインボーブリッジ。
 テレビ局。
 マンション。
 その様を、ヤマト、ソラ、ミミ、ジョーは焦燥、不安、怒りといった感情が混ざり合った表情で見ている。

 メイコはフェリー乗り場の先端から、遠くのオルディネモンを見ている。
 オルディネモンは、全身から紫色の瘴気を立ち昇らせながら、浮かび上がっていく。
「メイちゃん、テイルモン、そこにいるの? あなたの中に、記憶は残っているの?」 (メイコ)
 メイコは緊張の面持ちでつぶやく。
「テイルモン!」 (ピヨモン)
「メイクーモン!」 (パルモン)
 ピヨモン、パルモンは呼びかける。
「KUWAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫び散らす。
 デジモン達は顔を見合わせる。
「メイクーモンもテイルモンも傷つけたくない。だけど」 (ガブモン)
 ガブモンの言葉に、アグモンは頷く。
「悪いことしたら、止めなきゃ」 (ガブモン)
 ガブモンの言葉に、アグモン、ゴマモン、ピヨモン、パルモンは真剣な表情で答える。
「ガブモン」 (アグモン)
「うん」 (ガブモン)
 アグモンはガブモンに声をかける。
「僕は今、進化できない。だから」 (アグモン)
「わかってる。いざとなったら、覚悟はできてる」 (ガブモン)
 ガブモンの表情は、なお一層真剣になる。
「仲間である俺たちにしか、できないことはあるから」 (ガブモン)
「うん」 (アグモン)
 ガブモンの言葉に、アグモンも真剣な顔で頷く。
「うん」 (ゴマモン、ピヨモン、パルモン)
 ゴマモン、ピヨモン、パルモンも真剣な顔で頷く。
「ヤマトはちゃんと考えてるよ」 (ガブモン)
 ガブモンはヤマトの方に視線をずらす。
 ヤマトは、欄干に手を置きながら、オルディネモンを見据えている。
「俺は、ヤマトを信じてる」 (ガブモン)
 ガブモン、アグモンは目を合わせ、頷きあう。
 デジモン達は、オルディネモンの方を向く。
 オルディネモンは、再び、ゆっくりと湾に翼を下ろそうとしている。
「テイルモンやメイクーモンのために、力を合わせよう」 (アグモン)
 デジモンたちの鋭い視線は、真っ直ぐにオルディネモンに向けられている。

 橋の上に連なる装甲車。
 それぞれの持ち場についている自衛隊員たち。
 スターライトスコープで状況をうかがう自衛隊員。
 スコープが映す薄緑色の画像はノイズが激しく、まともに見れる状態にならない。
「駄目だ、使えない」 (自衛隊員1)
 自衛隊員はスコープの使用をあきらめ、肉眼でオルディネモンの姿を見上げる。
 表情に焦燥と恐怖をにじませている。
 スコープを持った自衛隊員は、通信機の側にいる自衛隊員に目配せする。
 自衛隊員は通信機の受話器を持ち上げる。

 東京上空。
 発信する2機の戦闘機。
 現場に急行する4機のヘリコプター。
 先にオルディネモンの近くに着いたのはヘリコプター。
 そのうち、1機は上空を旋回し、オルディネモンの頭上―うなだれる姿勢のオルディネモンの背中―をとらえる。
「FUWUUUUU」 (オルディネモン)
 オルディネモンは唸り声をあげ、強風と紫色の波動を周囲に放つ。
 直撃を受け、ヘリコプターははるか上空へと巻き上げられる。
 何とか体制を持ち直し、墜落を免れる。
 別の1機はオルディネモンの正面に出る。
 オルディネモンはその存在を確認する。
「KUWAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンの叫び声。
 地上で警備を続ける警察官たちは、声のする方に一斉に振り返る。
 オルディネモンは4機のヘリコプターの方に移動していく。
 4機のヘリコプターはオルディネモンの側面から背面、そして反対側の側面へと回り込む。
 少し離れたところの橋の上の3機の戦車。
 戦車は砲塔を右に回転させ、オルディネモンに照準を合わせる。
 ヘリコプター4機はオルディネモンの後方上空に滞空し、こちらもオルディネモンに照準を合わせる。
 ヘリコプター4機は一斉にミサイルを発射する。
 ミサイルはオルディネモンの背に命中し、爆炎が上がる。
 続いて、戦車からの砲撃、3発。命中。
 榴弾砲による砲撃、1発。命中。
 レーダーサイト。
 ---------------------------
 対象=オルディネモンを取り囲む、砲撃を現す11本の矢印。
 海の彼方から伸びる、戦闘機の軌道を現す2本の矢印。
 ---------------------------
 海中からも飛んでいくミサイル。
 全方位から攻撃は続く。
 オルディネモンの体に撃ち込まれる何発もの砲撃。
 巻き起こる爆発。
「やめて!」 (ミミ)
「砲撃するなんて!」 (ソラ)
「このままだと巻き込まれるぞ!」 (ジョー)
 フェリー乗り場付近のミミ、ソラ、ジョーは声を上げる。
 海上に現れる護衛艦3隻。
 放たれるミサイル。
「くっ!」 (ヤマト)
 ヤマトは顔をしかめる。
 ミサイルはオルディネモンに命中し、ひときわ大きな爆発が巻き起こる。
 爆発はオルディネモンの巨体を飲み込み、付近の橋を越え、湾内を包み込む。
 ヤマト達は呆然と情景を見つめている。
 東京湾内をもうもうと立ち込める黒煙。
 突然、黒煙の中から飛び出す何か。
 海面付近ではじける。
 黒煙は晴れ始め、オルディネモンの姿があらわになる。
 オルディネモンはレインボーブリッジの柱に体を寄せる。
「KUWAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンの声。
 レインボーブリッジを下から上に突き破り、黒い翼は触手のように伸びあがる。
 空中のヘリコプターのそばまで延びると、翼は手の形に変わる。
 手は2機のヘリコプターを掴み、握りつぶす。
 残った2機のヘリコプターは上空へと逃げていく。
 レインボーブリッジから少し離れた海面を、黒い翼の触手は、のたうつように進んでいく。
 やがて一気に伸びあがり、航空で待機していたヘリコプターに向かって一気に伸びあがる。
 黒い翼の触手は、ヘリコプターの真ん前を通り過ぎる。
 ヘリコプターはあおられ、くるくると回りながら落ちていく。
 伸びあがった触手はヘリコプターを追跡し、さらに2本の触手はヘリコプターに向かって伸びていく。
「ガブモン、頼む!」 (ヤマト)
「任せろ!」 (ガブモン)
「ゴマモン!」 (ジョー)
「わかってる!」 (ゴマモン)
「パルモン!」 (ミミ)
「頑張る!」 (パルモン)
「ピヨモン、お願い!」 (ソラ)
「OKよ!」 (ピヨモン)
(Brave Heart!♪~)
(進化シーン:パルモン、ピヨモン、ガブモン、ゴマモン
 →トゲモン、バードラモン、ガルルモン、イッカクモン)
「パルモン進化、トゲモン!」 (パルモン)
「ピヨモン進化、バードラモン!」 (ピヨモン)
「ガブモン進化、ガルルモン!」 (ガブモン)
「ゴマモン進化、イッカクモン!」 (ゴマモン)
(進化シーン:ガルルモン→ワーガルルモン)
 狼の四肢と頭部をもつ人型。
 鍛え上げられた体に手甲と膝鎧。
 全身を覆う白と紫の固い体毛。
 高い戦意を象徴するかのような鬣。
「ガルルモン超進化、ワーガルルモン!」 (ガルルモン)
 上空。
 オルディネモンの背の黒い翼は、周囲のすべてを薙ぎ払う。
 分裂したうちの一本はヘリコプターに狙いを定め、襲い掛かる。
 黒い翼がヘリコプターにぶつかる寸前、トゲモンは間に割り込む。
 黒い翼の勢いを両腕でガードするが、暫くして弾き飛ばされる。
 海中に落ちていくトゲモン。
 その隙に、ヘリコプターは高空へと離脱する。
 オルディネモンは触手上に伸ばしていた翼を回収し、元の巨大な翼に形を整える。
 今度は、上空に向かって触手を伸ばし始める。
 ヘリコプターはオルディネモンの翼に向けて機関砲を打ち込む。
 機関砲はすべて命中するも、オルディネモンに目立ったダメージはない。
 触手はヘリコプターに向かって伸びていく。
 触手は、機関砲の攻撃をものともせずに伸びあがり、ヘリコプターをとらえる。
 その直前、触手は炎に焼かれて散る。
 新たに伸びあがる触手も、降ってきた炎の塊に焼かれる。
 バードラモンはオルディネモンとヘリコプターの間を飛翔する。
 ヘリコプターは戸惑うようにその場にとどまる。

 オルディネモンから離れた海上。
 墜落したヘリコプター。
 乗組員を背に乗せ、イッカクモンは岸へ向かって泳いでいく。

 レインボーブリッジ。
 ワーガルルモンは軽い身のこなしで、下層部分から上層部分へ駆けあがっていく。
 橋の上に出ると、道路を疾駆し、柱を駆けあがっていく。
 柱の頂上まで登り、そこからオルディネモンに向かって跳ぶ。
「KUWAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンはワーガルルモンの接近に気づくと、
 叫び声をあげ、交差した針金のような手をワーガルルモンに向かって伸ばす。
 ワーガルルモンは跳躍の勢いで殴り掛かるが、オルディネモンの手が早い。
 1撃目がワーガルルモンの体を浮かせ、2撃目がワーガルルモンの体を殴り飛ばす。

 商店街。
 タケル、ヒカリ、パタモンは建物の影から走ってくる。
 その3人の前に突然、歪みの穴が現れる。
「うわっ!?」 (タケル、ヒカリ)
 タケル、ヒカリは驚いて止まる。
 歪みの穴からは、イビルモンが飛び出す。
 イビルモンは口から青白い炎を吐き出す。
「危ない!」 (タケル)
 タケルはヒカリの体を押しつつ被さり、炎から避難させる。
 タケルはすぐに立ち上がる。
「パタモン、行くよ!」 (タケル)
「うん!」 (パタモン)
(進化シーン:パタモン→エンジェモン)
「パタモン進化、エンジェモン!」 (パタモン)
(進化シーン:エンジェモン→ホーリーエンジェモン)
「エンジェモン超進化、ホーリーエンジェモン!」 (エンジェモン)
 ホーリーエンジェモンは、上空に飛翔する。
 襲い来る一条の青白い炎を躱し、体長の何倍にも伸ばした光の剣で空を切りさく。
 巻き起こる幾つもの爆発。
 タケルとヒカリは上空を見上げる。
 その視線の先では、複数のゆがみの穴から幾体ものイビルモンが飛び出してきている。
「あちこちにデジモンが」 (タケル)
「イグドラシルが、現実世界を壊すために……」 (ヒカリ)
 タケルとヒカリはイビルモンの群れを見上げながらつぶやく。
 ホーリーエンジェモンは剣を横なぎに払い、1体のイビルモンを倒す。
 そのすきを突き、背後から別のイビルモンが青白い炎の渦で攻撃する。
 ホーリーエンジェモンは顔をしかめるが、すぐに体勢を立て直す。
 すぐそばにイビルモンの一団を見つけると、光の剣で切り裂く。
 イビルモンの一団は爆発する。
「クックックックッ……」 (デジモンカイザー)
 上空の戦いを見ていたタケルとヒカリは、突然の笑い声に、後ろに振り返る。
 2人の背後には、歪みの穴の前に立ちながら笑うデジモンカイザーがいる。
「あなたは!」 (ヒカリ)
 ヒカリとタケルは緊張の表情でデジモンカイザーを見る。
「ハハハハ! これはこれは、まだ心が折れていなかったとはね。破滅を導く不吉な女神」 (デジモンカイザー)
「……」 (ヒカリ)
 デジモンカイザーの言葉に、ヒカリは顔を曇らせる。
「またお目に書かれて光栄だね」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは恭しく礼をする
「ホメオスタシスの予言を拒否して、兄を追い詰めた」 (デジモンカイザー)
「!」 (ヒカリ)
 ヒカリの表情が引きつる。
「現実世界を壊すきっかけをくれたのは君だろう」 (デジモンカイザー)
「やめろ!」 (タケル)
 ヒカリの様子に気づき、タケルはヒカリとデジモンカイザーの間に割って入る。
「人間はこの世界と同じ脆弱な存在だ。自分の感情の制御すらできない不完全なものなど邪魔なだけ」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーは尊大に体をそらした後、右手を合図するように振る。
「消去!」 (デジモンカイザー)
 歪みの穴から覗ける、黒いデジモンの顔。
「消去!!」 (デジモンカイザー)
 歪みの穴からゆっくりと出てくる黒いデジモン。
「消去ォ!!!」 (デジモンカイザー)
 黒いデジモン―デビモン―は歪みの穴から飛び出し、上空へと飛翔する。
 狙いは、ホーリーエンジェモン。
 ホーリーエンジェモンは敵の接近に直前で気づき、振り返る。
 デビモンの右腕を済んでのところで躱し、間をとる。
 デビモンは追跡する。
 デビモンは右腕で虚空を切りさき、赤い弧状の光をホーリーエンジェモンに向かって放つ。
 ホーリーエンジェモンは赤い弧状の光を剣で打ち払い、間を詰めにかかる。
 デビモンは再び赤い弧状の光を放ち、ホーリーエンジェモンはそれも剣で打ち払う。
 デビモンは両腕を頭上に振り上げ、交差させるように振り下ろし、十字の赤い弧状の光を発生させる。
 ホーリーエンジェモンは剣を構えて突撃するが、競り負け、爆発とともに弾き飛ばされる。
 デビモンはホーリーエンジェモンを追撃する。
 2度、3度と切りつけ、ホーリーエンジェモンの体勢が崩れる。
 そこへ、周囲を囲む7体のイビルモンは青白い炎を放つ。
 手中砲火を受け、ホーリーエンジェモンは地面に叩きつけられる。
 そこへさらに、イビルモンは青白い炎を降り注ぐ。
 砕ける道路。
 巻き起こる土煙。
「ホーリーエンジェモン!」 (タケル)
 タケルは叫ぶ。
「あ~あ、つまんねぇ。もうちょっと手ごたえのあるやついない?」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーはあきれたようなそぶりをした後、
 狂ったような笑顔でヒカリを見る。
「やめてっ!」 (ヒカリ)
 ヒカリは叫びながら、頭を押さえる。
 デビモンの足元に生じる紫色の光の輪。
 デビモンは体を伸ばした後、叫び声をあげる。
 体の前に振り出した翼から、紫色の十字状の刃を放つ。
 刃はホーリーエンジェモンが墜落した地面に炸裂する。
 爆ぜ飛ぶ地面。

 モノクロの闇の中。
 ヒカリは呆けたような表情で、一人立っている。
 ヒカリはあたりを見回す。
 その背後に現れる1人の人物。
 とんがり帽子とローブを身に纏い、髪を後ろで一つに束ねている。
 ヒカリは、後ろに振り返る。
 とんがり帽子の人物は、ゆっくりと歩いていく。
 その存在を目に捉え、ヒカリは驚く。
 ヒカリは、とんがり帽子の人物の後を追う。
 2人の進行方向に、強い光が現れる。
 とんがり帽子の人物は光の中に消えていく。
 ヒカリも、その光の中へと進んでいく。

 白く光る空間。
 ヒカリはあたりを見回す。
 緑色のキューブがはらはらと落ちていく。
 ヒカリは、近くに落ちてきたキューブに手を伸ばし、触れる。
 キューブは輝き、映像をヒカリに送り込む。
 イメージ
 ―山の中を駆けまわるメイクーモンと幼いメイコ。
 ―夕焼けの差し込む部屋、畳の上で並んで眠るメイクーモンと幼いメイコ。
 ―足湯に浮かびながら手を振るメイクーモンと手を振り返すメイコ。
 ―手を握り合い、笑顔を浮かべるメイクーモンとメイコ。
「メイコさん!?」 (ヒカリ)
 キューブははじけて消える。
 ヒカリは再びあたりを見回す。
 視界の中に、テイルモンの後ろ姿をとらえる。
 ヒカリはゆっくりと近づいて行く。
 テイルモンの側では、メイクーモンはべそをかいている。
「しゃっぱい……」 (メイクーモン)
「大丈夫」 (テイルモン)
 テイルモンはメイクーモンの頭をなでる。
 メイクーモンは顔を上げる。
「あっ……」 (メイクーモン)
 メイクーモンはヒカリの接近に気づき、小さく声を出す。
 テイルモンは困ったような顔で振り返る。
 ヒカリは、2人を見ながら、戸惑ったような表情を浮かべる。
「あ……」 (メイクーモン)
 メイクーモンは恐れるような表情をしつつ、後ずさり、顔を伏せる。
「……ごめんな」 (メイクーモン)
 メイクーモンは悲しげな表情で告げる。
 そして、緑色の光になって消える。
 ヒカリは戸惑いの表情のまま、メイクーモンが消えた場所を見ている。
 テイルモンも見ているが、その表情はうかがい知れない。
「ヒカリ」 (テイルモン)
 テイルモンは光の方に再び振り返る。
 ヒカリはテイルモンに近づく。
 左手でテイルモンの頭に触れようとする。
 触る直前、テイルモンの体は浮き上がり、ヒカリは手をひっこめる。
「……はっ!?」 (ヒカリ)
 ヒカリは、テイルモンの体が、末端から緑色の粒子に分解されつつあるのに気づく。
「テイルモン!?」 (ヒカリ)
「……私は無事だ」 (テイルモン)
 ヒカリの悲鳴に、テイルモンは悲しげな表情で答える。
 テイルモンの体はゆっくりと浮き上がっていくとともに、じわじわと分解されていく。
「行かないで!」 (ヒカリ)
 ヒカリはテイルモンに手を伸ばす。
「メイクーモンは誰よりも一番苦しんでいる」 (テイルモン)
 テイルモンは告げる。
 心象風景。
 ―モノクロの闇の中、一人で泣いているメイクーモン。
「あの子は優しいから。仲間に、私たちに、救いを求めている」 (テイルモン)
 ヒカリは驚きの表情を浮かべる。
「こんな怖いことを終わらせて欲しいって」 (テイルモン)
 心象風景。
 ―モノクロの闇の中、一人で泣いているメイクーモン。
「お願い、ヒカリ」 (テイルモン)
 テイルモンは左手をヒカリに向かって伸ばす。
 その右半身は緑色の粒子になっている。
 ヒカリは必死で左腕を伸ばす。
「すべての光は、メイクーモンの中に……」 (テイルモン)
 テイルモンの左手とヒカリの左手が触れあう寸前、テイルモンの体は緑色の粒子となって消える。
 ヒカリは、手を伸ばした姿勢のまま固まる。

 お台場 高架下。
 ヒカリは目を覚ます。
 ヒカリの傍らにタケルは控える。
 遠くで聞こえる剣戟の音。
 タケルは音のほうに振り返る。
 ヒカリは顔を下に向ける。
 暗く波打つ空の下、いくつかの赤い輝きが取り巻く中を、青の輝きと紫の輝きが激しくぶつかりあっている。
「すべての光は、メイクーモンの中に……」 (ヒカリ)
 ヒカリの言葉に、タケルは振り返る。
「どういうこと?」 (タケル)
「テイルモンが私に、そう教えてくれたの。知らない場所にいた。データがたくさんあるところ」 (ヒカリ)
 ヒカリの言葉を、タケルは戸惑いの表情で聞く。

 コウシロウのオフィス。
 パソコン画面。
 沢山のグラフとコンソールが表示されている。
「確かに、ヒカリさんには不思議な能力があります」 (コウシロウ)
 コウシロウは右手で携帯電話を持ち、会話をする。
 テントモンはその側に控える。
「これも何かの予言のような。すべての光……」 (コウシロウ)
 左手を顎に当て、考え込む。
「……あっ! もしかして」 (コウシロウ)
 コウシロウははっとなり、パソコンに手を伸ばそうとする。
 ちょうどそのタイミングで、ピピピピピ、と電子音が鳴る。
「あっ!」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコンに表示される、赤い背景のデジタル時計。
 09:59、からカウントダウン。
「現実世界のリブートが、始まった」 (コウシロウ)
「おお……」 (テントモン)
 コウシロウはパソコン画面を見つめながら、告げる。
 テントモンは声を漏らす。
「急がないと!」 (コウシロウ)
 コウシロウはノートパソコンを片手に立ち上がり、駆け出す。
 テントモンはその後ろについて行く。

 お台場。
 空に浮かぶオルディネモン。
 オルディネモンのカウンターを受け、海上に浮かんでいるワーガルルモン。
 バードラモンはワーガルルモンの元へ急行し、抱えて脱出する。
 バードラモンはレインボーブリッジに沿って飛翔し、途中でワーガルルモンを離す。
 ワーガルルモンはレインボーブリッジの脇のフェンスに着地する。
 そこから、オルディネモンを見る。
 オルディネモンは、ワーガルルモンの方を向いている。
 その背後に、トゲモンは跳び上がってくる。
 トゲモンは右こぶしを後ろに引き、力を溜める。
 ワーガルルモンはタイミングを合わせるように、オルディネモンに向かって跳躍する。
「行けー!」 (ヤマト)
 ヤマトは叫ぶ。
 ワーガルルモンは再びオルディネモンの顔面に向かって突撃する。
 トゲモンは、オルディネモンの背後で、高速回転を始める。
 ワーガルルモンは空中で左足を軸に回転して勢いをつけ、右かかと落としをオルディネモンの額に叩き込む。
「FWUUUUU」 (オルディネモン)
 オルディネモンは障壁を張り、ワーガルルモンの接触を拒む。
 トゲモンは高速回転し、全身から針をオルディネモンに向けて発射する。
「FWUUUUU」 (オルディネモン)
 オルディネモンは障壁を張り、トゲモンの針を空中に固める。
「KUWAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫び声をあげつつ、衝撃を発生させる。
 ワーガルルモン、トゲモンは吹き飛ばされる。
 オルディネモンの足元から触手が伸びていく。
 触手は海上を這うように進んだ後、一気に伸び上がり、ワーガルルモンに迫る。
 空中で身動きの取れないワーガルルモンは、わずかに抵抗するも、すぐに触手にからめとられる。
 オルディネモンは、捉えたワーガルルモンを、触手で掴んだまま海中へと沈める。
 触手と水圧に責められ、ワーガルルモンは海中で肺から空気を絞り出される。
「イッカクモン!」 (ジョー)
 ジョーは叫ぶ。
 岸辺にいたイッカクモンは、ワーガルルモンを救助すべく、海中に潜っていく。
 バードラモンは、吹き飛ばされているトゲモンを空中でキャッチし、オルディネモンへと向かう。
 バードラモンはオルディネモンの近くまで飛び、トゲモンを離す。
 トゲモンは高速回転し、オルディネモンの足元の、触手が突き刺さる海面付近を飛行する。
 トゲモンに向かって伸びていく無数の触手。
 トゲモンは全身から針を飛ばし、触手を破壊する。
 トゲモンは一度回転をやめる。
 オルディネモンはトゲモンの方に視線を移す。
 オルディネモンの周囲に降り注ぐ、いくつもの炎の塊。
 オルディネモンは顔を上げる。
 その脇を、バードラモンはすり抜けつつ、炎の塊を降らせる。
 炎の塊はトゲモンの近くの触手を焼き払う。
 バードラモンは海面すれすれでトゲモンを回収する。
 炎に焼かれた触手の先は、東京湾に沈んでいく。

 海中。
 ワーガルルモンは海深くで、触手に拘束されたまま身動きが取れなくなっている。
 イッカクモンは触手の中ほどのところにハープーンバルカンを打ち込む。
 海中で爆発が起き、触手は焼かれる。
 ワーガルルモンは、弱まった触手を力ずくで断ち切り、海面へ向かって泳いでいく。
 イッカクモンはワーガルルモンに近づき、ワーガルルモンはイッカクモンの背につかまる。

 海上。
 断ち切られた触手はオルディネモンの体の方にまき戻って行く。
 バードラモンとトゲモンはオルディネモンの上空を飛んでいる。
 イッカクモンは、オルディネモンから少し離れた海上に浮上する。
 背にはぐったりとしたワーガルルモンを背負っている。
 オルディネモンは空を見上げる。
 その視界の先で、トゲモンはバードラモンから離れ、空中で高速回転して飛行する。
 バードラモンは空中でホバリングする。
 イッカクモンは、少し離れた海面からでオルディネモンの方を向く。
 オルディネモンは口を開くと、紫色の輝きを口腔内に溜め始める。
 悪い状況を察知し、トゲモンとバードラモンはオルディネモンの直上から離れる。
 紫色の輝きは、やがて赤い輝きへと変わる。
「KUUUUWAAAAA」 (オルディネモン)
 オルディネモンは、口腔から、赤い閃光を発射する。
 赤い閃光にあおられ、トゲモン、バードラモンは吹き飛ばされる。
 赤い閃光は上空へと伸び上がり、暗く波打つ空に突き刺さる。
 空は激しく波打ち、やがて、巨大な穴が開く。
 オルディネモンを中心に発生する強風。
 海面に激しい波が立ち、イッカクモンは流れにのまれる。
 揺れるレインボーブリッジ。
 ヤマトとジョーは地面に伏せ、ミミとソラは一塊になり、吹き飛ばされないように必死で耐える。

 宇宙。
 日本からまっすぐに赤い光の柱が立ち上り、それを中心として白い衝撃波が何発も円状に広がる。
 暫くしたのち、赤い光の柱は消える。

 東京湾上空。
 オルディネモンの口から赤い閃光が消える。
 オルディネモンから少し離れた海面で、ワーガルルモンとイッカクモンは浮いている。
 バードラモンは海の中から浮き上がってくる。
 トゲモンは海面に横たわり、波に流される。
 オルディネモンは触手を海面に突き立て、静かに鎮座している。
 空に開いた穴からは、月明かりが降り注ぎ、オルディネモンの白い肌を妖しく照らしている。
「だめ、このままじゃ」 (ソラ)
「究極進化もできない」 (ミミ)
 ソラとミミは、先ほどの防御態勢の名残で手を取りあっている。
 オルディネモンの上空の穴は閉じていき、やがて、暗闇が戻ってくる。

 オルディネモンから離れた橋。
 戦車の連隊は、砲を発射する。
 砲弾はすべてオルディネモンの翼に当たり、爆発する。
 爆発で巻き起こる煙がオルディネモンの姿を描く。
 煙が晴れると、オルディネモンは戦車の方に振り返る。
 戦車4台は再び砲を発射する。
 装甲車もミサイルを発射する。
 全てオルディネモンに命中するも、オルディネモンは微動だにせず、佇立している。
 オルディネモンの背後方向の遠方、2機の戦闘機は姿を現す。
 オルディネモンの肩に着弾する4発のミサイル。
 食いちぎられたように欠ける、オルディネモンの翼。
「KWUUUUUUUU!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは悲鳴を上げる。
 舞い散る黒い羽根。
 それらは紅い光を放ちながら形を変え、無数の黒い体と赤い目を持つデジモンになる。
 黒いデジモン達は、オルディネモンに付き従うように傍に控える。
 欠けたオルディネモンの翼は、すぐに元の形に修復される。
 修復された翼の近くにも、赤い光は発生し、無数の黒いデジモンになる。
 黒いデジモン達は一群をなし、赤い光を湛える黒い奔流となって飛んでいく。
 海上に浮いていたバードラモンは意識を取り戻す。
 すぐに跳びあがり、近くに浮いているトゲモンを回収し、飛び上がる。
 バードラモンとトゲモンは黒いデジモンたちの前方に移動する。
 トゲモンは針を、バードラモンは炎の塊を飛ばす。
 巻き起こる爆発。
 しかし、ものともせずに黒いデジモン達は突き進む。
 トゲモンとバードラモンは黒いデジモンたちの群れの中に飲み込まれる。
 海面から現れるイッカクモンとその背に乗ったワーガルルモン。
 ワーガルルモンは、イッカクモンの背から飛び出す。
 イッカクモンは、襲い来る黒いデジモンと格闘する。
 間もなく、黒いデジモンたちの波にのまれる。
「あっ!」 (ミミ)
 ミミ、ソラたちの視界の先で、赤い光を湛える黒い奔流は、お台場の街に向かって伸びあがっていく。
 立体交差道路下を走り抜ける特殊車両。
 ミサイルを発射する護衛艦。
 港の縁から携行武器を発射する自衛官。
 別の港から砲台を向ける装甲車。
 雨あられと降り注ぐ砲火の中、オルディネモンは佇立している。
 4台の装甲車の砲台が火を噴く。
 発射されたミサイルはオルディネモンのすぐ傍で炸裂する。
 各々が6筋の光の線を発し、海面に向けて弧を描いて落ちていく。
 光の線は檻のようになり、黒煙の中のオルディネモンを取り囲む。
 檻の中には電流が発生し、黒いデジモンは悲鳴を上げながら落ちていく。
「やめてー!」 (ミミ)
 遠く響くミミの叫び。
「デジモン達を巻き込まないで!」 (ミミ)
 海面に浮かぶ、黒いデジモン達。
 消える白い光の檻。
「ああ……」 (ミミ)
「こんなの、酷すぎる……」 (ソラ)
 ミミ、ソラは悲痛な表情を浮かべている。
 ジョーは左手を歯を食いしばり、手をぎゅっと握りしめている。
 バードラモンとトゲモンは気絶しながら海面付近を漂っている。
「どうして!」 (ミミ)
 イッカクモンはワーガルルモンを背に乗せた状態で、海面に浮いている。
「何でこんな目に合わなくちゃいけないの!」 (ミミ)
 ワーガルルモンは必死で体を起こそうとする。
「くっ!」 (ヤマト)
 ヤマトは悔しそうな表情を浮かべる。
「こんなやり方……納得できるかよ!」 (ヤマト)
 ヤマトは胸にかけたゴーグルを握りしめる。
「ホメオスタシスはリブートを開始した」 (ハックモン)
 ハックモンはヤマト達の背後に現れる。
 ヤマト達はハックモンのほうに振り返る。
「君たちの苦しみも、間もなく終わりの時を迎え」 (ハックモン)
「うるせぇ!」 (ヤマト)
 ハックモンの言葉を遮り、ヤマトはハックモンに掴みかかる。
「手前らの都合だけでものを言ってんじゃねぇ! ホメオスタシスもイグドラシルも関係ねぇ! 俺達は!」 (ヤマト)
 ヤマトの後ろに、ソラ、ミミ、ジョー、アグモンは並ぶ。
「俺たちのやり方で世界を救ってやる!」 (ヤマト)
 ヤマトはハックモンから手を離し、立ち上がる。
 着信音。
 ヤマトはポケットから携帯電話を取り出す。
 携帯電話画面。
 ---------------------------
 着信中

 光子郎
 ---------------------------
 ヤマトは受話しつつ、歩き出す。
 ミミ、ソラ、アグモン、ジョーはついて行く。
 ハックモンはその場に残る。

 浜辺。
 打ち上げられた一台の転送装置。
 中には誰もいない。

 橋の下。
 メイコ、ソラ、ミミ、ヤマト、ジョー、アグモン、ヒカリ、タケル、コウシロウ、テントモンは集合している。
「メイコさん、デジヴァイスを貸してもらえますか」 (コウシロウ)
「あ、はい」 (メイコ)
 コウシロウはメイコからデジヴァイスを受け取る。
 メイコのデジヴァイスを右手に持ちつつ、パソコンを操作する。
「やはり、思った通りです。『全ての光はメイクーモンの中に』」 (コウシロウ)
 コウシロウはタケルから聞いた言葉を反芻する。
 ソラ、メイコ、ミミ、ジョーは困惑の表情を浮かべる。
 タケル、ヒカリは驚きの表情を浮かべる。
「どういう、ことだ?」 (ヤマト)
 ヤマトは代表して質問する。
「デジタルワールドのリブートの後、メイクーモンだけ記憶が残っていたことが引っかかっていました。
 ひょっとして、バックアップデータが保存されているのではないかと」 (コウシロウ)
 ソラ、メイコ、ミミはいまいちピンときた様子がない。
「前回のリブートの直前」 (コウシロウ)
 コウシロウはテントモンの方を見る。
「僕はテントモン達のバックアップデータを取ろうとしました。
 その際、戦闘中の混乱のせいか、メイクーモンのデータの一部が混ざっていた。
 それを解析したところ、何故か他のデジモンのデータまで保存されていたんです」 (コウシロウ)
 イメージ。
 ―国際展示場の外。
 ―コウシロウのノートパソコンに映るリブートのカウントダウンとデータ転送のプログレスバー。
 ―歪みの中でメタルグレイモンに襲い掛かるトゲモン。
 ―その近くに生じるバックアップフィールド。
 ―バックアップフィールドの上に乗るテントモン。
 ―メイクラックモンVMを拘束するメタルグレイモン。
 ―必死で拘束を振りほどこうとするメイクラックモンVM。
 ―国際展示場の下、ヘラクルカブテリモンのもとに集まるデジモン達。
 一同は驚きの表情を浮かべる。
「今、僕らの使えるネットワークを駆使して、メイコさんのデジヴァイス経由で、メイクーモンのデータを再確認しました」 (コウシロウ)
 コウシロウはノートパソコンのキーボードを叩く。
 うなりを上げる、コウシロウのオフィスの巨大サーバーマシン。
 学校らしき場所で、真剣な表情で議論しつつ、パソコンを操作する3人の白人系男女学生。
 雪深い山奥で、画面から光を放つデジヴァイスを真剣に見つめる3人の男女。
 どこかの都市、真剣な様子で建物から出てくる2人の男女と迎える2人の男女。
「見てください。メイクーモンの中にはすべてのデジモンの膨大な記憶データが保存されています!」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 デジヴァイス。
 リスト形式に並べられた文章。
 整列されたファイルのアイコン。
 右下のカウントダウン、06:59
 ---------------------------
「え!? 全てのって」 (ソラ)
「パタモン達や、みんなの記憶データが残っているってこと!? リブート前のデータも!?」 (タケル)
 ソラ、タケル、そして全員が驚きに目を見張る。
「はい」 (コウシロウ)
 コウシロウは力強く答える。
 メイコははっとした表情になる。
 イメージ。
 ―満面の笑みのアグモン。
 ―アグモン。
「僕は、メイちゃんのこと大好きだよ」 (―)
「アグモン……」 (メイコ)
 メイコはつぶやく。
「メイクーモンすべてのデジモンのデータを内包していたからこそ、あそこまで強大な力を持っていたんです」 (コウシロウ)
 イメージ
 ―明るい光の中で、愛らしい表情のメイクーモン。
 ―暗い闇の中で、凶暴な表情のメイクラックモンVM。
「エ、エライこっちゃ」 (テントモン)
 テントモンは焦る。
「それから、このデータを見て一つ気づいたことがあります」 (コウシロウ)
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 仕舞われていくフォルダやコンソール。
 最後に現れる、鍵付きファイルのアイコン。
 クリック後に表示される、パスワード入力ダイアログ
 ---------------------------
「ここに、何か特殊なデータが封印されている」 (コウシロウ)
 コウシロウはノートパソコンを操作し続ける。
「これは仮説なんですが、メイクーモンは恐怖心が引き金となって暴走し始めた。
 本来、メイクーモンが持っているはずの、優しさ、素直さ、メイコさんへの思い出……。
 そういった温かい記憶を封じ込めることで、邪悪な部分を増大させたのではないかと」 (コウシロウ)
 イメージ
 ―お台場のショッピングモール
 ―抱き合うメイクーモンとメイコ。
 ―自己紹介するメイコ、メイクーモンとコウシロウ、テイルモン、ヒカリ、ピヨモン、ソラ、タイチ。
 ―デジヴァイスを見せるメイコ。
 ―温泉テーマパーク。
 ―おにぎりにかぶりつくメイクーモン。
 ―談笑するメイコ、ヒカリ、メイクーモン、メイクーモンの頭をなでるミミ、ソラ。
 ―メイクーモンを後ろから支えるように抱きしめるメイコ。
 ―メイコに寄りかかるメイクーモン。
 ―マンションの風呂の湯船につかるメイクーモンとメイコ。
 ―コウシロウのマンション。
 ―目を潤ませてレオモンにお願いするメイクーモン
 ―野山を駆けまわるメイクーモンと幼いメイコ。
 ―映像は小さくなり、黒く塗りつぶされる。
 ―そこからは、紫色の瘴気が発生する。
 コウシロウのパソコン画面表示されている、パスワード入力ダイアログ。
「つまり、この封印された記憶データを開けることができれば、
 メイクーモンが以前のように、安定した状態を安定した状態を取り戻すことができるかもしれません」 (コウシロウ)
「!」 (メイコ)
 コウシロウの言葉に、メイコは目を見開く。
「安定すれば、オルディネモンも暴走をやめるかもしれない!」 (ジョー)
「一か八かだけど、やってみる価値はあるな。どうせほかに手は無いんだ」 (ヤマト)
 ジョー、ヤマトは身を乗り出す。
「でも、どうすればいいの。記憶データにはロックがかかってるって」 (ミミ)
「……パスワードが必要です」 (コウシロウ)
 ミミの問いに、コウシロウは一呼吸おいてから答える。
 コウシロウのパソコン。
 ---------------------------
 XXXXXXXXXXXX.mbu
 PassWORD
 ファイルにアクセスするにはパスワードを入力してください。
 Pass:
 キャンセル OK
 ---------------------------
「心当たりはありませんか、メイクーモンが選びそうな言葉に」 (コウシロウ)
 コウシロウはメイコに問う。
 全員の視線はメイコに集中する。
「メイちゃんが……」 (メイコ)
 メイコは困惑の表情を浮かべ、左方を振り向く。
 東京湾で、オルディネモンの周りを自衛隊の攻撃による爆発が取り囲んでいる様が目に入る。
 メイコはふらふらと歩いていく。

 東京湾。
 戦車からの砲弾。
 護衛艦からのミサイル。
 ヘリコプターからのミサイル。
 全てはオルディネモンに向かって行く。
 オルディネモンの周りに生じる赤い光の群れ。
 突如、オルディネモンから全方位に向けて放たれる赤いレーザー。
 赤いレーザーはバラバラに動き、虚空を切りさく。
 自衛隊の攻撃はすべて、オルディネモンに届く前に爆散する。
 爆発の光は、オルディネモンを照らす。

 川の側。
 メイコ達はいたたまれない表情でオルディネモンと自衛隊の戦闘を見ている。
「何か、キーワードです。記憶に特別残るような」 (コウシロウ)
「えっと……」 (メイコ)
 沈黙を破るコウシロウの言葉に、メイコは悩む。
「メイコって、名前はどう?」 (ソラ)
 ソラの提案に、コウシロウは応じる。
 コウシロウのパソコン画面
 ---------------------------
 Pass:●●●●●
 ---------------------------
 パスワードが違います。
 ---------------------------
 ビープ音。
「MOCHIZUKIMEIKO、MEI-CHAN、MEI……一通り試してみましたが、違うようです。」 (コウシロウ)
 遠くから聞こえる爆発音。
 コウシロウ達は顔を向ける。
 コウシロウのパソコン画面。
 ---------------------------
 パスワード入力ダイアログ。
 カウントダウン:04:59
 ---------------------------
「何か他の言葉を!」 (コウシロウ)
「……」 (メイコ)
 コウシロウの言葉に、メイコは必死で考える。
 タケル、ソラ、ヤマト、ミミは不安げな表情でメイコを見つめる。
「メイコちゃん、思い出してみて。メイクーモンによく語りかけていた言葉とか、初めて話した言葉」 (ソラ)
「…………」 (メイコ)
 ソラの言葉に、メイコは口に手を当て、必死で記憶を掘り起こす。

 過去。
 メイコの実家。
 一面の田んぼ、遠くにそびえる緑の山。
 縁側で座って向かい合うメイクーモンとメイコ。
 メイコは人差し指を立てながら、教え込むように、メイクーモンに言葉をかける。
 メイクーモンは少し首をかしげながらも、同じ言葉を返す。
 メイクーモンの口は開き、閉じ、開き、閉じる。

「あっ!」 (メイコ)
 メイコは、在りし日の記憶にたどり着く。
 小さく声を上げ、振り返る。
 コウシロウからノートパソコンを受け取り、縁に腰掛け、ノートパソコンを膝に乗せる。
 テントモンとコウシロウに挟まれる形で見つめられながら、キーボードをたたく。
 エンターボタンを人差し指で押下。
 コウシロウのノートパソコンの画面。
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 ファイルにアクセスするにはパスワードを入力してください。

 Pass: ●●●●●●

 閉ざされた錠のマーク
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 認証完了…

 データの展開中です。

 開かれた錠のマーク
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 コウシロウのパソコンの傍らに置かれた、メイコのデジヴァイス。
 画面から四方八方に放たれる眩い金色の光。
 橋の下全体は光に包まれる。

 東京湾。
 オルディネモンは何かに気づいたように振り返る。
「FUWAAAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは、叫び声をあげるとともに、背中から、先端にデジモンがついている触手を何本も伸ばす。
 触手はレインボーブリッジをくぐり、空へと向かって行く。
 その先にいるのは軍用ヘリ。

 橋の下。
 立ち上がって空の方を見つめるメイコ、驚きの表情のヤマト、感嘆の表情のヒカリとソラ。
「何て、入れたんだ?」 (ヤマト)
 問うヤマトに、メイコは振り返る。
「メイちゃんに初めて意味を教えてあげた言葉です。一緒にいてくれて、私とパートナーになってくれて……」 (メイコ)
 メイコはノートパソコンの画面をヤマト達の方に向ける。
 コウシロウのノートパソコンの画面。
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 Pass: DANDAN
 認証完了…
 データの展開中です…
 開かれた錠のマーク
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 回想。
 お台場でメイコとメイクーモン初お目見えの場。
 メイコはメイクーモンを抱え、メイクーモンは上目遣いでメイコの様子をうかがう。
「メイちゃん、みんなが助けてくれただで。無事でよかったな」 (メイコ)
 メイクーモンは笑顔で正面=みんなの方を向く。
 メイコも笑顔でみんなの方を向く。
「だんだん」 (メイコ)
 メイコは頭を下げる。
「だんだん」 (メイクーモン)
 メイクーモンも頭を下げる。
「へっ? なあに?」 (ヒカリ)
 ヒカリは首をかしげる。
「はっ!」 (メイコ)
 メイコは赤面しながら顔を上げる。

 橋の下。
「……ありがとう、ってことです」 (メイコ)
 コウシロウ、タケル、ヒカリ、ヤマト、ソラ、ミミ、ジョーは笑顔をメイコに向ける。
 コウシロウのノートパソコンの画面。
 ---------------------------
 MEICO Digivice。
 処理の進行を示す6本のプログレスバー。
 ---------------------------
 ダイアログ表示。
 データを転送しています。
 デジヴァイスの画像 → デジモンを示す画像。
 プログレスバー。
 ---------------------------
「すべての記憶データが復元し始めました!」 (コウシロウ)

 東京湾。
 無数のデジモン触手に囲まれ、万事休すのヘリコプター。
 焦燥するパイロット。
 突然、デジモン達が目を見開き、動きを止める。
 オルディネモンも、デジモン触手を四方八方に伸ばしたまま、動きを止める。
 オルディネモンの周りの赤い光=デジモンたちの赤い目の輝きから、レーザーのように光が放たれる。
 オルディネモンはわずかに顔を下に向ける。
 オルディネモンの直上の、暗く波打つ空には、赤い輝きが現れる。
 その光を中心に、暗く波打つ空全体には、ひび割れのような直線的な亀裂が走る。
 海中で気絶しているトゲモンとバードラモン。
 2体を包む白い光。
 海上で気絶しているイッカクモンとワーガルルモン。
 2体を照らす虹色の光。
 オルディネモンの直上の光は輝きを増す。
 暗く波打つ空全体に走る亀裂に沿って、光は進んでいく。
 その様を見上げるホーリーエンジェモン。

 橋の下。
 赤い光の線がつながっているアグモンとテントモン。
 驚きの視線で見つめる子どもたち。

 東京湾。
 赤い光の線の近くを飛ぶヘリコプター。
 橋の近くから、オルディネモンとその上空の光を見つめる自衛隊員。

 橋の下。
 赤い光の線はアグモンとテントモンの額につながっている。
 アグモンは思い出す。

 心象風景。
 真っ白な空間。
 見上げるアグモンの上を通り過ぎていく映像。
 ―とても幼いタイチとヒカリとコロモンのシルエット。
 ―幼いタイチとアグモンのシルエット。
 前を向くアグモンの脇を通り抜けていく映像。
 ―幼いタイチとアグモンが駆けて行くシルエット。
 ―仰向けの幼いタイチと、その上にのっかるコロモンのシルエット。
 ―不思議そうな表情のコロモンと戸惑いの表情のタイチ。
 ―オメガモンとその肩に乗る幼いタイチ
 ―傷ついたウォーグレイモンのもとに現れる幼いタイチ。
 ―座って向かい合うアグモンと幼いタイチ。
 ―ユキダルモンに追いかけられる幼いタイチとアグモン。
 ―何かを食べるアグモンと、それを見ているタイチ。
 ―バッグを肩にかけて歩くタイチと、そのバックから上半身をのぞかせているアグモン。
 ―見つめ合うタイチとアグモン。
「思い出したよ、タイチ。僕達は、再び出逢った」 (アグモン)
 心象風景。
 ガブモンの脇を通りぬけていく映像。
 ―足湯につかる、浴衣を着たヤマトとガブモン。
 ―ガブモンとステージ衣装のヤマト
 ―ハーモニカを拭くヤマトと聞き入るガブモン。
 ―メイクラックモンVMに襲い掛かるガルルモン。
 ―何かを叫ぶヤマト。
「そうだよ。それなのに、ヤマトとお別れしなくちゃならなくって。ホントに、つらかった」 (ガブモン)

 東京湾。
 赤い光はワーガルルモンの額につながっている。
 ワーガルルモンは意識を取り戻す。
 心象風景。
 ゴマモンの脇を通り抜けていく映像。
 ―ベンチに座るゴマモンとジョー。
 ―自転車に乗るジョーとその肩につかまるゴマモン。
 ―座って談笑するジョーとゴマモン。
 ―勉強するジョーとラーメンを頭にのせて持ってくるゴマモン。
 ―全力で叫ぶジョー。
 ―インペリアルドラモンと対峙するイッカクモン、ズドモン、ヴァイクモン。
「オイラ、ジョーと一緒に居られるだけでとっても幸せだったよ」 (ゴマモン)
 赤い光はイッカクモンの額につながっている。
 イッカクモンも意識を取り戻す。

 お台場上空。
 赤い光はホーリーエンジェモンの額につながっている。
 心象風景。
 パタモンの頭上を通り抜けていく映像。
 ―暴れるパタモンと必死で抑えるタケル。
 ―見つめ合うパタモンとタケル。
 ―並んで自転車を漕ぐコウシロウ with テントモンとタケル with パタモン。
 ―フェリー乗り場でコウシロウの相談を聞くタケル。
 ―無垢な瞳で見上げるパタモン。
 ―家に来たガブモンとヤマトに応対するパタモン。
 ―ヤマトの質問に凍り付くパタモンと不思議がるガブモン。
 ―コウシロウの部屋からパタモンを連れ出そうとするタケル。
 ―パタモンの異常に気付くタケル。
「感染しちゃった時も、タケルはずっと変わらず優しかったね。ボクのこと、ずーっと心配してくれて」 (パタモン)

 橋の下。
 驚きの表情のコウシロウ、ミミ、ソラ、ジョー。
 心象風景。
 ピヨモンの頭上を流れていく映像。
 ―スクリーンの中から手を振るアグモンとピヨモン。
 ―ソラの部屋で会話するピヨモンとソラ。
 ―『アーレー!』しているピヨモンとパルモン
 ―もんじゃ焼きを食べるソラ、ヒカリ、ミミ、ピヨモン、テイルモン、パルモン。
 ―歪みの穴の中を飛翔するバードラモン。
 ―ソラの部屋で談笑するピヨモンとソラ。
 ―ピヨモンの質問に焦るソラ。
 ―進化の指示を出すソラと突撃するピヨモン。
「そうか、わたし、ソラのこと忘れちゃってたのね」 (ピヨモン)

 海上。
 赤い光はバードラモンの胸につながっている。
 バードラモンは意識を取り戻す。
「ごめんなさい、ソラ。どんなに心細かった……」 (ピヨモン)
 イメージ。
 ―必死で声をかけるソラ。
 ―怒って振り返るピヨモン。

 橋の下。
 赤い光はテントモンの額につながっている。
 心象風景。
 歩いていくテントモンの脇に浮かぶ映像。
 ―歪みに関する解析結果を説明するコウシロウと聞くテントモン。
 ―パソコン画面を食い入るように見つめるコウシロウ。
 ―服を買おうとする動機をタケルに指摘され、慌ててウーロン茶を飲んで誤魔化そうとするコウシロウ。
 ―国際展示場でノートパソコンを広げるコウシロウと脇に控えるテントモン。
 ―サーバ部屋内でお菓子を用意するテントモン。
 ―自棄になりかけるコウシロウと、飄々とした様子で声をかけるテントモン。
 ―バックアップ領域に入ることを拒むテントモン。
 ―コウシロウに別れを告げるテントモン。
 ―コウシロウのもとにノートパソコンを運んでくるテントモン。
 ―メイクラックモンVMを抑え込むヘラクルカブテリモン。
「せやな。ワテとコウシロウはんは、あないにツライ気持ちを乗り越えて、今があるんや」 (テントモン)
 テントモンは歩いていく。

 海中。
 トゲモンは意識を取り戻し、海面に顔を向ける。
 心象風景。
 パルモンの頭上を流れていく映像。
 ―コウシロウのオフィスでくつろぐミミとパルモン。
 ―バスの中で語らうメイコ、メイクーモン、ミミ、パルモン。
 ―コウシロウのノートパソコンに飛び込むパルモン。
 ―もんじゃ焼きのお代わりをせがむソラにせがむパルモンとピヨモン。
 ―タイチ達を部屋まで呼びに来るミミとパルモン。
 ―テーブルの下で退屈そうなメイクーモンと踊りだすパルモン。
 ―町娘風の変装をしているパルモンと喫茶店の衣装のデザインを起こすミミ。
 ―歪みの穴の中から振り返るパルモンと不安そうなミミ。
 ―帯でぐるぐる巻きにされるパルモンと、それを引っ張ろうとするミミ。
 ―ベッドの上で談笑するミミとパルモン。
 ―インペリアルドラモンとの戦闘を終えた直後の、プカモンとタネモン、ジョーとミミ。
 ―サーバ部屋に格納せずに、デジモン達を連れていくことを提案するミミ。
 ―オーガモンとの戦い方について話し合うミミとパルモン、それを聞くメイコとメイクーモン。
「思い出したわ、ミミ。全部、大事な思い出。私たちは最高のパートナーだってこと」 (パルモン)

 東京湾。
 オルディネモンの頭上の光は輝きを増していく。
 オルディネモンの側をかすめるように、レインボーブリッジに光の柱が降り立つ。
 光の中から現れるのは、メタルガルルモン、ヴァイクモン、ロゼモン、ホウオウモン。
 離れた場所からオルディネモンの元へ向かう、ヘラクルカブテリモン、セラフィモン。
 オルディネモンはゆっくりと、集合したデジモン達の方に向く。

 オルディネモンの中。
 青いファイバーケーブル集まり。
 中心から焼けるように穴が広がり、現れる紫色の空間。
 磔にされているテイルモン。
「……はっ!?」 (テイルモン)
 テイルモンは、意識を取り戻す。

 橋の下。
 頭上を走る赤い光の線を見上げるアグモンと子どもたち。
「ヒカリ!」 (テイルモンの声)
 赤い線はオレンジ色を帯びる。
 テイルモンの声はヒカリ達に届く。
「待っていて、私も行く!」 (テイルモンの声)
 赤紫色の背景に、金色の小片が舞う空間を、テイルモンは泳ぎ進む。
「今すぐ、ここから!」 (テイルモン)
 テイルモンの行く先を阻むように何かがはじけ、テイルモンは後方へ押し戻される。
「くっ……ヒカリ!」 (テイルモン)
 テイルモンは必死で前に進みながら、ヒカリを呼ぶ。
「テイルモン!?」 (ヒカリ)
 ヒカリは真剣な表情で、空に向かって呼び返す。
 ミミ、ソラ、ジョーも空を見上げている。
 ヒカリは走り出す。

 東京湾。
 オルディネモンの頭上の光を中心に、ひび割れた空はゆっくりと回転し始める。
 オルディネモンは全身を震わせながら両手足を垂らし、下を向く。
 オルディネモンに背負われる形となった光は、不吉な電光を帯び始める。
「一体……何が?」 (ハックモン)
 フェリー乗り場付近で、ハックモンはオルディネモンを見上げながら、慄く。
 ひび割れた空は高速回転を始める。
 やがて、ひび割れのような光の線は中心の光に集まる。
 中心の光は大きさと輝きを増す。
 中心の光から上空に向かって光の柱が起き上がる。
 光の柱は、根元から脈動のように太さを増し、紫色の光が空に向かって血液のように送り込まれていく。
 川近くから、建物を挟んで見上げる子どもたちの目に映るのは、
 不吉な紫色の光の柱が空に突き刺さり、暗く波打つ空に波紋を発生させる情景。
 レインボーブリッジに集まったデジモン達は、オルディネモンから発せられる圧に耐えつつ、様子をうかがう。
 オルディネモンの背の光の柱は蠢き、赤黒い電光と金色の小片をまき散らす。
 赤黒い電光の一部が当たり、意識を取り戻すドリモゲモン。

 デジタルワールド。
 波打つ空を貫き現れた紫色の光は、デジタルワールドの荒野に突き刺さり、赤黒い稲妻を降り注がせる。

 東京湾。
 背中から紫色の光を吹き出し続けるオルディネモン。

 オルディネモンの中。
 赤紫色の背景に金色の小片が舞う空間を、テイルモンは泳いでいく。
 その近くを、メイクーモンは漂流する。

 東京湾。
 オルディネモンの背から吹き出し続ける紫色の光は、暗く波打つ空を波立たせる。
 その様を、ハックモンは遠くから見ている。
「人間との絆の記憶が、新たな力を呼び覚ましたのか……?」 (ハックモン)
 ハックモンはつぶやく。
 オルディネモンは口を半開きにし、仰け反るような姿勢で身を震わせている。

 海岸近く。
 ヒカリを先頭に、子どもたちとアグモンはオルディネモンの姿を見上げている。
 東京湾では、オルディネモンの背中から紫色の光が吹き出し続けている。
 上空では、オルディネモンによって呼び出されていたデジモン―もんざえモン、チューモン―が空へと向かって登っていく。
「何が起きているの?」 (ミミ)
「記憶が、戻ってる……?」 (ソラ)
「リブート前の記憶が戻っているのか、デジモン達に?」 (ジョー)
 ミミ、ソラ、ジョーは次々に疑問を口にする。
「……はっ!」 (コウシロウ)
 コウシロウはノートパソコンのカメラをオルディネモンに向ける。
 コウシロウのノートパソコンには、オルディネモンのサーモグラフィのような映像が映し出される。
 立ち昇る光は緑色、光に接するオルディネモンの背中や翼の付け根は黄色、翼や手足の先端は赤に映し出される。
「オルディネモンにも、明らかに変化が見られます」 (コウシロウ)

 コウシロウのオフィス。
 照明の落ちた部屋の中、ディスプレイがつけっぱなしになったパソコンと、うなりを上げる巨大なサーバーマシン。

 海岸近く。
 コウシロウのノートパソコン。
 ---------------------------
 オルディネモンのサーモグラフィ。
 ↓
 白い背景、赤線のグリッド、オルディネモンの線画を黒く塗りつぶしたような画像。
 オルディネモンの中に閉じ込められた赤い『0』『1』『2』。
 オルディネモンから外に出て行く緑の『0』『1』。
 ↓
 黒い背景、緑のグリッド、オルディネモンの線画を黒く塗りつぶしたような画像。
 オルディネモンから外に出て行く緑の『0』『1』。
 新たに浮かび上がる画像。
 ―石畳の上で抱擁しあうメイクーモンとメイコ。
 ―メイクーモンを紹介するメイコ。
 ―デジヴァイスを取り出すメイコ。
 ―笑顔で迎えるソラ、ピヨモン、ヒカリ、テイルモン、ミミ、パルモン、タケル、パタモン。
 ―朝ご飯を食べるアグモンとテイルモン。
 ―棚の上で油断していたテイルモンに迫るピヨモン、ゴマモン、パルモン、メイクーモン。
 ―メイクーモン、姫川、メイコの並びに、近づいて行くタケルとヒカリ。
 ―玄関に出るアグモンとテイルモン。
 ―足湯で泳ぐメイクーモンとそれを見ているメイコ。
 ―メイコの膝の上でおにぎりを食べるメイクーモン。
 ―メイクーモンの頭をなでるミミ。
 ―メイクーモンが成熟期であることをミミに説明するメイコ。
 ―櫓を見上げるメイクーモンを後ろから抱き締めるメイコ。
 ―メイクーモンを落ち着かせるように声をかけるメイコ。
 ―様子を見に来たタケルと話すメイコ。
 ―浴衣入れの中ではしゃぐメイクーモンと、自分も参加しようとするピヨモン。
 ―浴衣投入口から飛び出そうとするメイクーモンとピヨモン。
 ―ぬいぐるみのフリをするメイクーモンとピヨモン。
 ―自宅のふろでくつろぐメイクーモンとメイコ。
 ―オフィスでお菓子を食べるピヨモンと、負傷したパルモン。
 ―レオモンの足に縋りつくメイクーモン。
 ―キモカワキャラコンテストでメダルを授与されるメイクーモン。
 ―作業台の赤い布の下から顔を出するガブモン、アグモン、パタモン。
 ―テーブル席の白い布の下から顔を出すパルモンとメイクーモン。
 ―メダルを見て目を輝かせるメイクーモン。
 ―学校の昇降口で、レオモンの元から一斉に飛び出すデジモン達と、焦るレオモン。
 ―レオモンに縋りつくパタモン、ガブモン、ピヨモン。
 ―サッカー部の練習試合を観戦するアグモン、タケル、パタモン、テイルモン。
 ―自分とヒカリの写った写真を見て喜ぶテイルモン。
 ―姫川に詰め寄るテイルモン。
 ―ホメオスタシスの言葉に関する自身の見解を述べるテイルモン。
 ―縁側で正座する幼いメイコと、膝の上でくつろぐメイクーモン。
 ―下校時のヒカリに跳び付くテイルモン。
 ―上目づかいでヒカリにアイスをねだるテイルモン。
「封じ込めていた記憶が次々と、復元されています。オルディネモン、いえ、メイクーモンやテイルモンにも」 (コウシロウ)
 コウシロウ、タケル、アグモン、ソラ、ミミはノートパソコンをのぞき込む。
 ジョー、ヒカリ、メイコはオルディネモンの方を見ている。
 流れる映像。
 ―メダルを見て目を輝かせるメイクーモン。
 ―メイコの膝の上でおにぎりを食べるメイクーモン。
 ―自宅のふろでくつろぐメイクーモンとメイコ。
 ―メイクーモンを紹介するメイコ。
 ―石畳の上で抱擁しあうメイクーモンとメイコ。
 ―棚の上で油断していたテイルモンに迫るピヨモン、ゴマモン、パルモン、メイクーモン。
 ―メイクーモンを落ち着かせるように声をかけるメイコ。
 ―ぬいぐるみのフリをするメイクーモンとピヨモン。
 ―自分とヒカリの写った写真を見て喜ぶテイルモン。
「これが、選ばれし子どもたちの力……。まさしく、奇跡」 (ハックモン)
 少し離れたところから、子どもたちの様子をうかがっているハックモンはつぶやく。
「リブートを中止してください」 (コウシロウ)
 コウシロウの声に、ハックモンは反応し、顔を向ける。
「記憶データの復元の完了まで、もう少しだけ時間があれば、リブートの必要はなくなるんです」 (コウシロウ)

 コウシロウはハックモンから、ノートパソコンに目を移す。
 コウシロウのノートパソコンの画面。
 ---------------------------
 カウントダウン:02:19
 起動するコンソール

 ダイアログ:データリカバリー中…
 0.0875
 ---------------------------

 東京湾。
 呆けたような表情のオルディネモン。
 目元を隠す蛇のような髪の毛の、ひし形の模様に宿る、虹色の光。
 立ち上る紫色の光の柱。
 それを取り囲む赤黒い電光。
 オルディネモンからの紫色の光の柱の噴出は止まり、空にすべて吸い込まれる。
 暗く波打つ空の奥で、赤い光の爆発が起き、空の表面が波打つ。
 光が収まるとともに、オルディネモンは飛びあがり、空中で静止する。
 オルディネモンの白い体から金色の小片が漏れ始め、紫色のシルエットが分離していく。
 海岸近くから、子どもたちはその様を見つめている。
「ヒカリ!」 (テイルモンの声)
 テイルモンの声に、ヒカリは反応する。
「……! テイルモン!?」 (ヒカリ)
 オルディネモンの中。
 金色の小片の舞う赤紫色の空間。
 奥の大穴に、テイルモンは引きずり込まれかけている。

 海岸近く。
「まさか!?」 (ヤマト)
「オルディネモンが、安定と調和を取り戻そうとしているんです」 (コウシロウ)
 ヤマト、コウシロウ達が見つめる先で、オルディネモンは紫色のシルエットと実体に分離していく。
「……」 (ハックモン)
 ハックモンは視線を子どもたちから、オルディネモンに移す。
 ハックモンの側に開く歪みの穴。
 ハックモンは飛び込み、穴は閉じる。
 子どもたちは気づいていない。
 オルディネモンの分離は進んでいく。
「KUUUUWAAAAA!」 (オルディネモン)
 実像のオルディネモンは空を仰ぎ、叫び声をあげる。
 コウシロウのノートパソコン
 ---------------------------
 デジモンの一覧。
 データ転送が進行するメイコのデジヴァイス。
 コンソール。

 データリカバリー中…
 完了まで01:39

 リブートのカウントダウン
 0.08125
 ---------------------------
 真剣な表情でノートパソコンを見つめるコウシロウ、タケル、ミミ。
 オルディネモンの方を見上げるソラ、ジョー。
「……頼む……」 (コウシロウ)
 焦るコウシロウの視線の先でリブートのカウントダウンは進んでいく。
 0.0618055555555556

 東京湾。
 オルディネモンは、実体の下に、紫色のシルエットが、翼の先端だけ引っかかってぶら下がっている。
 その様は、衣服を裏返しながら脱ごうとして、袖口部分で引っかかってしまった状態に近い。
 オルディネモンはそのまま上空へと飛び上がる。
 シルエットは引っかかったままであり、オルディネモンの翼の羽ばたきを妨害する。
 オルディネモンは、煩わし気に身をよじりながら、それでも上空へと昇っていく。
「KUWAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは叫ぶ。
 体表には、紫色のシルエットが明滅する。
 オルディネモンの叫びを、デジモン達はレインボーブリッジの上で聞いている。

 海岸近く。
「ダメ、行かないで!」 (メイコ)
 メイコは叫ぶ。
 オルディネモンはその声を振り切るように、紫色のシルエットをぶら下げたまま、
 暗く波打つ空の穴の中へ進路を向ける。
 オルディネモンは、紫色のシルエットを振り回してから背中に背負い、
 自身の羽ばたきとシルエットの動きが重なるようにする。
 動きやすくなったところで、オルディネモンはまっすぐにソラの穴へと向かって行く。
 やがて、オルディネモンの体は穴の中に消える。
 直後、稲妻のような閃光。
 空に走る大きな波紋。
 空の穴から墜落していくオルディネモン。
 暗く波打つ空を背に、現れたのはジエスモン。
 ジエスモンは追撃をすべく、降下する。
 オルディネモンは空中で体勢を立て直す。
 紫色のシルエットは体ときれいに重なっており、もはや、動きの邪魔にはなっていない。
 オルディネモンは残像を発生させながらジエスモンの周囲を飛翔する。
 ジエスモンはオルディネモンの動きを見定め、素早く移動する。
 周遊するオルディネモンの背後をとる。
 一閃。
 ジエスモンは右腕の剣でオルディネモンの翼を引き裂く。
 切り落とされたオルディネモンの右翼の節から先は、白い羽根になって散っていく。
 海岸近くから、子どもたちは呆気にとられながら見上げている。
 レインボーブリッジから、デジモン達は様子をうかがっている。
 暗い空。
 舞い散る白い羽根。
 出現する、仰向けのテイルモン。
 ジエスモンはその様を見届けると、暗く波打つ空に開いた、穴の中へと姿を消す。

 東京湾。
 墜落するオルディネモン。
 巨大な水柱。
 舞い散る白い羽根。

 海岸近く。
「テイルモン!」 (ヒカリ)
 ヒカリは駆けだす。
 海面に落下する小さな何か。
 間も無く浮かび上がってくるテイルモン。
 その体を、すぐに波が飲み込む。
 ヒカリは胸元まで水につかりながら、テイルモンに向かって必死に進んでいく。
「テイルモン! テイルモン!」 (ヒカリ)
 押し波が行く手を遮るのをものともせず、ヒカリはテイルモンの元へ向かう。
 テイルモンは力なく海面に浮かんでいる。
 ヒカリはテイルモンのそばまで来ると、大きく息を吸い、潜る。
 数秒の後、ヒカリはテイルモンのすぐそばで浮上し、テイルモンを抱き上げる。
 テイルモンを抱きしめ、涙を流すヒカリ。

 海岸。
 ヒカリはずぶぬれになりながら、帰還する。
 子どもたちとアグモンは砂浜で迎える。
 ヤマトは、自分も行くつもりだったのか、波打ち際で立っている。
「良かった……」 (ヒカリ)
 ヒカリは、腕に抱いたテイルモンを見ながら、つぶやく。
「ヒカリ……」 (テイルモン)
 ようやく意識を取り戻したテイルモンは、抱きかかえられたままで腕を伸ばし、ヒカリの肩に手を当てる。
「ありがとう」 (テイルモン)
 ヒカリは無言でテイルモンを抱き寄せる。
 ほっとした空気が、子どもたちの間に流れる。
「あっ!」 (コウシロウ)
 が、すぐにコウシロウは真剣な表情になり、ノートパソコンを取り出す。
 コウシロウにつられ、タケル、ソラ、ミミ、ジョーもコウシロウのノートパソコンの画面を見る。
 コウシロウのノートパソコンの画面。
 ---------------------------
 データリカバリー完了
 完了まで00:00

 リブートカウントダウン
 0.00763888888888889
 ---------------------------
「リブートが回避されました……」 (コウシロウ)
 コウシロウは大きく息を吐く。
「スゴイじゃない!」 (ミミ)
「良かった、本当に!」 (タケル)
「ハックモンのおかげだな」 (ジョー)
 ミミ、タケル、ジョー、ソラは安堵の表情を浮かべる。
「いや、まだだ!」 (ヤマト)
 ヤマトの声に、4人は表情を曇らせる。
 ヤマト、メイコは緊張の面持ちを崩していない。
 2人が見つめる先にいるのは、東京湾に浮かぶオルディネモンの巨体。
「違う……あれはまだ、あたしの知ってるメイちゃんじゃ……」 (メイコ)
 オルディネモンはわずかに顔を動かす。
「どうして、あのままなんだ!」 (ヤマト)
 コウシロウはノートパソコンを操作する。
「……進化じゃない」 (コウシロウ)
 コウシロウのノートパソコンの画面。
 ---------------------------
 ディレクトリ、ダイアログなどすべて最小化。
 ↓
 3つのコンソール。

 データモニタリング。
 オルディネモンのサーモグラフィ。
 記憶領域。
 データの分布図。
 ---------------------------
「……何だ、これは?」 (コウシロウ)
 コウシロウはつぶやく。
 ソラ、ミミはコウシロウのノートパソコンをのぞき込む。
「KWEEEEAAAAAA!」 (声)
「はっ!」 (コウシロウ)
 突如響き渡る叫び声に、コウシロウは顔を上げる。

 黒い影の大群は、紫色の瘴気を纏いつつ、四方八方から飛び出してくる。
 すべて、螺旋を描きながら一か所に集まっていく。
 東京湾に身を横たえる、オルディネモンへと。
「吸収しているの!?」 (ミミ)
「データに空白ができたのを利用したんです! イグドラシルが!」 (コウシロウ)
 ミミの問いに、コウシロウは答える。

 公園。
 オブジェの上に腰掛けるデジモンカイザー。
 遠くの空にはオルディネモンへと集中していくデジモン達が纏う、紫色の瘴気の輝き。
「アハハハハ! 完成する! イグドラシルの楽園が!」 (デジモンカイザー)
 降り始める紫色の雨。
 港の倉庫、荷揚げの設備。
 オフィス街の街路樹、歩道。
 雨に打たれたところから、溶けていく。

 東京湾。
 オルディネモンの右の翼の断面に黒い影たちは集まっていく。
 黒い影たちは、オルディネモンの右の翼に取り付き、一体化する。
 伸び上がっていく、黒紫色のアメーバのような膜。
「くっ!」 (メイコ)
 メイコは駆けだす。
「メイちゃんが何をしたって言うの!」 (メイコ)
 メイコは海の中に入り、メイクーモンの方に向かって歩き進んでいく。
 ヤマトは追いかけ、メイコの手を握り、止めようとする。
 メイコはヤマトの手を振り払い、なお進もうとする。

 オルディネモンの右翼の断面から黒い触手が一気に飛び出し、翼の形を成していく。
「これ以上、苦しめないで!」 (メイコ)
 メイコは声を上げる。
 翼の再生したオルディネモンは、一気に飛び上がる。
 メイコ、ヤマトはそれを、驚愕の表情で見やる。
 オルディネモンは、翼がすべて海面から出る高さまで飛び上がる。
 一気に翼を広げ、同時に、レインボーブリッジ方面に向かって黒い触手を展開する。

 レインボーブリッジ。
 黒い触手は橋の下の道路を埋め尽くす。
 橋の上にいたデジモン達は、突如現れた黒い触手に、浚われる。
 黒い触手はそのまま、海上をのたうち、海面を波立たせながら、猛スピードで進んでいく。
 その先にいるのは、子どもたちとアグモンがいる海岸。
「やめてー!」 (メイコ)
 メイコは叫ぶ。
 黒い触手は猛スピードで進んでいく。
 メイコは、突如発生した波しぶきに、顔を覆う。
 その一瞬で、黒い触手とメイコの間にあった数十メートルの距離は詰められる。
 メイコに迫る黒い触手。
「馬鹿ッ!」 (ヤマト)
 ヤマトは慌ててメイコに駆け寄り、自分の体ごと海中へ引き倒す。
 触手は2人の頭の直上を通り抜ける。
 波にもまれながらも、メイコ、ヤマトは海面に顔を出す。
 2人は状況を確認すべく上を見、そして、驚愕に目を見開く。
 間も無く、2人の間の海面を黒い触手が打ち据える。
 発生した波にもまれながら、メイコは砂浜に向かって逃げる。
 黒い触手はメイコを追いかけるように進む。
 アグモンは駆けだす。
 コウシロウ、ジョーも続く。
 メイコは砂浜までたどり着くが、そこで足が絡まり、倒れる。
 アグモンはメイコのそばまで駆け込み、メイコの頭上に跳ぶ。
 防御姿勢をとるアグモン、倒れこんでいるメイコ。
 2人をまとめて貫く軌道で、黒い触手の鋭くとがった先端が迫る。
 スローモーション。
 2人の元へ向かう人影。
 アグモンを右手で浚い、メイコを左腕で抱き上げ、そのまま走り抜けて飛ぶ。
 海岸に突き刺さる触手。
 巻き起こる砂埃。
 砂埃を抜けて海岸を滑る3人。
 アグモンはゆっくりと目を開ける。
 自分を助けた人物の顔を見て、驚愕する。
 ヤマトも、浅瀬からその人物をみて、固まる。
 タケル、ジョー、コウシロウ、ミミ、ヒカリ、テイルモンも固まる。

 レインボーブリッジ付近。
 触手に翻弄されるメタルガルルモン、ヴァイクモン、ヘラクルカブテリモン、ロゼモン、ホウオウモン、セラフィモン。

 海岸。
 うつぶせにうずくまっていたメイコは、目を開き、顔を上げる。
 タイチは振り返り、オルディネモンの方を見る。
(Butter-Fly~♪)
「タイチ!?」 (アグモン)
 アグモンは感激しながらタイチに抱き着く。
「おかえり!」 (アグモン)
 タイチはアグモンを受け止める。
「タイチ……」 (ソラ)
「タイチさん!」 (コウシロウ)
 ソラ、コウシロウは声を上げる。
 タイチはアグモンを下ろす。
 メイコは半身を起こす。
 タイチはソラ達、アグモン、メイコ、お台場の街そして、ヤマトを見る。
 ヤマトは浅瀬に立ったままでいる。
 タイチはヤマトをまっすぐ見る。
 ヤマトはタイチをまっすぐ見る。
 タイチはヤマトをまっすぐ見る。
 ヤマトは、胸のゴーグルを両手で持ち、視線を移し、再びタイチの方を見る。
 タイチは投げられたゴーグルを受け取り、ゴーグルを見、再びヤマトを見る。
「遅せぇよ」 (ヤマト)
 ヤマトは怒る。
 タイチは、受け取ったゴーグルをつける。
「終わらせる、俺たちが」 (タイチ)
 タイチの声に、ヤマトは頷く。
 ヤマトはオルディネモンの方に顔を向けながら、浅瀬を走っていく。
 タイチ、アグモンも海岸を走っていく。
「行くぞ!」 (タイチ)
 タイチはデジヴァイスを取り出す。
 アグモンは走りながら、真剣な表情になる。
(進化シーン:アグモン→グレイモン)
「アグモン進化、グレイモン!」 (アグモン)
(進化シーン:グレイモン→メタルグレイモン)
「グレイモン超進化、メタルグレイモン!」 (グレイモン)
(進化シーン:メタルグレイモン→ウォーグレイモン)
「メタルグレイモン究極進化、ウォーグレイモン!」 (メタルグレイモン)

 レインボーブリッジ付近。
 伸び上がる白い触手。
 ヴァイクモン、ロゼモンは空中で躱す。
 メタルガルルモンは触手に取り付き、駆け下りる。
 オルディネモンは新たに白い触手を伸ばし、3体を蹴散らそうとする。
 ヴァイクモン、ロゼモンは高空に逃げる。
 メタルガルルモンは襲い来る攻撃を、四肢とスラスターを駆使して避けつつ進む。
 メタルガルルモンの体は青く輝く粒子に、ウォーグレイモンの体は金色に輝く粒子になる。
 2つの粒子の流れは並走した後、螺旋を描きながら登っていく。
 2つの粒子の流れはぶつかり合い、白く眩い光となる。
 光の中から現れるオメガモン。
 オメガモンは東京湾上を、波しぶきを立てながら飛ぶ。
 オルディネモンへと真っ直ぐ向かって行く。

 海岸。
 オルディネモンの叫び声が遠くから響き渡る。
 タイチはオルディネモンの方を見ている。
 ヤマトはオルディネモンの方に目を向けつつ、海岸に上がっていく。
「やめて、お兄ちゃん!」 (ヒカリ)
 ヒカリの叫びに、タイチ、ヤマトは振り向く。
「お願い」 (ヒカリ)
 ヒカリは嘆願する。
 ヒカリの腕に抱かれたテイルモンは、困った表情でいる。
 メイコ、ジョー、ソラ、コウシロウ、ミミは状況をうかがっている。
「ヒカリちゃん……」 (タケル)
 タケルは小さくつぶやく。
 メイコ、ジョー
「殺さないで!」 (ヒカリ)
 ヒカリはタイチのそばまで歩いていく。
「誰の心にも、光と闇はある」 (ヒカリ)
 黒い触手の一撃を受け、跳ね飛ばされるセラフィモン。
 直後、ギガブラスターを放つヘラクルカブテリモン。
 吹き飛ばされる黒い触手。
 オルディネモンの翼のすぐ上をすり抜けるオメガモン。
 それを追いかける、オルディネモンの白い触手。
「だけど、私は光を信じていたい」 (ヒカリ)
 ヒカリの主張を、タイチは冷静な顔で受け止める。
「メイクーモンを助ける方法を探して! お願い!」 (ヒカリ)
 ヒカリは困った顔のテイルモンを左手に抱きつつ、右手でタイチの肩をつかむ。
 タイチは少し驚いた顔でヒカリの手を見る。
 ヤマトは2人の様子を見ている。
 タイチは冷静な顔をヒカリに向けつつ、ヒカリの右手を握り、下ろさせる。
 ヒカリは焦りの表情を浮かべる。
 テイルモンは、下ろされたタイチとヒカリの手を見ている。
「お前はそのままでいろ」 (タイチ)
 タイチは光の手を離す。
「えっ」 (ヒカリ)
 ヒカリは弾けたように声を漏らす。
 テイルモンはヒカリを見上げている。
「俺を憎めばいい」 (タイチ)
 タイチは冷静な顔で言う。
「……」 (ヒカリ)
 ヒカリは何かに気づいたような顔になる。

 レインボーブリッジ付近。
 空中へ飛びあがるオメガモン。
 それを追跡する3本の白い触手。
 オメガモンは左手の剣を振り、3本の触手の先端を切り落とす。
 先端を切り落とされた3本の触手は、オメガモンの側面から上へと伸び上がる。
 オメガモンは次の攻撃に備え、剣を振る勢いのまま体をひねりつつ、上を向く。
 そこに迫るもう一本の白い触手。
 白い触手の鋭利な先端は、オメガモン体を突かんとする。
 ロゼモンは上空から急降下し、白い触手を切りさく。
 ホウオウモンは、上空から炎を放ち、白い触手を焼き付くす。
 オメガモンはオルディネモンに向かって突進する。
 白い触手はそれを止めんとオメガモンの正面から伸び上がる。
 オメガモンは剣を構え、白い触手を切りさきながら進む。
 オメガモンは剣を振り切り、白い触手は根元から引き裂かれる。
 オルディネモンの眼前に、オメガモンはたどり着く。

 海岸。
「俺たちはもう選ばれし子どもたちじゃない。選ぶしかない」 (ヤマト)
 ヤマトは告げる。
 タイチは海の方へ歩き出す。
 ヒカリは固まっている。
「どんなに辛くても、自分たちの未来を」 (ヤマト)
 固まったままのヒカリ。
 メイコ、タケル、ジョー、ソラ、コウシロウ、ミミはヒカリの方を見ている。
 タイチはまっすぐに、ヤマトは振り返りつつ、海の向こう、レインボーブリッジの方を見る。
「私」 (ヒカリ)
 ヒカリの声に反応し、タイチとヤマトは光の方を見る。
「きっとお兄ちゃんのこと、許さないと思う」 (ヒカリ)
 ヒカリはタイチを真剣な表情で見据える。
 タケルは口を開きつつ、ジョー、ソラ、コウシロウ、ミミは口を閉じ、
 ヒカリ、タイチ、ヤマトの方を見ている。
「でも、だからこそ」 (ヒカリ)
 ヒカリは並び立つヤマトとタイチの方に歩み寄る。
「私も一緒に戦う」 (ヒカリ)
 ヒカリの言葉を、ヤマト、タイチは冷静な表情で受け止める。
「ヒカリ、私も共に」 (テイルモン)
 テイルモンの言葉に、ヒカリは頷く。
(進化シーン:テイルモン→エンジェウーモン)
「テイルモン超進化、エンジェウーモン!」 (テイルモン)
(進化シーン:エンジェウーモン→ホーリードラモン)
 黄金の輪を通り抜けるエンジェウーモン。
 エメラルドグリーンの瞳。
 黒と紫の縞模様の、2本角。
 全身を覆う薄桃色の柔らかな体毛。
 鋭い爪の生えた四肢。
 先端が二股に分かれた長い尾。
 背の5対の翼。
「エンジェウーモン究極進化、ホーリードラモン!」 (エンジェウーモン)

 レインボーブリッジ付近。
 激しく波立っている東京湾。
 オルディネモンは黒い翼を横に一敗に伸ばしている。
 翼の肩の付け根から放たれる赤い輝き。
 電撃のようにオルディネモンの前面に展開した後、無数の赤い光の玉となる。
 赤い光の玉それぞれは、赤い光線を空に向けて放ち、空は赤い光線に埋め尽くされる。
 照射される赤い光線の中を、
 ホウオウモン、セラフィモン、ヴァイクモン、ヘラクルカブテリモン、ロゼモンは潜り抜けていく。
 やがて、赤い光線は上空にいたオメガモンに集中する。
 オメガモンは盾を構え、赤い光線の集中攻撃に耐える。
 ロゼモン、セラフィモン、ヘラクルカブテリモン、ヴァイクモンに足を掴ませているホウオウモンは、
 オメガモンのもとに駆け付ける。
 バラバラな角度から照射されていた光線は、根元から収束し、オメガモンへの攻撃の勢いを増す。
 ロゼモン、セラフィモン、ヘラクルカブテリモン、ヴァイクモン、ホウオウモンに支えられ、オメガモンは踏ん張る。
 オルディネモンの放った赤い光の玉はすべてをオメガモンに向いており、オルディネモンもオメガモンを見つめている。
 ホーリードラモンは赤い光線を潜り抜け、オルディネモンの眼前に一気に肉薄する。
 至近距離まで近づかれたところで、オルディネモンはホーリードラモンの存在に気づき、顔を向ける。
「ホーリーフレイム!」 (ホーリードラモン)
 ホーリードラモンは緑色の炎を吐く。
「KUWEAAAAA!」 (オルディネモン)
 至近距離からの攻撃をまともに食らい、オルディネモンはよろける。
 海面に落ちかけるが、ひと羽ばたきし、体勢を整える。
 オルディネモンの集中が解けたことで、オメガモンへの赤い光線の照射が止む。
 オメガモンは、光線の照射にじっと耐えながら、右手の砲に溜めていたエネルギーを解き放つ。
 オメガモンの右腕の砲から発射された青白い光弾はオルディネモンの左翼を貫く。
「WOOOOOOON!」 (オルディネモン)
 悶絶するオルディネモン。
 ホーリードラモンは退避する。

 海岸。
 戦闘の様子を見つめる子どもたち。
 視線の先で、左の翼を抉られたオルディネモンは墜落していく。
 ホウオウモン、その足につかまるヴァイクモン、ロゼモン、ヘラクルカブテリモン、オメガモン、セラフィモン、
 ホーリードラモンはその様子を見ている。
 メイコのスカートのポケットからぼんやりとした白い光。
「あ……?」 (メイコ)
 メイコはポケットから光を放つもの―デジヴァイス―を取り出す。

 レインボーブリッジ付近。
 海岸から放たれる淡い緑色の輝き。
 だんだんと強く、白く輝きへと変わる、
 東京湾全体が照らされ、ホウオウモン、ヴァイクモン、ロゼモン、ヘラクルカブテリモン、
 セラフィモン、ホーリードラモンの体も輝き始める。

 海岸。
 メイコは手元のデジヴァイスを見つめている。
 メイコは、デジヴァイスから手を離す。
 デジヴァイスは浮いている。
 デジヴァイスの画面からは白い波紋が広がる。
 波紋に沿って黒は剥がし落とされ、白が現れる。
「あ……」 (メイコ)
 デジヴァイスはふわふわと海の方に降りていき、画面からの光を海に向ける。
 ホウオウモン、ヴァイクモン、ロゼモン、ヘラクルカブテリモン、セラフィモン、ホーリードラモンの体は白く輝く。
 その輝きは粒子となって東京湾にはらはらと降り注ぐ。
 やがて、東京湾全体が眩い光を放つ。
 オメガモンの体が、東京湾と同じように強い光を放つ。
 ソラ、コウシロウ、ミミ、ジョー、タケル、ヤマト、タイチ、ヒカリはその光景を見上げている。
 メイコは、砂浜の上のデジヴァイスに手を触れつつ、見上げている。

 東京湾上空。
 眩く光る東京湾。
 紋章色の輝きを放つ6体の究極体デジモン。
 そこから、6筋の光の糸が、オメガモン向かって伸びあがる。
 6筋の光はオメガモンに胸の中に入っていく。
 オメガモンのマントはふわりとはためき、やがて根元から白い輝きに包まれる。
 次に、根元から水色の線が伸び、細長い六角形を敷き詰めたような模様が描かれていく。
 模様が先端まで達すると、ガラスが割れるような音とともに、マントの表面が割れ砕ける。
 マントは真っ白な翼に変わり、破片は羽根になって舞い落ちていく。
 オメガモンの右腕、メタルガルルモンの目が輝く。
 装甲の色が金色に変わり、開いた口から砲が飛び出す。
 砲からは光が漏れる。
 オメガモンの左腕、ウォーグレイモンの目が輝く。
 装甲の色が銀色に変わり、開いた口から刀が飛び出す。
 刀身は青白い光を纏う。

 海岸。
 タイチ、ヤマトはデジヴァイスを取り出す。
 デジヴァイスは、白い光と、水色の線で彩られる。

 東京湾上空。
 オメガモンの頭部でも変化が起きる。
 目元の装甲の形状が変わるとともに、白い光と水色の線で彩られる。
 全身の装甲は白く変わり、パーツの接合部や紋章が水色の光で彩られる。
 オメガモンは翼と両腕を水平に伸ばす。
 白い羽根がはらりと散る。
 オメガモンの体の、水色の光で彩られた部分が、強く輝く。

 海岸。
 タイチ、ヤマトがかざすデジヴァイスも同じ輝きを放っている。

 レインボーブリッジ付近。
 オルディネモンはゆっくりと体を起こすと、オメガモンの方に向く。
 周囲に無数の赤い光の玉を出現させる。
 赤い光の玉は、攻撃態勢に入るように、バチバチとはじけ始める。

 東京湾上空。
 オメガモンは砲を構え、薄赤い光の奔流を放射する。
 薄赤い光の奔流は、オルディネモンの翼の右端に達する。
 オメガモンはそのまま横になぐ。
 オルディネモンの翼はあっさりと切り裂かれる。
 オルディネモンの周囲の赤い光はすべて破裂していく。
「KUWWAAAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 絶叫するオルディネモン。

 海岸。
 タイチはまっすぐ見ている。
 ヤマトは、やや歯噛みしながら見ている。
 ヤマトは、一歩下がる。
 タイチは握りしめた左手をヤマトの右手に当てる。
 ヤマトは開いていた右手をぎゅっと握りしめる。

 レインボーブリッジ付近。
「KUUUWAAAAAAAAAAAAAA!」 (オルディネモン)
 オルディネモンは天を仰いで雄叫びを上げる。
 黒い翼は、あっという間に再生していく。
 そのまま、掴みかかる手の形をとりつつ、空に向かって伸びあがっていく。
 その先にいるのは、オメガモン。
 オメガモンは刀を振り上げ、天にかざす。
 刀は、根本からあふれ出した光をその身に纏い、まばゆく輝く。

 海岸。
 タイチ、ヤマトはその様子を見つめている。

 レインボーブリッジ付近。
 オルディネモンは小さく叫ぶ。
 その口元に、エネルギーは集まり、赤い光が生じる。
 オメガモンは輝く刀を一気に振り下ろす。
 刀の先から青白い光が伸び上がる。
 オルディネモンの頭部、蛇のような髪の毛の表面に、ひし形を連ねた形の光が浮かぶ。
 口元の赤い光は強さを増す。
 オメガモンは、刀から伸びる青白い光で大きな弧を描く。
 その軌道上にあったオルディネモンの左翼の先、掴みかかる手は、あっさりと切り落とされる。
 オメガモンは、もう一度、刀から伸びる青白い光で大きな弧を描く。
 その軌道上にあったオルディネモンの右翼の先、掴みかかる手は、あっさりと切り落とされる。

 海岸。
 ミミ、コウシロウ、ソラは悔しげに歯を食いしばる。
 ジョーは険しい表情で見つめている。
 タケルは表情をゆがめ、目線をそらす。
 ヒカリは唇をかみしめている。
 ヤマトは悔しげに歯を食いしばる。
 タイチは唇をかみしめている。

 レインボーブリッジ付近。
 切り落とされた2つの翼は緩やかに降下している。
 体勢を崩したオルディネモン。
 オメガモンは青白い光を振り下ろす。
 オルディネモンの蛇のような髪の分け目に炸裂する青白い光。
 頭頂から股まで、真っ二つに引き裂かれるオルディネモンの体。
 刀を振りきったオメガモンの輝く体の周囲を、紫色の瘴気の粒が舞う。

 海岸。
 デジヴァイスを握りしめ、不安げな面持ちのメイコ。

 真っ白な空間。
 メイコは座っている。
「メイ」 (メイクーモンの声)
 聞こえてきた声にはっとするメイコ。
 メイコは声の元を探し、あたりを見回す。
「あ!」 (メイコ)
 メイクーモンは笑顔でメイコを見つめている。
「メイ」 (メイクーモン)
 メイクーモンとメイコは向き合う。
 2人の間には、手を伸ばしても届かないが、話すことはできる距離。
「メイちゃん」 (メイコ)
 メイコはメイクーモンに近づくべく、立ち上がろうとする。
 メイクーモンは右掌を差し出し、メイコを制止する。
 メイコは呆然とした表情で固まる。
 メイクーモンは笑顔のまま、右手を下げる。
「だんだん」 (メイクーモン)
 メイクーモンは頭を下げ、そして、顔を上げる。
「……」 (メイコ)
 メイコの目から零れる涙。
 崩れる表情。
 こぼれそうになる鳴き声。
 口を押さえつける手
「……」 (メイコ)
 メイコは無理やりに笑顔を作る。
 涙をこぼしつつ、左手を振る。
 メイクーモンは笑って両手を振る。
 青白い粒子となって末端から消えていくメイクーモンの体。
 左手を振り続けるメイコの前で、やがて、メイクーモンは消える。
 メイコは左手を胸元に寄せる。
 メイコの目から大量の涙が一気にこぼれる。
 作り笑顔が崩れる。
 両手を胸元で組み、泣き叫ぶメイコ。

 レインボーブリッジ付近。
 オルディネモンの体は東京湾に墜落する。
 巨大な波。
 白く輝き始める海面。
 オメガモンは飛翔する。
 白く輝く東京湾。
 オルディネモンが墜落した場所から立ち上る光の柱。
 光の柱を中心に渦巻く海面。
 光の柱は波打つ空を貫き、空も海と同じように渦巻いている。
 光の柱の表面付近を走る青い電光。
 光の柱はだんだんと細くなり、やがて消える。
 渦も輝きも消え、東京湾は静かになる。

 海岸。
 ヤマト、タイチ、ヒカリ、メイコ、タケル、ジョー、ミミ、コウシロウ、ソラは空を見上げている。
 空を覆っていた水面は消失する。
 世界は朝を迎える。
「だんだん」 (メイコ)
 メイコは、反芻するように、つぶやく。

 お台場の街。
 崩れた建物群。
 陸橋、マンション、歩道橋、駅舎、フェリー乗り場。
 瘴気に侵されて溶けだした場所からは、光の粒子が立ち上っている。
「フフフ」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーはモノレールの線路の縁を、綱渡りのような動作で歩いている。
「フフ、アハハハハ」 (デジモンカイザー)
 立ち止まり、高笑いを始める。
 その左手には、指先ほどの大きさの黒い立方体。
 デジモンカイザーは黒い立方体にキスをし、上着の中にしまう。
 デジモンカイザーは歩き出す。
「誰の中にも子供が隠れている。その子供が遊びたがるんだよ」 (デジモンカイザー)
 デジモンカイザーはモノレールの下に歩道が十字に交差している個所までたどり着く。
 デジモンカイザーは左手から紫色の光の粒を投げ落とす。
 紫色の光の粒は、空中で止まり、歪みの穴を展開する。
 デジモンカイザーは歪みの穴に背中から飛び込む。
 歪みの穴に入ると、その姿はデジモンカイザーからゲンナイに変わる。
「次はデーモンか、ディアボロモンか」 (デジモンカイザー)
 ゲンナイが通り終えると、歪みの穴は消える。

 海岸。
 朝日に照らされきらめく海面。
 ぼんやり前を見つめるメイコ、タイチ、ヤマト。
 いたたまれない表情でメイコを見るヒカリ。
 タイチも、メイコの方に視線を移す。
 悔し気に砂浜を見つめるコウシロウ。
 座り込んでいるミミ。
 ミミの肩に手を当てている空。
 コウシロウ、ミミ、ソラの方を向いているジョー。
 メイコの方を見ているタケル。
 朝日は眩しくお台場の街を照らす。
 そこへ、ツノモン、ニャロモン、トコモン、プカモン、モチモン、タネモン、ピョコモン、コロモンはやってくる。
 ヤマト、ヒカリ、タケル、ジョー、コウシロウ、ミミ、ソラは、胸に飛び込んできたパートナーを受け止める。
 コロモンは、タイチの足元で止まり、タイチを見上げる。
「お腹減った」 (コロモン)
 タイチは優しい表情でコロモンを見つめる。
 タイチは顔を上げる。
 ヤマト、タイチ、ヒカリ、タケルはメイコの背中を見ている。
 ジョー、ミミ、ソラ、コウシロウは違う方を向いている。
 メイコは座り込んだまま、海の方を見ている。

 雪のちらつく空。
「メイコさんが鳥取に帰ってから、あっという間に3か月ですね。
 あの日、壊れてしまった街も、少しずつ復興を始めています」 (タケル)
 お台場。
 『MERRY CHRISTMAS』の電飾に彩られた公園。
 クリスマス衣装を着た女性リポーター。
 公園、東京湾を挟んで反対側に休憩のスタジオを持つTV局の建物。
 工事現場用のフェンスに囲まれた建物。
 資材を下ろす巨大なクレーン。
 ショッピングモール。
 電飾に彩られた大きなデッキ。
 歩道橋。
 海の向こうのレインボーブリッジ。
「入院していたダイスケ君達も元気になり、デジタルワールドでは、
 ホメオスタシスがイグドラシルを強制シャットダウンしたそうです」 (タケル)
 はじまりの街。
 雲の浮かぶ空。
 走り抜けるグリッド状の光。

 タケルのマンション。
 タケルはリビングでノートパソコンを開いている。
「パタモン達は、デジタルワールドに戻りました。今はまだ、世間のデジモンへの風当たりは強いけど」 (タケル)
 TVの映像
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 曇り 7℃ 東京
 テロップ:特集 『デジモン被害』について考える。
 女性キャスターとゲストの男性
 NewsPeak
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「コウシロウさんが歪みの研究をもとに、
 D3無しで2つの世界を自由に行き来するゲートの開発を始めたので……」 (タケル)

 コウシロウのオフィス。
 パソコンに向かうコウシロウ。
 パソコンのディスプレイに浮かぶ大量のコンソール、グラフ。

 タケルのマンション。
 タケルは体をそらし、一息つく。
 再びパソコンに向かう。
 タケルのパソコンの画面。
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 いつかまた一緒に

 デジタルワールドに行けるといいですね
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 ↓
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 その日まで お元気で
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 ↓
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 送信完了しました

 芽心さん 2kB 2005/12/24
            OK
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 公園。
 東京湾沿いの道をヤマト、紙袋を抱えたソラ、タケルは一列になって歩いている。
「タイチが予備校に?」 (ヤマト)
 ヤマトは顔だけ半分振り返りながら、驚いたように聞く。
「うん、ヒカリちゃんが言ってたよ。進路変えたんだって」 (タケル)
 答えるタケルの口からは白い息が漏れる。
「へぇ……」 (ヤマト)
「西島先生に言われたことが忘れられないみたい。お前たちが未来を創れって」 (ソラ)
 ヤマトとソラの口からも、白い息。
「でかい宿題だな……」 (ヤマト)
 ソラはふと足を止め、東京湾の方を見る。
 タケル、ヤマトも足を止める。
 立ち並ぶビル群。
 幾つかは復興を終え、いくつかは修繕、建築中。
「未来を創る、か……」 (ソラ)
 ソラは遠くを見ながらつぶやく。
 その様を振り返ってみているヤマト。
 前に向きなおる。
「……だったら俺は、宇宙でも目指すか」 (ヤマト)
 ヤマトは歩き出す。
 ソラ、タケルも歩き出す。
「ソラさん、髪切ったんだ」 (タケル)
「え? あ、うん」 (ソラ)
「え、そうなの?」 (ヤマト)
「……駄目だなぁ、兄貴は」 (タケル)

 公園内。
 アスファルトで舗装された道と木の植えられた花壇のある場所。
 ミミ、パルモン、アグモン、タイチ、ジョー、ゴマモン、テントモン、テイルモン、コウシロウ、ヒカリは集合している。
 デジモン達は変装している。
 パルモンはキャップとTシャツ。
 アグモンはハットとトレンチコート。
 ゴマモンはプロペラ機パイロットの服。
 テントモンはビリジアンのコート。
 テイルモンは猫耳フード付きコート。
「おーい!」 (ミミ)
 ミミは、歩いてくるヤマト、ソラ、タケルを確認すると、
 笑顔で手を振りながら迎える。
 コウシロウも軽く手を上げる。
 タイチはポケットに手を突っ込んだまま、体を3人の方に向ける。
 ヒカリ、ジョーも3人の方に向く。

 夜。
 ライトアップされたショッピングモール。
 きらびやかな照明に照らされたデッキの上で、カップルや集った友人たちが思い思いの時間を過ごしている。

 歩道橋。
「……」 (タイチ)
 タイチは、緊張した表情で携帯電話を見つめる。
 右、左と逃げるように視線をそらした後、深呼吸する。
 携帯電話を操作し、顔に当てる。
 フェンスに肘をつきながら、電話をかける。
 その様子を見守る、タケル、ヤマト、パタモン、アグモン、ガブモン、ソラ、ピヨモン、ミミ、パルモン、
 テイルモン、ヒカリ、ゴマモン、テントモン、コウシロウ、ジョー。
 パタモンは水色のコート、ガブモンはハットと青のコート、ピヨモンはえんじ色と水色のカーディガンで変装中。
「もしもし?」 (メイコ)
 受話器からのメイコの声に、タイチは背筋を伸ばす。
「ああ……」 (タイチ)
 全員の視線はタイチに集中する。
「八神君?」 (メイコ)
「ああ……」 (タイチ)

 メイコの家。
 キッチン。
 乾燥用の棚の上の皿、立てかけられたまな板。
 テーブルの上の開けられた段ボール箱。
 メイコは両手で電話をとっている。

 歩道橋。
 しばしの沈黙。
「……久しぶり」 (メイコ)
 メイコは、背を伸ばしつつ、無難な言葉で沈黙を破る。
「うん」 (タイチ)
 歯切れの悪いタイチ。
 ソラ、ミミは隣で笑いながら見ている。
「お元気ですか?」 (メイコ)
 タイチは顔を赤くする。
「……荷物、届いた?」 (タイチ)
 メイコの質問には答えず、タイチは空を見上げながら聞く。

 メイコの家。
 キッチンのテーブルの上の赤い封筒のメッセージカード。
 Merry Xmas!
 段ボール箱の中のプレゼントボックス多数。
「あ、はい。今日届きました」 (メイコ)
 メイコは段ボールの方を見ながら、笑顔で答える。
「皆さんからのクリスマスプレゼント、すごくうれしかったです」 (メイコ)
 メイコは微笑みながら答える。
「だんだん」 (メイコ)

 歩道橋。
 タイチはほほ笑む。
 そして、次の言葉に向けて、緊張を高める。
「……あのさ……」 (タイチ)
 タイチは、言葉を選ぶように止まる。
「……」 (メイコ)
 電話の向こうでメイコは笑顔で待つ。
「……」 (タイチ)
 タイチは険しい顔で固まる。
 ジト目のヤマト、ソラが両脇を固める。
「うっ!」 (タイチ)
 タイチは全員に取り囲まれる。
 一瞬逃げ場を探すが、すぐに観念し、携帯電話を顔に当てる。
「いろんなこと、あったけど」 (タイチ)
 ヤマト、タケル、ヒカリ、ジョー、コウシロウはタイチを見つめる。
 電話の向こうでメイコは笑顔で待つ。
「何があっても」 (タイチ)
 ソラ、ミミはタイチを見つめる。
 電話の向こうでメイコは笑顔で待つ。
「……」 (タイチ)
 歩道橋の下からは、一人の男子高校生が、学生の集団にからまれながら電話を架けさせられている姿が確認できる。
「……」 (タイチ)
 パルモン、ピヨモン、パタモン、ガブモン、テントモン、テイルモン、ゴマモン、アグモンはタイチをみつめる。
「えっと……」 (タイチ)
 アグモンは跳び上がり、タイチの脇のフェンスに乗りかかる。
 タイチは驚いてアグモンの方を向く。
「ボク達は、ずっと仲間だから!」 (アグモン)
 呆気にとられるタイチ。
 電話の向こうで呆気にとられるメイコ。
(Butter-Fly~♪)
 メイコは目を閉じ、笑顔で頷く。
 タイチ達一同は反応を待つ。
 電話の向こうのメイコは笑顔を浮かべつつ、両目に浮かんだ涙を左手で拭う。
 ヤマト、タケル、ヒカリ、ジョー、コウシロウ、ソラ、ミミ、
 パルモン、ピヨモン、パタモン、ガブモン、テントモン、テイルモン、ゴマモン、アグモンは、タイチをみつめる。
 タイチは、ほほ笑みながら電話を顔に当てている。
 遠くから聞こえてくる、女性の一団がはしゃぐ声。
 ちらつき始める雪。
 タイチ、アグモンは空を見上げる。
 雲がまばらに浮かぶ空から、雪ははらはらと振ってくる。

(エンディング:Butter-Fly♪~)

 暗闇の中、デジタマが孵る音が鳴り響く。

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 この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称などは架空であり、実在のものとは関係ありません。
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